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紙の本

もう幻のような。

2002/06/07 00:46

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:佐々宝砂 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 作者山口泉は、『宇宙のみなもとの滝』で第1回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した人である。他にも『旅する人びとの国』などの傑作をものしているが、それら代表作は絶版になっている。ただ単に売れていないので絶版なのかも知れないが、ひょっとしたらこの人の本は禁書になっているのかも知れない…危険な問題提起に満ちた山口泉の本は、読者にそんな想像を抱かせる。

 この『永遠の春』という物語も、例に漏れず危険な本だ。山口泉は触わっちゃいけないところに触わるのが好きらしい(私も好きだが…)。この本の主要テーマはずばり「生殖」。出生率低下に歯止めをかけるべく、国家プロジェクトとして超越生殖映画「永遠の春」の製作が決定され、その製作に携わる人々の周辺が描かれる…というのが一応の枠組み。だがプロットは一筋縄ではいかない。物語は複雑怪奇な入れ子構造を持たされており、読み解くことは容易ではない。ここまで複雑にする必要があるのかどうか、正直なところやや疑問だ。また一応は完成した物語になっているとはいえ、重いテーマをたくさん詰め込み過ぎている上に、消化不良のモチーフだらけなので、読み終わってスッキリしない。しかし、もやもやしたところが残るにせよ、読後感は悪くない。

 この物語には、作中作として、「地上でいちばん、美しい時間」という小説が挿入されている。大人にはポルノ、青少年には教育映画となるはずの超越生殖映画「永遠の春」の原作ということになっているのだが…国民繁殖力の大祝典の開催と、生殖競技の選手団に入場が大げさに描写されるこの作中作、どう料理してもポルノになるとは思えない。むしろ生殖意欲をなくさせると思う。そういうわけで、この本、性欲を減退させたい人におすすめ(そんな人がいたら、だけど)。もちろん、重いテーマが好きな人、フェミニズムに興味のある人、近未来管理国家の話が好きな人、などにもおすすめ。小説としてはどうもイマイチだという気がするけれど、こういう類のものを書く人は、やはり山口泉の他にいないのだ。

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