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紙の本
ルソーを思わせるカバーの向こうは、土の香のする土佐の国だった
2002/09/18 21:00
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
坂東真砂子が、奈良の大学で建築学みたいなことを学び、イタリアで数年を過ごし、今はタヒチに居を構えていると知ったときは、どうしてこんなに日本の土俗的な世界を描く人が、と思わず作者紹介の住所を読み直してしまった。
土佐の火振村、郷士道祖土家に花嫁がやってきた。奇妙に静まり返った行列、見上げると花嫁の顔は、猿そっくりだったという、幻想的で、どこかユーモラスな出だしは、物語の始まりとしては抜群だと思う。道祖家に嫁いできた蕗の生涯を、明治から昭和にわたって、粘りのある独特な文体と綿密な歴史考証で描くところは、高村薫『晴子情歌』にも似ている。
道祖清重と蕗の夫婦に、出戻りの姉の蔦、子供の秋英、俊介、保夫、春乃、孫の篤、辰巳、ひ孫の十緒子と一族の歴史が濃厚に綴られる。土佐を揺り動かす自由党と国民党の選挙、社会主義と共産主義、小作の自立。日々の生活を離れ主義に翻弄される男達。それに対し、地に脚をつけ揺ぎ無い女たち。当時の東京など都会の様子に触れることもなく、村のなかで一生を終える土佐の普通の人々。彼らの歴史が坂東らしい粘りのある文章で綴られる。蕗が嫁いでから死ぬまでの約70年の、少しの緩みもなく流れる時の重さ。大きく方向を変える日本の政治。
その中で意のままにならない日々を送る人間の心の叫び、それでも時は流れていく、それへのもどかしい思い。人々の思いを余所に、繰り返される淡々とした日常生活。感動とは別次元の、人の一生の重さに圧倒される。そういうところまで『晴子情歌』に似ている。この二作を読めば、日本の近代がどのようなものであったかが見えてくる。
この本は、カバーも重厚なデザインで、文章の密度も大変に濃い。それが決して付け焼刃でないことは、知識をひけらかすだけの底の浅い衒学的なところが少しもないところにも現れている。華麗ではない、しかし絶対に軽薄には流れない大河のごとき小説。
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