とんかつ…和洋折衷の精華
2000/08/16 13:50
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投稿者:こばある - この投稿者のレビュー一覧を見る
黄金色に輝くご神体に手を合わせた後、あらかじめ数片に切り分けられたそのご神体のひとつを、お箸でおごそかにつまみ上げる。口にそっとふくむと、その瞬間には衣のザラッとした粗い舌触りが残ると思いきや、またたく間にそれが油とともに舌の上にすーっと溶け出して、やわらかな甘みが口中に広がる。心地よいサクッという音を立てて突き立った歯が肉の分厚な感触を得るのもつかの間、肉汁の深い甘みが一気にはじけとぶ。時折、皿からあふれるように盛り付けられたキャベツの千切りを口にすれば、口中の油が洗い落とされて、ともすると圧倒的なボリュームの前で萎えがちになる食欲が再び奮い立ってくる。しじみの味噌汁にしようか豚汁にするか、レモン汁はふりかけるか、からしはどれくらい、ご飯はやはり大盛りか。とんかつのことを思い浮かべるだけで、唾液は溢れ出し、心中は穏やかではいられなくなる。とんかつは、日本が生み出した肉料理の至上の逸品だ。
本書は、律令国家以来の肉食忌避の慣習が破られ、西洋料理と日本料理とが本格的に邂逅することとなった明治の初めから数えておよそ60年の後、和洋折衷料理の精華として登場したとんかつの成立史を丹念に跡付けた好著である。
一見単純なことに見えるけれども、表面の衣を焦がすことなく分厚い肉の芯まで火を通すということは、揚げ油の温度を微妙に調整していく繊細な技術が要請されるものであり、「天ぷら」によって培われた日本の独特の揚げの技術がなければ可能とならなっかったものと著者は指摘する。その他にも、きつね色にふんわりとしたボリューム感のある揚げあがるように、大粒のパン粉を利用するといった工夫、添え物としてのキャベツの発見等、とんかつは日本人が培ってきた料理に関するノウハウや創意工夫が結実して誕生したということが、本書を読むことで自然と理解されてくる。
政府が鹿鳴館など社交の場を通じて、本格的な西洋料理の普及に躍起になっている一方で、高級な西洋料理になかなか馴染むことのできない庶民の方は、カレーライスやコロッケなど、米飯に適応しやすい独特の和洋折衷料理を生み出した。とんかつは、そのような庶民が生み出した、日本の土壌に根づいた肉料理の精華として結実した逸品。「折衷」と言うと、どこか節操のなさやオリジナリティーの欠如といったことをイメージしがちだが、多様で柔軟性に富んだ食文化を形成してきた日本人のしなやかでしたたかな智恵を、そこには見ることができるように思う。
読後はやはり…とんかつ屋へ!
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とんかつの起源を求めつつ、明治期の疾風怒涛の食文化を熱く語る。一般的に、こういうくだらないことを、真面目に、熱く研究している人が書く文章ってのは、無茶苦茶面白い。
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とんかつの年代記、というより、明治期における食生活の変容をとんかつを通してフォローしたもの。食肉の受け入れや、材料の確保といった具体的なエピソードがおもしろい。
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半分読んでもとんかつが誕生しないという謎構成の本。
内容はとんかつにとどまらず、牛肉料理、アンパン、コロッケ等々という、いわゆる「洋食」はじめて物語。
ところどころに見える「昔の食事は良かった」的な臭いが不快なせいか、読んでいると腹が空かずに眠くなる。2回寝落ちした。
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肉文化からとんかつ、その他もろもろまで。
とにかくどこか懐かしい香りのする
思わず食欲が湧き出てしまう(?)1冊です。
タイトルはあのようになってはいるものの
実はとんかつだけではなく
あんぱんもあればライスカレーもある
豪華よりどりみどりの食に関する所なのです。
肝心のとんかつは?
となってしまいますが
いろいろな歴史を知ることが出来るので
よしとしましょう。
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タイトル通り、日本で洋食が始まった頃のお話です。
最初のうちは結構大変だったんだなー、と、今の感覚からすると不思議な話が色々と書いてあります。
でもコロッケを作るときに皮つきのまま裏ごしすると皮が肉の切れ端みたいに見える!っていうのはちょっと笑っちゃいました。確かに見えるかも……。
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大晦日、2冊目。もうすぐ、実家に出発です。
年末最後にしては、さえない本を選んでしまった。
でも、とてもおもしろい。
『とんかつの誕生』。とんかつとなっているが、カレーライスやあんパンなど、日本で西洋料理を換骨奪胎して、自分の料理にしてしまう歴史。
このバイタリティ、エネルギーをもってしたら、もう少し都市計画制度も、日本らしいものにできるなと空想したりする。
特に、おもしろかった点。
(1)1874年に木村安兵衛が、発売を始めたあんパンを、翌年には、山岡鉄舟が購入して、明治天皇が食べられた。(p134)
(2)大正6から9年の間の家庭の食事構成は、和食89.4%、洋風9.2%、中華風1.1%。(p213)
自分の親父に聞いても、昭和の最初でも、食卓は、お膳がひとりずつあって、父親を上座にして座り、お椀はお茶でゆすいで、またお膳の引き出しに入れていたというから、浜松の田舎はほとんど、和食、ご飯と味噌汁と漬け物だけだったようだ。
(3)関東大震災以降、そば屋が不況となり、畳席からいす席にして、カレーライスなどの洋食もだすようにして生きのこりをかけた。(p220)
生活の歴史は、意外と身近に感じられ、また、田舎で育ったので、その分古い時代もよくわかるので、とてもおもしろい。
絶版が惜しい本。
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「とんかつの誕生」という引きの強いタイトルですが、とんかつはなかなか誕生しません。日本人と肉食、洋食との関わりの歴史。肉を食わぬ奴は文明人ではない、という風潮と、反洋食。とんかつはまだかと進めていくと、肩を透かしてあんパンが誕生したりする。そしてカツレツからとんかつへの推移。その時代の風景が浮かんでくるような、よき本でした。
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最近、肉食系、草食系という言葉がメディアを騒がせている。明治時代に1200年にも亘って禁止されてきた
肉を明治天皇が召し上がりになって、現在に至る洋食の歴史をとんかつを中心にして描いたのがこの本。草食系人間から肉食系人間へと変わっていかざるを得なかったのは近代化、欧米列強に追いつけ追い越せという時代背景によるものだった。
この本では、とんかつをはじめ、牛鍋、あんぱん、カレーライスなども取り上げている。揚げたてのとんかつを食べると夏の暑さなど吹き飛んでいく。ここのところ、婚活などと騒いでいるが私にとっては婚活よりも豚活(豚肉を食べる活動)の方が好きだ。
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肉食は近代化の一環として政府が奨励したものだった。食べればやっぱりうまい!ということで広まって行くが、新しいことには必ず反対する人が現れるもの。
すき焼き、パン、カレー、コロッケ、とんかつ。日本人はやっぱり米が食べたい。パンはおやつ。
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明治維新は料理維新だ。1200年の肉食の禁忌を天皇自らが解禁。西洋料理を洋食にしたてた先人達の努力あっての今の日本の食文化。日本人で良かった。
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食文化の変遷は流通の変化の証。
印象的だったのは、
①宗教的禁忌で肉食を躊躇う人のためにハラルミート並みの対応をしていたこと
ハリスが神社の境内で牛を飼い出して揉める話は今の時代から見ると笑っちゃうけど当時は両者とも深刻だったんだろうな
②レーションからの全国流通
これWW2の際にコーラとM&Mチョコは企業戦略としてやったという話を
ヒストリーチャンネルのドキュメンタリで見た。