紙の本
挑戦、受けて立ちましょう!!
2002/05/28 21:41
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投稿者:ピエロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
まず、冒頭の著者自身による序文がふるっている。ミステリの中には、探偵に有利で読者に不利なアンフェアなものが多いと苦言を述べてから、しかしこの作品は違うと大見栄をきっている。その後で、読者は探偵役のゲスリン大佐と同じ情報を与えられる、ゲスリンはこの情報で犯人を見つけ出した。もし読者も見つけられたならゲスリンと同じくらいに優れていて、見つけられなかったらゲスリンよりも劣っていると挑戦してくる。本格ミステリ好きならば、この挑戦を受けて立つしかないではありませんか!!
内容は、ある殺人事件が起きるが警察ではラチがあかない。困ってしまった副総監は、ゲスリン大佐に泣きついて、遠く離れた地で休暇を楽しんでいる彼に、裁判での証言の記録を送りつける。ゲスリンは現場に出向くことなく、その記録を読んだだけで真犯人を突き止める、といった安楽椅子探偵ものです。
確かに必要な情報はすべて読者の前に出されていますが、理路整然と犯人を名指しできる人は少ないのでは? それともゲスリン大佐より劣っているのは私だけでしょうか? 解決場面を読む前に、一度本を置いて、自分で名(迷?)推理をしてみましょう。ゲスリン大佐との知恵比べを楽しんでください。
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とりあえず読み始めて一番驚いたのは情景描写とか事件の場面とかは一切書かず検視審問の時の証言のみで事件を描き、状況を知らせ、証言を知らせると言うこの簡潔にして分かりやすい物語の進め方。ここまでさっぱりしてくれると逆にすがすがしい。パズル小説だね。でもその簡潔さがいい。ゲスリン大佐の推理は逆説的で面白い。またほとんど気にしなかった矛盾点をついた推理は感心。でもこれは普通の人が読んだら怒り出すだろうなぁ。
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警官と探偵役の書簡、および裁判の傍聴記録のみで構成されており、作者が非常に「フェアプイ」に拘った事が感じ取れる。推理の着眼点やその過程も地に足のついた実に堅実なものになっているが、反面いささか「地味」でもあり、その点では評価が分かれるかもしれないと感じた。
僕自身は評価したいと思うが、いわゆる「新本格」を通り過ぎた世代としては全体的に若干、手垢がついてるような感じがするのは否めない。
もちろん、書かれた当時としてはそんなことはなかったのだろうけど。
が、その一方でこの動機は逆に目新しいのではないかと思う。森博嗣的な「動機が必要ですか?」というある意味スマートな姿勢を吹っ飛ばすだけの強烈な印象がそこにはあった。
探偵役のあまりにあんまりな言い方にちょっと度肝を抜かれたというのもあるけれど……。
派手さはないが端正なパズラーで、かつ紙数もそう多くないのでこれからの季節、小旅行の合間合間にメモを片手に読まれるとよいのではないかと思う。
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アンソウー・ゲスリン・シリーズ
殺害されたマックスウェル・ブラントンの裁判記録。
ブラントンの浮気癖。愛人たちの証言。事件当夜のそれぞれの動きに対する証言。被害者の動き。
ルーカスからゲスリンへの捜査依頼。
2010年10月14日読了
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珍しいスタイルの謎解き本である。
資産家が屋敷で殺害され、邸内にいた10人が被疑者になるが、検視法廷で詳述される、それぞれの証言により犯人が判明できるという。タイトルの'迷路'は、被疑者多数の状況で、犯人が特定できない比喩として使われている。殺害があったフロアや犯行現場の見取り図が犯人に繋がる情報として開示されている。被疑者の証言から犯人を特定することにお手上げになってる中で、現場にいないゲスリン大佐(名探偵の触れ込み)は、送られてきた法廷記録だけで真相に到達する。読者はゲスリン大佐と同じ条件のもと、すべての情報が公平に提供されていて、犯人がわかる挑戦になっている。ゲスリン大佐が、犯人を名指しするプロセスには軽さを感じるが、この事件の後、関係者のその後の様子が綴られている構成は、事件の余韻を静かに閉じさせていく趣きが感じられる。