紙の本
エンタメ性を兼ね備えた小説
2024/01/24 14:38
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
存命中なので「後期」としていいのかわからないが、ある時期以降のマキューアンらしい、リーダビリティやエンタメ性を兼ね備えた小説となっている。
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スウィート・トゥース(甘党)なスパイ小説。
私のなかでマキューアン作品が甘くないから、余計にスウィート・トゥースな作品に思える。
最後まで読んで、もう一度始めに戻って"校閲"したくなる。ほんとうにこの人の振り幅の大きさにはいつも驚かされる。
それからこれは、セリーナ(主人公)のように「自分がすっぽり入りこめるヒロインを探して」小説を読む女性にぜひ読んでほしい作品だ。
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冒頭、話者であり主人公のセリーナは、この物語が、ほぼ四十年前の出来事であることを明かす。1970年代、彼女は若く美しく、小説を読むのが大好きな、ごくふつうの娘だった。家庭環境に恵まれ、数学ができたためケンブリッジに進む。成績は芳しくなかったが、不倫相手であった教授の口利きで諜報機関(MI5)の下級職員として働くことになる。ところが、ある日、スウィート・トゥース作戦の担当を命じられる。反共文化工作のため、有望な作家を支援するプログラムに、現代小説に詳しいセリーナが抜擢されたのだ。
担当の作家は、トム・ヘイリー。大学で文学を教えながら小説を発表している。昇進のチャンスと意気込むセリーナだったが、作品を読み、相手を知るにつけ、トムのことが好きになり、トムもそれにこたえる。関係が親密になればなるほど、素性を隠していることがつらくなり、恋愛と仕事のジレンマに悩むセリーナをよそに、トムの小説は文学賞を受賞し、一躍脚光を浴びることに。ところが、有頂天の二人を待ち受けていたのはスキャンダルだった。
美人スパイの恋愛と任務遂行の間で揺れる心理を描くスパイ小説であり、若い美女のそれほど豊かではない恋愛遍歴を語る恋愛小説であり、70年代英国の文化、政治状況を描いた歴史小説でもある。主人公が彷徨う、ロックが鳴り響き、ヒッピー風俗のサイケデリックな色彩に溢れた70年代の街頭風景の裏で、国際的には東西冷戦、国内ではアイルランド問題に頭を悩ます英国情報部。それだけでも十分に面白い小説なのだが、ヒロインの相手が売り出し中の作家であることが鍵になる。作家を素材にすることで、実名で登場する作家や編集者、批評と文学賞のあり方といった出版界の内情や、創作論に触れる自己言及的なテクストともなるからだ。
事実、セリーナが目を通す、作者の未刊、既刊の小説から採られたらしいトムの小説は、概要にとどまらず、ほぼそのままで短篇小説として読めるような形で作品内に登場する。悪戯心から牧師である双子の弟の身代わりに説教をした兄がそれに魅了された女の狂気に支配され、自分と家庭を崩壊させてしまう話や、自分で家財道具を売り払っておきながら、盗みに入られたと嘘をつく妻に、どうしたことか欲情をつのらせる夫の話などは、マゾヒズムや自己懲罰の心理がにじむ独特の味わいを持つ短篇小説として、独立した一篇として読みたいと思わせるほど完成している。
トムが編集者と交わす文学談義のなかにピンチョンが腰掛けた椅子が登場したり、作家自身が勤務した大学のキャンパスが描かれたり、と文学好きなら、それだけでもかなり楽しめるこの小説は、最後にとんでもないどんでん返しが待っている。最後まで読み進めた読者は「やられた!」と叫ぶや否も応もなく、もう一度冒頭に戻って再び読み返しはじめるにちがいない。それというのも、自ら中級の小説好きと認めている主人公は、「トリックは好きではない。わたしが好きなのは自分の知っている人生がそのままページに再現されているような作品だ」と、作中で意見を開陳しておきながら、この小説自体が、とんでもないトリックであるからだ。
レビューという限界があり、これ以上、そのトリックに��いて触れるのは避けたい。ただ、手法自体は特に目新しいものではない、とだけ言っておこう。中級以上の読者なら、今までに一度ならず目にしているはずである。要は、アイデアを作品として肉付けしていくその手際にある。作家マキューアンの手腕は、自分の手持ちの作品、あるいはこの小説のために新たに考えた短篇小説のモチーフを、すべて、何らかの形で、この小説を形成するモチーフと重ねあわせている、という点に尽きる。一篇の小説を書くために、「小説のための小説」を複数ひねり出すという、きわめてメタフィクション的なあり方である。
作家が小説を書くということはどういうことなのか、何もないところからフィクションを生み出す創作の秘密とは、どのようなものなのかを、懇切丁寧に、それも人を鮮やかに欺くかたちで示して見せるという、はなれわざをやってみせたマキューアンに拍手。ボードレールは『ボヴァリー夫人』を読んで、エンマのなかに、フローベールという男性が入り込んでいることを発見している。男である作家が、女になるということの難しさと、それゆえにうまく成就したときの歓びは、作家冥利というものだろう。セリーナという美女のなかに入りこみ、中年男とのセックスを含むいくつかの恋愛沙汰を経験した作家は何を得たのか、それを知るには、何よりもまず、この小説を読んでみることだ。
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やられた! 見事にやられてしまった!
こんなことがあるから読書は止められない。
この小説を読者が手に取っているという事実がセリーナとヘイリーのその後を、21世紀を生きているはずの2人の状況を説明するという、なんとも心憎いエンディング。
やっぱりマキューアンはすごい。
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またやられたな、この作家に。
確かに70年代の英国の空気を感じさせてくれるものの、まぁ異色のスパイ小説かとパラパラと読み進めていたが、、、最終章で全てが変わる、とんでもない怪物小説家だな。
新作が出ているようなので、数年後には翻訳されるかな?何にしろ追いかける作家に決定。
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こういう作家がいるから本を読むのがやめられない。
人生に降り掛かる事件と、それによる感情の揺らぎを描く一方で、最後に読者を「こういうことだったのか」と驚かせてくれる。
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東西冷戦時代、共産主義に対抗して『動物農場』『1984』を無料で広めるなどスパイ達による情報戦が繰り広げられた!MI5の女スパイと若き作家。冷戦のさなかの甘美な作戦!わくわくしながら読みはじめると…美人で勉強ができるけどおとなしい女学生の思春期が半分近くまでつづく…。初老の教授と一夏の不倫もなんかパッとしない。むしろ妹や友達の方が華やか…。作家との恋愛も普通のOLみたいと見事な肩透かしをくらう。さすがマキューアン!平凡な私の期待をはぐらかしつつ作中作のメタフィクションの世界になっていく。楽しく読みながら、高度なマキューアンの作戦にはまってしまったようだった。
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正直に告白をすると、前半を読みながら冗長な文章に小さく溜息をつくこともあったし、主人公の女スパイ・セリーナに対する微かな違和感をずっと拭えずにいた。この違和感は、一流ではない作家が、自身とは異なる性を主人公に選んだ時に感じる違和感に似ていたので、愚かな事に私はマキューアンはそのタイプなのだろうと早合点をした。
しかし最終章を読み終えた時、それら欠点とも言えるポイントに全て意味があったことを知り思わず唸った。そしてこの「甘美なる作戦」は最初の印象とは全く別の、特別な本になっていた――。
結末を読み終え、幸福感と高揚を感じながら、しかし「裏表紙に書いてあったような、『涙が止まらなかった』というほどでは無かったな」などと考えながらその夜は眠りについた。そしてしばらく経ってから、この本が私(あまり勤勉では無く、政治や歴史に関する記述は読み飛ばしがちで、「結婚して幸せに暮らしましたとさ」的な結末を好む主人公セリーナのような“中級の読者”)に向けた作者からのラブレターであった事がふいに胸に染みるように感じられ、本を読む人間としてなんと幸せであったことかと、そこで初めて涙した。
才能に恋するということ。作家を愛するということ。
そして作家から読者への愛と信頼(“中級の読者”の癖に私はこの作家を疑っていたというのに! )。例え70年代の世界情勢にあまり興味が持てない私のような“中級の読者”であっても、この作品を最後まで読み終えた時、素晴らしい読書体験であったと驚くとともに胸が熱くなるはず。
「トリックは好きではない。わたしが好きなのは自分の知っている人生がそのままページに再現されているような作品だ」
というセリーナに、恋人の新進作家トムは「トリックなしに人生をページに再現することは不可能だ」と返す。
まさにこの本を表すに相応しいふたりのやりとり。作家が人生においてたった一度だけ書けるような、優れたメタフィクションではないだろうか。こんなに再読に胸躍らせる本はそうは無い。
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面白かった。
正直、トリックに長けた小説は面白いと感じても、技巧の問題のような気がして、好きではない。
この小説はなんなのか。
読んだ後、頭がこんがらがる。小説全体がラブレター。
セリーナの幼少期から始まる物語なこともあって、かなり感情移入して読んでいた。
そのあたりが、読後に混乱させられる。
その混乱と困惑の余韻に浸るのも、楽しい。
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絶賛評が多い。「そうなんだろうな、でも…」と中途半端な気持ちになる。マキューアンなのだからして、すごく凝った小説だ。作中作が興味深かったり、「書くこと」について考えさせられたり、メタ的な仕掛けにもあっと驚かされる。でも、でもさ…。
ヒロインのセリーナに感情移入できなくて、なかなか読み進められず、えらく時間がかかった。いや別に主人公に共感できることが小説にとって一番大事とは思わないけれど、共感するにしろ反発するにしろ、その気持ちに寄り添えないと小説の流れにのっていけないのだ。なんでかなあと思うに、やっぱりセリーナが「はっとするほどの美人」だから、ってことなのかも。ちょっと抜けててキュートなんだけど、どうにも「その気持ちわかるなあ」と思えないのよ。
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恋愛小説であり、推理小説であり、仕事小説
何かに分類できない感じ。
そして、なんというか、もってまわったような言い回し
風景や事実にも馴染めず
うんんん、ストーリーは面白いけど
どうしても、小説の中に入り込めない
最後まで、読んでいて苦痛という珍しさ
読解力がないんだろうなと、本当に思ってしまった
すごい挫折感でいっぱいという感想です
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私には合わない。とにかく合わない。
翻訳が合わないのか原作の文章自体から合わないのか、判然としないけど、両方な気がする・・・。
それ必要?っていう描写が多く感じられて、いちいち気取ったようなまわりくどい文にも辟易。
内容も私には何も響かない。
だいたいにおいてロマンティックとかいうフレーズの本は得意ではなかったのになぜこれを読んでしまったのか後悔が押し寄せる。
主人公の感情移行が伝わってこなかったのが後悔の原因かも。読みながら置き去りにされた印象。
女スパイとしての覚悟もあったのかすらわからなかった。
甘いラブストーリーが好きな人にはいいのかもしれない。
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ああマキューアン。苦手なのに読んでしまうマキューアン。すっごいメタな小説でした。でも小説ってみんなそうじゃん?と言っているようなこの作品。読みどころはたくさんあって、セリーナみたいに、「自分を投影できるほどほどのリアル感とハッピーエンド」を求めて小説を読むのは邪道なのか? とか、作家の人生がその作品にどれほど反映されているものなのか?とか、著者自身の自虐的な皮肉とか、出版業界のこととか、作中作がおもしろいとか、語りどころは色々。恋愛小説としてはどうなんでしょう?やっぱ変態ばっかじゃない?(笑)
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マキューアンは文章が濃い。だから読み飛ばしては意味がない。
深い教養とシニカルな知性に裏打ちされた物語は、どれだけ細部まで自分が読み取れているか考えながら読むのが楽しい。
それでいてストーリーは俗っぽいのよね。
今回も作家と美人スパイの、騙し騙されの恋愛劇だからマキューアンじゃなかったらちょっと読む気になれないところ。そこを読ませる話にするのはさすがだし、挿入されたストーリーの数々が素晴らしく、「この話、ここで書いていいの?もったいない!」っていうくらい面白い。特に双子の兄弟の話と泥棒に入られる話。
意外にハッピーエンドだったのが、ちょっと物足りなかったが、数日間、本当に充実した読書ができた。これを約束してくれる作家ってたくさんはいないから、マキューアンの作品の中では特別好きではないが、良かった。
しかし、これが映画化されたら(『贖罪』もそうだったが)様々な味わい深いディテールは失われ、単なるどんでん返しのある恋愛ものになりそう。映画を見て小説までわかった気持ちになってはいけない作家だと思う。
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イギリス、40年前。小説好きな美少女が、恩師・愛人の勧めで諜報機関に就職。地味な仕事。作家に資金提供する工作員となる。作家と恋仲。マスコミにその工作がばれた時。
スパイ映画に出てくる諜報機関、多数の職員が働く職場でもあるのだと再認識しました。