紙の本
理論的には優れた評論だが、実践的には不親切
2001/06/03 01:04
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投稿者:松谷嘉平 - この投稿者のレビュー一覧を見る
センス・オブ・ワンダーの概念を中心にして「SFの原理・歴史・主題」を考察した長篇評論。
〈センス・オブ・ワンダー〉、日本語にすれば〈驚異の感覚〉は文字どおり「感覚」であるので、このジャンルで広く使われている割には、これまで理論的に語られることは少なかったようだけれども、本書は現代の認知科学の成果を援用しながら、明確に分析を行っている。
人が何かを理解するには、「知識を表現するための枠組」である「フレーム」が必要であるという、マーヴィン・ミンスキーの理論に基づき、著者は
[センス・オブ・ワンダーとは新しい世界のフレームを手にした時の心の躍動である](p36)
と定義する。
さて、このように「SFの原理」を詳細に語っていく第一部だけれども、「詳細さ」が科学的な仮説に基づく説明に力点が置かれている分、個々のSF作品が証例として奥に引っ込んでしまっている点は、私のようなこのジャンルに疎い入門者にとっては不満が残るところだ。
例えば、ここでもフレドリック・ブラウンの短編「天使ミミズ」について、先の原理を敷衍しつつ分析して、ファンタジーとSFの違いについて語る部分などは、非常に興味深く読むことができるので、このようなかたちで、もっと作品を前面に置きながら、理論を語るほうが良いように感じる。
ここらへんは演繹法的なものよりも帰納法的な方が私の好みだから、ということかもしれないけど。
この不満は「SFの歴史」について書かれた第二部でも同じくで、その意味では、作品論的な要素の強い第三部「SFの主題」が一番、面白かった。
門外漢の勝手な思い込みを書くと、SFが近年、ムーブメントとして低迷している理由には、それを語る力の衰弱があるのではないかと思う。
本書は、確かに「SFとは何か」ということに関して明確な答えを用意してくれはする、のではあるけれど、「この作品を読まなきゃ!」という衝動を駆り立てるようなスリリングなところが乏しい(まあ、いくつかは、そういう作品を見つけましたが)。
蓮実重彦風にいうなら、今SF評論に必要なのは、そのような「煽動機能」だと思うのだけれど、どうだろうか?
なぜなら、本書自体が明らかにしてるように、重要なのは〈センス・オブ・ワンダー〉を読者自身が「発見」することなのだから。
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SFに関する考察をあらゆる点から行っている本。
読者としてSFが成立するための重要な要素である"センス・オブ・ワンダー"の存在を特に力説しており、SFを考える意味で重要な一冊かもしれない。
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SFの魅力であるセンスオブワンダーについて、あらゆる角度から解説された本。SF・ファンタジー系の小説を書こうとしている人には必読バイブル。
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今まで上手く言葉で表せなかったSF小説の面白さの核心が何なのか、一寸だけは私にも分かったような気がします。
【ラフな本の構成】
SFとは?SF特有の感動と書かれているセンス・オブ・ワンダーとは?ファンタジーとSFの違いは?SFと物語の関係は?SFと科学の関係は?SFに求められる想像力とは?SFというジャンルの特性とは?といったことが1部の「SFの原理」で書かれています。
2部では「SFの歴史」について、最後の3部では現代社会が抱える問題をSFはどのように処理しているのかを「現代のSF」という見出しで書かれています。
【個人的な感想】
今までSFの特有の感情が”センス・オブ・ワンダー”である言われても正直ピンとこなかったのですが、筆者の広い知見と深い考察による文章を読んで、自分がSF小説を読んですげー面白いと思っていた感情は、これのことかと今更ながらに分かった気がします。これこそ、”センス・オブ・ワンダー”でしたw。
ただ、幅広い分野の知見と深い考察がてんこ盛りの内容のため、1回読んだだけでは分かった気にはなるが、自分のものにした言えるだけの理解はまだまだ出来ていないのが正直なところです。とてもとても読み応えがある真面目な本です。といって難解な文章では無く、筆者が小説家でもあるだけあって読みやすくかつグイグイ引き込まれる内容でした。
SFを扱うテーマや登場する道具で区分するのでは無く、読んだときに湧きおこる感情(センス・オブ・ワンダー)で区分とする考えは、私にとっては斬新でかつなるほどと共感出来ました。
この本を何度も読み直して、いずれ自分なりにSFについて整理していきたいと妄想します。
【備忘録;特に印象に残った文章を抜粋】
センス・オブ・ワンダーは新しい世界のフレームを手にした時の心の躍動である。(P36)
ひとつのフレームの逸脱が他のフレームに影響を及ぼし、最終的には世界全体の枠組みが変化を受ける時、そこにセンス・オブ・ワンダーが生じる..(P57)
SFの場合、因果関係を構成する原理に非現実的なものが入り込んでもかまいはしない。<・・略・・>問題は、そうした原理が作品の中であたかも現実であるかのように尊重されているかどうか、という点である。(P58)
(想像力の三つの機能の一つである)発想的機能はフレームやスクリプトに異物を混入させることで生まれる。そうすることで精神は決まりきったルーチンワークから逸脱して活性化する。そこに「発展」と「構成」という想像力(の残り二つの機能)の働きが絡んだ時、人は楽しめる物語が誕生する。(P92)
新奇なものを生み出す奔放さと、矛盾のない世界を構築する精緻さ。二つの一見相反する想像力のせめぎあいから、優れたSFは誕生する。(P135)
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作者がゼロから一緒に考えてくれているように、丁寧でわかりやすい文章。SFのセンス・オブ・ワンダーという体験を作者なりに定義したり、想像力というものを中心に科学とSFの関係について考察したり。SF史も書いてくれており、入門書みたいなも雰囲気だった。
なんとなくわかった気になっている部分を、根底からしっかりと考えている感じで、この本の内容をたたき台にして自分なりに考えてみるのがいいのかも知れない。