目次
いのちと平等をめぐる13章 優生思想の克服のために
- 竹内 章郎(著)
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第1部 人の生き死には決められることだろうか?
第1章 重い障がいを持つ人たちの現実
1 重症心身障がい児・者の安楽死は「本人のため」?
「悲惨な状態」か? 安楽死論の五つの区分 「本人のため」論の怪しさ
2 内的意識がわからない既存の社会・文化
眼振によるコミュニケート! 最後まで残る聴力
3 激痛は仕方ないか
激痛の放置という問題 激痛制御の現実
4 〈生命の中の社会・文化〉
社会・文化のあり方次第 〈抽象的孤立的生命観〉の奇妙さ 「自然」に依拠することはできない
5 病・障がい VS.健康・健常か?
単純な対置は危うい ヒューマニズムの矛盾を凝視すべきではないか?
第2章 「死ぬ権利」論
1 死ぬ権利 the right to death の背景
「死ぬ権利」の現状 「死ぬ権利」論への傾斜
2 「死ぬ権利」論の難点(1)――「悲惨な状態」,無意味な生を言いつのる
3 「死ぬ権利」論の難点(2)――歴史上の死の称揚に頼る問題
現世からの逃避は美化できない 「やむをえざる死」は美化できない
4 「死ぬ権利」論の難点(3)――権利論の形式の偏重
フール事件 シセロ事件 ベビー・ドゥ事件 ジェイン・ドゥ事件
5 「死ぬ権利」論の難点(4)――自己責任問題の無視
6 「死ぬ権利」論の難点(5)――生命自体の自己保存傾向の無視
生命の自己保存傾向の三つの証拠 時間的推移の問題 「死ぬ権利」の正当化は無理
第2部 優生思想の根深さと能力による差別
第3章 優生思想の歴史
1 広範な優生思想
優生思想の概要 歴史の片隅の問題ではない優生思想
2 あまりにも隠蔽・看過されてきた優生思想(1)――プラトン
3 あまりにも隠蔽・看過されてきた優生思想(2)――ホッブズ,ルソー,ニーチェ
「契約能力」がなければ獣:ホッブズ 障がい児は邪魔者:ルソー 優生思想は人類愛:ニーチェ
4 あまりにも隠蔽・看過されてきた優生思想(3)――福沢諭吉,平塚らいてう
出産を家畜改良と同じに:福沢諭吉 障がい児の出産は罪悪:平塚らいてう 掃いて捨てるほどの著名人の優生思想
第4章 現代社会にはびこる優生思想
1 英米での優生思想の政策・法制度化
20世紀初頭の英国及び米国の優生政策 優生政策に関する英米とナチスとの協力
2 戦後日本の優生思想の政策・法制度化
戦前以上の戦後の日本の優生政策 70年代までの優生政策的事件 80年代以降の優生政策的事件 サン・グループ事件の深刻さ
3 社会保障制度の中の優生思想
優生思想的「福祉」 精神障がいの伝染病扱い 障がい者支援の中の優生思想
4 健康政策の中の優生思想
ナチス健康政策に似てくる! 現代医療も優生思想と無縁ではない
第5章 近代社会における能力による差別の位置と優生思想
1 近現代社会における人権論の弱点と優生思想
近代人権思想は能力主義に弱い 市民権偏重、社会権軽視
2 優生思想を存続させる学問のあり方の問題
ドイツ民族衛生学の問題 成立期社会学の中の優生学 内田義彦の学問論 人文・社会の学問と生物の学問との切断
3 現代著名人の優生思想
4 商業的優生学と新自由主義,生権力
商業的優生学の深刻さ 優生思想を強化する新自由主義 生権力による優生思想の強化
第3部 身近に迫る生死の決定
第6章 出生前診断をめぐる諸問題
1 出生前診断問題への入り口
出生前診断数の多さ 大問題をはらむ出生前診断 出生前診断をいかに捉えるか
2 出生前診断の技術的進歩とこれに伴う問題
羊水検査から絨毛検査へ 母体血清マーカー検査 新型出生前検査NIPT
3 技術的進展に伴う優生優位思想的問題
問い直されるべき出生前診断:それは「治療」か? それは「予防」か?:社会・文化への問いの忘却 先端医療自体を規定する社会・文化:優生思想の存続
4 中絶が犯罪にならない理由
相当な中絶数 中絶が犯罪にならないカラクリ
5 優生保護法改正[改悪]と反対運動:フェミニズムと障がい者運動
中絶を困難にしながら中絶を推進する改悪論 フェミニズム運動の主張 障がい者運動の主張 「産める社会」論の意義と問題
第7章 「脳死」・臓器移植論の現実が意味するもの
1 「脳死」・臓器移植論周辺の「死なせる」議論
20世紀末の議論 臓器移植法以後
2 臓器移植法と「脳死」判定基準:〈「脳死」に臓器移植が内在する〉
臓器移植法に至る「道」 幾つも疑義がある「脳死」判定基準
3 「脳死」=死体論の誤りの深刻さ
「脳死」者は死んでいない! 脳低温療法という事実と唯脳主義の問題 免疫系の主導性 手放しの礼賛は無理な臓器移植
4 「脳死」・臓器移植が示す大きな問題
「見なし」規定としての死 「脳死」論の無慈悲さ 疑問を封じる「脳死」・臓器移植推進 ドナーとレシピエントへの人間の分断という優生思想 臓器売買の現実が突きつけるもの
第4部 倫理学的議論について
第8章 功利主義と道徳主義――パーソン論/生命の質論 vs.生命の尊厳を含めて
1 問題多きパーソン論と生命の質論
「生物的生命」と「人格的生命」との線引き・二分 重度障がい児・者の排除論
2 生命の尊厳論/道徳主義の「脆弱さ」
生命の尊厳論からの反論 生命の質論に「負けた」生命の尊厳論/道徳主義 生命の尊厳論にも近代人権思想にも頼れない!
3 功利主義の功罪
ベンサム功利主義の概要 個人的功利主義と集団的功利主義 功利主義の「反転」 一筋縄ではいかない功利主義
第8章付論 パーソンという言葉について
1 もともとは仮面という意味
演劇の仮面(ペルソナ) 法律[権利]用語としてのペルソナ
2 パーソンと人間,パーソンの市場性
パーソン[性]と人間[性]は異なる パーソン[性]は他律的存在 パーソン[性]の市場性 人間[性]を隠すパーソン[性]
3 パーソンに関わる平等と不平等
パーソン[性]の平等と人間[性] 人間[性]の平等とパーソン[性]
4 パーソンなる言葉の位置
人間[性]抜きにはパーソン[性]もない パーソン[性]で人間[性]は代替できない
第9章 二重結果論と滑り坂理論
1 二重結果論の行き着く先
二重結果論のための四つの条件 普通に通用しそうな二重結果論
2 二重結果論の問題点
激痛排除の中にある二重結果論 「死なせる」意図がなくても「死なせる」ことを正当化する
3 滑り坂理論の概要
滑り坂理論の発端 滑り坂理論の論理的形態と経験的形態
4 滑り坂理論への非難
論理的形態への非難 経験的形態への非難
5 反滑り坂理論の問題点
安楽死論における自発性と「本人のため」論の問題の看過 「安楽死」を促進する社会的現実の看過
6 滑り坂理論を超えて
滑り坂理論は「弱者」を本当に擁護できるか? 「生かす」vs.「殺す」の対置は問題 「歯止め」が扱えない 滑り坂をなくす提起がない 滑り坂が示す深刻さ 「できる」の強調も問題に
第5部 病や障がいはどのように捉えられるか?
第10章 病の捉え方と人間の捉え方の関連
1 特定病因論的病気観
病は病原菌が引き起こす 〈彼は病「を持つ」〉 特定病因論への批判
2 社会医学的病気観
病は社会が引き起こす 〈彼は病気「である」〉 社会医学的病気観の弊害
3 分子生物学的遺伝学的病気観
病は人間の自然性が引き起こす 最深部からの人間生体の規定 より強固な〈彼は病「である」〉
4 病気観のあり様の深刻さ
健康至上主義の高まりとともに
第11章 障がい概念の革新:「障害者」という言葉,障がい概念の関係性
1 障がい者把握の新たな提起
〈障がいを持つ人〉という把握 普通の人間的ニーズの把握
2 障がい概念における分離的[媒介的]結合から他者性,関係性へ
病気観と障がい観の共通性 所有論の意義 障がいにおける分離性・他者性
3 障がい概念の三区分と「訳語」から
三区分と損傷・能力不全 不利は社会的にのみ存在
4 能力不全disabilityの関係性
損傷,能力不全,不利≒差別 〈能力不全の相互関係性〉 能力不全の意味 通時的次元の能力不全 共時的次元の能力不全 能力不全における他者 共時的次元の〈能力不全の相互関係性〉の一事例 障がい概念における関係性の意義
第6部 より豊かな人間の命のために
第12章 「能力の共同性」論
1 「能力の共同性」論の概要と私的所有論
「沈黙育児」実験 頬笑む能力における他者性・分離性 近代所有論と能力の他者性・分離性
2 所有概念から「能力の共同性」論へ
能力の個人還元主義への疑義 所有概念・言葉の多様性
3 「能力の共同性」論に至る諸議論
カソリック保守派の議論 ロールズの能力の分布の共有資産論 ドウォーキンの資源の平等論 センの基本的潜在能力の平等論
4 「能力の共同性」論の射程――能力の私的所有の成立
「能力の共同性」論への非難への応答 能力の私的所有はやはり「後から」 私的所有制度・私的所有権のある種の普遍性 私的所有制度の下でも「能力の共同性」はある!
第13章 出来事の理由,社会・文化の〈垂直的発展〉から〈水平的展開〉へ
1 出来事・行為の生起と正当化・非正当化
出来事・行為とは何か? 普遍性の標榜の問題 正当化・非正当化以前に 矛盾する行為の現実性
2 社会・文化の〈垂直的発展〉から〈水平的展開〉へ
〈垂直的発展〉と〈水平的展開〉への視点 〈水平的展開〉を阻害する〈垂直的発展〉 パラリンピックポスター事件 〈水平的展開〉も逆円錐形(すり鉢型〉 グループホーム制度も逆円錐形
3 これからの社会・文化のあり方に向けて
「この子らを世の光に」をさらに問う 障がい児の豊かな人格 食事ケアからの〈水平的展開〉 やはり膨大な課題が!
4 個人の内面と世界の俯瞰との結合
〈水平的展開〉論は心情論ではない 知的生産にも必要な〈水平的展開〉 社会変革に及ぶべき生命倫理
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