紙の本
現代農業の意外な弱点
2019/04/30 07:17
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投稿者:コンドル街道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
先進国では食糧難が無縁となったように見える。しかし植物学の観点から見れば大きな間違いで、食糧難の可能性はむしろ高まっていることを記した本。収穫量が多く育てやすい、そして出来れば味の良い、そんな品種が優先的に栽培されるようになった結果、遺伝子的には同じようなものが大量に繁殖するようになり、病害虫に対してはかえって脆弱になってしまっている。
主食だけでなく、嗜好品や現代工業に欠かせないある植物も取り上げられている。
そして悲劇を回避しようとする科学者の闘いも。
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作物の病害虫に対する脆弱性。特に、クローンや単一種による遺伝的多様性の減少と、バイオテロのリスクの増大。
在来種を育てること、ちょこちょこいろいろな種のものを育てること、生物学的多様性を保つ努力に協力すること。ちと厚みがくたびれる。
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読み応えのある本。私達が日頃何気なく食している食料はいつだって絶滅の危機にあることを教えてくれる。例を上げれば19世紀にアイルランドで発生したジャガイモ飢饉。微生物が北アメリカからヨーロッパに何らかの理由で持ち込まれ、当地の主要食物のジャガイモが枯死。飢饉に陥ったアイルランドでは人口の20%が餓死したとも言われている。
疫病をもたらす病原体や害虫と植物学者は常に対峙しており、植物の種子は研究に欠かせないものである。その種子を収集し守るために文字通り命を賭ける植物学者が存在する。それは種子がなくなると人間そのものの存続がおびやかされる使命感で動いている。
第二次世界大戦中、ドイツ軍に囲まれたロシアの植物学者たちは種子コレクションを守って飢餓で倒れていった。今日ではビル・ゲイツ主導のもとで世界最大の種子バンクがノルウェー北極圏の島に存在する。
何をすべきか。筆者は一つの種(カボチャでもなんでもいい)を蒔いて、成長を観察・記録することを勧める。そこには発見があり、食物のことを考える小さな一歩になる。
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作物の多様性の無い状況が人間にとっていかに危機的かの過去の事例ストーリー。現在取り組まれているプロジェクト(種子コレクションやプラントヴィレッジ)の紹介。いま我々にできることは何か。等々。
地産地消、食卓の多様化、庭の植物の自然勾配を頑張ろうかな。庭の植物で、植物の研究に貢献できるやうなプロジェクト、日本にはないのかなあ?
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借りたもの。
世界中で単一の食物を生産することで起こる危機――植物、ひいては環境の多様性の消失と、単一故にある特定の病原に脆弱で壊滅してしまうこと――に警鐘を鳴らす。
今、商業目的で栽培されている農作物の品種以外には、疫病に強いものもある。にもかかわらず、そういったものが何故か栽培されずにいる。
現在の農作物の品種は、味の問題だけではなく「単に上手く持ち込めたから」という、偶然(それも必然だったのか?)からもたらされたものも多い。
多様性が失われると、品種改良で味も良く疫病に強い作物をつくることもできなくなってしまう可能性は、想像に難くない。
自然の猛威が原因で全滅する可能性だけでなく、人為的な農業テロの可能性、その実例の紹介があり、衝撃的だった。一部のリベラル派が小作人への富の再分配を求め、大地主のカカオプランテーションに打撃を与えることが目的だったようだが、それによって農業政策が立ち行かなくなり、何十万人という失業者を生む。結局、別の農作物にシフトしてしまうという結果に。
後半には、多様性を後世に残すための保護活動にも言及しているが、それは指揮者による研究、保存の視点からがベースで、はたしてどこまで人間の生活に密着し、活かすことはできるだろうか…?
文章はサスペンスっぽくて面白かった。
これら危機について解決策ではないが、そのための布石のようなものが提示されるに留まる。
人間の都合で失ったもののツケは、人間自身に還ってくる。
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近代現代の農業が抱える問題点や今後の技術的な展望を、人間ドラマを通じてグイグイ読ませてくれる。ニコラス·ヴァヴィロフの人生との彼の種子コレクションを命懸けで守り抜いた人達の物語は特に胸に刺さった。あと毛沢東の雀狩り…中国は良くも悪くもつくづくスケールが大きいなと…。
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冒頭から真ん中あたりまでが、歴史大スペクタクルものとして面白かった。
ピサロが活躍した大航海時代に、どのようにしてジャガイモがインカ帝国から持ち帰られたのかについては、当時の航海の状況が仔細に描かれていて、どれほどの奇跡だったのかがうかがい知れた。
ブラジルチョコレートテロは、本来ならカカオ農園を支援するはずのCEPLACの数名のメンバーによって起こされたということにも衝撃を受けた。また、一度発生してしまった病原体は、コントロール不能になるのも、偏った品種に食料を依存していることを思うと恐怖を覚える。
そして何より、第9章の第二次世界大戦中のレニングラードで種子コレクションをナチスドイツから守った研究員の人々の部分がもの凄く熱かった。この章の7ページは特に必見。
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安価な糖分、塩分、脂肪分、たんぱく質に対する基本的な欲求を、どんな形態であろうが季節に関係なく満たそうとすればするほど、それだけ農業は単純化され、しかも地球上に存在する限られた資源を奪うことの単純化された農業のせいで逼塞する生命の多様性に依存せざるを得なくなる。本書は、生命の多様性を守ることで、作物と私たち自身を救うために馳せ参じてきた科学者たちのストーリーを物語る。それは、私たちが解明しなければならない謎に関するストーリーでもある。太古の生命のルールは、この謎を解くのに必要な手がかりをそれほど多くは残してくれていない。(p.19)
おそらく考え得る最悪の事態は、アイルランドのジャガイモ畑を襲った悪魔が、今日の私たちにも襲いかかってくることであろう。19世紀のアイルランド人同様、私たちの食事様式はごく単純なものと化し、少数の作物に依存するようになっている。かつてのアイルランドと同様、少数の作物への依存は、必要性とともに私たちの選択にも起因する。今日の私たちは、単位面積当たり、かつてより多くの作物を収穫しなければならない。だから、最大の収穫量が見込める作物にしばられる。(p.34)
何を買い、何を食べるかを変えることでは曲から救われ、スヴァールバルの趣旨バンクを使わずに済ませられるという主張は、大げさに聞こえるかもしれない。人々が、年がら年中似たようなものを食べている世界でも一向に構わない、と言う向きもあることだろう。今のところ、食物はいやというほど手に入る。たとえばアメリカでは、売れ残った穀物を自分たちで消費すれば、より効率的かつサステナブルなあり方で地球の資源を利用できるというのに。(中略)アイルランドのジャガイモ飢饉が教えてくれるように、ある地域における作物の損失は世界全体に影響を及ぼす。そのことがもっともよくわかるのは、シリア危機においてだ。(p.277)
現代農業のテロに対する脆弱性、ならびに農業テロによってひとたび被害が生じたときの損失の程度は、かつてよりはるかに高まっている。(p.390)
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植物が人間にとっていかに大事なものかがよく分かる。農業の単一化大企業による生産による功罪、それらがいろいろなケースで紹介され、また種子を守る人達の壮絶な人生も語られる。これからの農政に警告を出し、個人として何ができるかを提示する。読み物としても面白く、知らない事も多くとても勉強になった。種子は命である。
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大量生産向けに品種改良されてきた野菜作物。
その一方で多様性が徐々になくなってきた、
今の農業に対する警鐘をならす一冊。
僕たちが普段口にしている作物がどのように栽培されてきたのか、その起源に遡る。
農業関係に携わるものとして読みたい一冊。久しぶりに読み応えのある本を読んだ気がした。
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【世界からバナナがなくなるまえに】
うろ覚えだけどきっかけは、どこかのニュースで見た、ポテチ用のじゃがいもが同じ品種で作られてるから、何か弱点あると一気に全滅しちゃうリスクのお話。
効率性の名の下に、世界中の作物の画一化が遺伝子レベルまで進んでいることの危険性を歴史からお勉強。例えば、かつてアイルランドは同じジャガイモに依存しすぎたために人口が半減。同じような飢餓は生じにくいかもしれないけど、一度何か起こると種が絶滅してしまう可能性はあるわけで。対策は細々と進んでいるものの、赤の女王仮説「同じ場所にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」ことを、人為的に加速してしまってる状況は変わらない。
我々にできることは、限られたグローバルな作物に頼るのではなくて、ローカルなマイナーな作物に目を向けてみること。
バナナなんて食べられないからなくなってしまえば良いとは思いますが、なんでこんな邦題になるかな。
#読書 #食料 #青土社
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2022/9/12読了。読み応えがあった。上橋直子著作『香君上下巻』を読後に参考図書として紹介されていた一冊。
当たり前に手に入れ口にしている食物が今後なくなってしまったら?先人の研究者達はその苦難と格闘しながら今日迄種を護り繋いで来た。
第15、16章を読むにつれ危機感を感ぜずにはいられなくなった。今また人類は地球温暖化や戦争と言う事態を引き起こしその危機を更に早めようとしている。まずはその一端を知る上での必読の好著。
世界の人口→2050年には97億に達し2015年時点より20億増加する。よって出現する害虫や病原体の数は増大し続けてる。それとは反対に害虫や病原体に対処するための訓練を積んだ専門家は輝かしい
世代の病理学者や昆虫学者が引退するにつれ減り続けている。彼らの仕事を引き継ぐ者はいない。心配である。
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上橋菜穂子著の「香君 下巻」でこの本が執筆のきっかけであったと記されていたため気になり読みました。
(香君も自分はかなり好きでした。)
特に生物学的コントロールの使用によって(珍しく)被害を食い止められることができた事例が面白かったです。せっかく収集した貴重な種子が戦火や資金や担い手不足による杜撰な管理によって失われつつある現状に憂いを覚えます。遺伝子組み換えやゲノム編集など技術がどんなに発展しても、(むしろ発展したことによってより一層)持続的に食料を供給し続けるには、自然保護は必要不可欠なのだそうです。何事においても、目先の利益ばかり追求しては遅かれ早かれ、破綻は確定的なのだと改めて思いました。
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母の木のそばでは、この木は日陰で成長することを強いられ、しかも病気を移されたり、害虫の被害を受けたりしやすくなるのだ。そのため、ただ幹の直下に種を落とすだけの木は絶滅しやすい。それに対し、風に飛ばされる種子や、他の生物を引きつけて運ばせることのできる果実を結ぶ木は繁栄する