あの時の久木と凛子の愛にまだ誰もたどりつけない
2021/01/28 16:43
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語の主人公である久木祥一郎もまた、当時の不安の中にいた多くのビジネスマンと同じだった。五十代半ばで大手出版社の要職から外れ、閑職につく。不安がないわけではない。
そんな時に出会ったのが三十半ばを過ぎた美貌の人妻凛子だった。
久木たちのような恋愛はできないけれど、読者にとって久木は自分たちと同じところにいる男だったことは間違いない。
今回久しぶりにこの作品を読んで思うことは、確かにさまざまなバリエーションの性愛模様が描かれているが、その端々で渡辺淳一の教育的指導のような文章がはさまっていることだ。
おそらくこの作品が映画化やドラマ化された際には、そういった渡辺の男女に関するいろんな教えは除かれただろうから、純粋に恋愛映画あるいは性愛映画になったはずだが、小説『失楽園』は渡辺の男女に関する講座を聴くような感じさえした。
渡辺は主人公の二人を最後は心中の形で終わらせたが、よく読んでいくと、死の影は結構早くから二人に忍び込んでいることがわかる。
上下巻にわかれた文庫本でも、上巻の終り近く、三十八歳になったばかりの凛子が「ここまで生きたらいいの、これ以上はいらないの」と呟く場面がある。
この時点で作者である渡辺がこの長い物語の終りをどこまで意識していたかわからないが、少なくとも渡辺にとって男女の性愛と死とはそんなに離れていない地平にあるものだったのではないかと思える。
この作品は流行作品だったが、それから25年以上経って、今読んでもけっして古びていない男女の名作だろう。
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上巻よりすらすら読めました。というかもう行く末がわかっていたので。わかるようなわからないような。自然の結果といえばそのとおり。人生突然そのようなことになるかもしれない。自分が隠れ持った性度にもよるのか。それにしても様々なエピソードも強烈だった。
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上下巻ものは久しぶりだったけど、3日か4日くらいで読んでしまいました。
久しぶりに出会った○○モノ!うふふ
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自分の親がああいう死に方したら生きていけない…。
伊豆とか三島とかが出てきたのはよかったよ笑
あさばには一度行ってみたいです。
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2012/08/28
なんて淫靡で,究極を求めた空前のベストセラー小説でした.”性度”の高い人間を描いたという.
あぁ,箱根にも軽井沢にも行きたい.
・しずこころなく,心の静まる暇もなく
・修繕寺 源頼朝が幽閉
・男の濛々しさなど,沼の表面で跳ね返る魚のようで瞬発的
・夭折(ようせつ) 若死に
・時分の花 年齢の若さによって現れる、芸以前の一時的な面白さ.
・縊死(いし)とは、死因の一つである。一般的には首吊り死をさす。
・梅雨明けの10月 桐始結花から土潤辱暑
・匕首
・歳月という腐食作用
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上下巻共に濃厚でした。
描写などはとても美しく、読みやすいです。
しかし、やはり身勝手さが目についてしまいました…。
男と女の事をこれでもか!!!と言うくらい見せられてしまうと恐怖すら感じてしまいます。
私は明日を生きるために、誰かと愛を育んでいきたいなぁ。
色んな愛の在り方があるのですねぇ。
途中、主人が外でこんな事をしていたらどうしよう…!!と考えズーンと重い気持ちになってしまいました 笑
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ああ、そうだよな。
堕ちる時まで一緒にって、きっと思ってしまうのだろうな。でも駄目だろう。そうじゃ、いけないだろう。みんなそんな自分に負けないように必死に立ってるんだよな…。と、思った。
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たまに出てくる渡辺淳一のうまい表現。
主人公が仕事を辞めて、何も目的なく過ごしている時間の書き方。
駅へと向かうサラリーマンの列を見て、とやかくいっても
あの列につながって会社へ行く限り、一日の生活と家族の安泰が
保障される、という表現。うまい。
読めば読むほど、死に逃げる凛子はしょうもない女性だ。
たぶん、また読むことになる小説だろう。色々な意味で。
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久木と凜子は、それぞれの家庭に背を向け、二人だけの世界にますます入り込んでいきます。二人は渋谷に部屋を借りて住むようになり、ついで軽井沢にある凜子の別荘へと移ります。
しかし、そんな二人に対して、世間は厳しい目を向けます。凜子は母から勘当をいいわたされ、久木も社内に怪文書が出回ったことがきっかけで、子会社への出向を命じられます。
やがて凜子は、いずれは久木に感じている、めくるめくような情熱も去っていくのではないかと考えるようになり、幸せの絶頂のあとに残されているのは「死」しかないという思いを強くしていきます。久木も、こうした凜子の思いを受け止め、二人は一緒に死ぬことを決意します。
上巻ですでに物語の方向性は見えていたためか、後半はやや間延びした印象を受けてしまいました。
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書き方によっては下品な官能小説だが、登場人物の品の良さも相俟って大人の色気を持つ、妖艶な芸術作品として昇華されている。阿部サダや有島武郎を引用しながら、物語りを終える。
人の一生とは何か。生物としての快楽中枢に素直に従い、人生を飾る哲学や倫理観でもって、行為に観念的なストーリー性を持たせる。行為は、ただの行為に過ぎぬであり、特別性など持たぬのに、生まれた場所や環境による刷り込みにより、観念が備わり、息吹を与えられるのだ。登場人物の選ぶ二人の結論は、確かにその枠をはみ出しはしないものの、二人が決めつけた特別性において、息吹を与えられた。物言わぬは、死人と同じという比喩の対極である。
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上巻ではとんだ下衆野郎にしか見えないが、女が完全からの崩壊を恐れる末の逃げ道に潔く付き合う辺りは大したものだし、其処まで人に愛されるのも男子の本懐といえよう。
娘の叫びが届かなかったのが何ともいえないし、家族に一生モノのトラウマを与えたであろうことを除けばだが。。
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世の中には心で繋がる愛を描いた小説が多いけれど、この本は躰で繋がる愛を正当なものとして描いている。
躰が心を裏切ることがあると。
凛子はもはや恥じらいを捨て、永遠の愛を夢見て死を渇望する。今が最高な時だと。
共感はできないけれど苦しさは分からなくもない気がした。描写が多い割にいやらしさを感じないのはこの作者の文章力のおかげだろう。
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死を引き立て役にして雰囲気を弄んでいるうちに、気づくと死に絡まり陥っていく哀れな2人。どっぷり浸かっているようで最後まで冷めた視線も残っている久木と、死を幸福な夢と思い込む凛子、少し男女の違いがある。阿部定、有島武郎。太く短い恋。幸せの絶頂の死。仕事も家庭も社会も捨てるしかなく、現実離れした大人の純愛というのは、こういうものなのかもしれません。
「「わたしたちが死ぬこと、まだ誰も知らないんだわ」久木はそれにうなずきながら、凛子とベッドのまわりに漂う死の快楽に馴染んでいく自分が愛しく、不思議である。」