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インタビューではハルキムラカミを日本の作家では読んでいるとか言っていたけれど、パワーズの小説は安部公房に似ていると思う。外国版安部公房。
三つのストーリーが生成され消滅する。論文のようなものもあり、ノンフィクションもあり、恋愛もあり、錯綜もある。
誰がこんなに本格的に書けるか?
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1枚の写真(表紙)を見て、ひたすら妄想した話。3人の農夫が向かっていたのは1次大戦。この写真を偶然見つけた語り手と、この3人、そしてある編集者と、三つの話が混ざりながら進んでいきます。すごいです。また柴田元幸の言葉借りるけど、知の部分で構築してる小説っていいですね。こんなすごい小説ないです。いろんなこと書いているけど、やっぱ写真論が大事かなと思う。これ文句なしで★5個だけど、ちょっと語れるほど読めてません。でもすごいです。あるネット上の書評で、ピンチョンとよく比べられるから読みにくいかと思ったら読みやすくてびっくりしたっていうのがあって、俺ピンチョン読んだことないんだけどすごくよく分かる。とりあえず最初の300ページ(って全部400ちょいしかないけど)くらいは、読みやすいのに嫌になるほどいろいろ書いてあって挫折したくなるけど、でも読みきる価値はある。ありまくる。ごめんよ、全く何にも書いてなくて。
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パワーズのデビュー作にして邦訳第一弾。アウグスト・ザンダーが撮影した実在の写真をめぐる物語と撮影された男たちの空想の物語と現実とが交錯する二十世紀最後の傑作。柴田元幸も翻訳も大変だっただろうなあ。
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「舞踏会へ向かう三人の農夫」と題された写真から始まる3つの物語。
一つは写真の農夫たち自身の、一つはこの写真に見入られた者の、そしてもう一つはまた違った「過去」に見入られた者の物語である。この3つの物語は時に明示的に、時に遠まわしに相互に絡み合いながら一つの「啓示」に繋がっていく。
とても魅力的な小説である。
一つには3つの物語が探究するものを追うという、ある種謎解き的な、まっとうな小説の楽しみがある。また一方では、これでもかと盛り込まれた写真論や伝記論・小説論という知的好奇心を刺激する要素がある。そしてこの両者が互いにと照応するかたちで示されているところが、この小説を最後まで興味深く読めた所以だと思う。
そしてかなりスケールの大きな小説であるにもかかわらず、「地に足のついた」感覚が、読者をひきつけてやまない。とても身近な話に感じるのである。それはまさにこの小説が、20世紀を、20世紀を生きるどうということのない人間を、扱っているからなのかもしれない。
ともかく、この小説には、読み手を満足させるに足る、かなりの魅力がぎっしり詰まっている。いい本でした。
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これほどまでにサービス精神旺盛な作家って他にいるだろうか?著者の脳という巨大なデータベースから、雑学的知識や、哲学的な見識、皮肉っぽい言葉遊びがとめどなくあふれ、文章をごてごてと装飾していく。装飾しすぎて文と文とのつながりが見えないので、とっつきは良くない。買ってから2回トライして失敗、3回目にやっと読了したのも納得の個性的な文体だ。
3つのパートに分かれているうち、私が気に入ったのはコミカルなピーター・メイズの章だ。コンピュータ雑誌の編集をしている彼のおたく的な内面や思考が妙に平熱で表現されているのがとにかく可笑しくてたまらない。ひと目ぼれした運命の女を探す彼の運命はとにかく先が読めず、なかなか手に汗握る。
もう1つのパートは、題名でもある「三人の農夫」が主人公だ。20世紀末から初頭、そして第一次世界大戦までの激動の近代化の時代を、たっぷりの歴史的うんちくと共に描く。フォード自動車の創始者ヘンリーの人物像はまったく知らなかった!
そして著者パワーズ自身だろう、「三人の農夫」の正体を追う「私」の章。高度に思索的なこのパートが一番読みにくい。しかもストーリー展開がないので少々退屈。でも、全てを読み終わって思い起こすと、このパートに一番心に残る名フレーズが多いことにも気づく。
第十九章「安価で手軽な写真」はすぐれた写真・映画論になっている。写真を見るときに鑑賞者の中で起こる不思議な現象を見事に文章化していて目から鱗が落ちた。
3つの枝が1つの幹へと収束するエンディングも心憎いばかり。たかだか100年前、すべての価値観が変わった20世紀のはじめ、歴史書に残らない人々は時代をどう生きたか。本書とザンダーの匿名的な肖像写真が、想像と共感の助けになることだろう。
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ぬかるんだ五月のいなか道を、三人の男たちが歩いていく。振り向いた彼らの視線がとらえたのは・・・
オーストリアの写真家、アウグスト・ザンダーの一枚の写真にインスパイアされたパワーズの想像力。20世紀という途方もなく混沌とした時代を問い直す。
私の20世紀は16のときに終わりを迎えた。14のとき、恐怖の大王がやって来るといって来なかった失望感を抱いたままだった。それ以来、どうも20世紀という時代が終わっていない気がする。
この本を開いて数ページで「読まれなければならない」本だと気づいた。なぜなら、この本が「我々の」物語だから。
(2010.05.21)
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20代のころ、誰にも読まれないだろうと思って、書きたいように書いた・・という作者の言葉にうなずけます。
思索の部分が読みにくいのだけど、これがないと成り立たない。あんまり一生懸命読むと頭痛くなります・・・。へばります。
理屈っぽいのが苦手な人にはとても薦められないけど、半分くらいまで読むと物語が転がりだします。そこまで頑張れば。。
久しぶりに「そう来るかぁ」という結末でした。
一枚の写真を見つめる、無数のストーリー。
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表紙で三人の人がこっちを見ているので試しに中身をパラパラめくったら面白そうだったから手に取った『舞踏会へ向かう三人の農夫』、リチャード・パワーズ著。
少し読んでいくうちに「おおーこれはもしやピンチョン的な感じか!」と思ったんだけど違う方向で面白い本だった。
仕掛け絵本を覗くような気にさせてくれる本。
物語には近代の発明品がいろいろ登場する。
この本も本質的にそういった機械と同じつくりだ。
エピソードを部品がわりにそれぞれきちんと配置し、最後にはその効果を果たすものが出来上がっている。
つまり3人の物語を重ね、時代を立体視できる「20世紀の透視装置」。
その効果がだんだん現れてくる過程も面白いんだけど、ひとつひとつの部品についても「ああかなーこうかなー」と考えることがあってすごく面白い。
たとえば機械複製の話だとか、“無くなることで存在がより強調される”、車が誕生してからの移動時間の話、ヘンリー・フォードの平和船、戦場カメラマン。
こういったエピソードの数々は、何度も頭の中で反芻してその考え方を味わったり、自分が知っていることとの関連を探ったり、そうしたきっかけを作ってくれる。
そんなわけで全体的にものはたっぷり詰まっているが、意外にも印象はさらっとしたもの。
やり過ぎずに効果を出す、適切な分量がわかってる人っぽい。
そしてちょっと感傷的になるけど、人と離れ離れになったら誰が今どうしてるかってわからないなあと思った。
今は携帯があるけど、それでもやっぱり。
その人がもう死んでても、それを知らないから「あいつのことだから適当に楽しくやってるんだろ」って当たり前みたいに考えちゃうんだな。
もういないのに。
でもそれを悲しいと思うのは、自分がその事を見通せる側にいるからなんだろう。
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久々に、脳に栄養の物語と思いました。出だしは行ったり来たりが難解で、それがあとになるとどんどん巡る。
小さいころ遊んだ、プラスチックの穴の空いた物差しみたいなやつ、鉛筆を穴に入れてギザギザをぐるぐるすると色んな模様ができるやつ、あれみたい。
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過去と現在が複雑に絡み合い、交錯、錯綜し、混沌としながらも調和するという、なんとも不思議な物語です。ストーリーを説明しろと言われても私には無理。ただひたすら夢中で読みました。何度も読み直したくなる物語です。
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主人公の私はある日、電車の乗り継ぎで立ち寄ったデトロイトの博物館で、「舞踏会へ向かう三人の農夫」と題した古い写真に出会う。そしてその瞬間から、20世紀全体という時間軸と、アメリカとヨーロッパを包含する広大な場所を舞台に、この3人は誰で、なぜその写真が撮られたのかという謎を解く、長い物語が始まる。
私、3人の農夫(アドルフ、ペーター、フーベルト)、そして当初は写真との関わりが見えないピーター・メイズ。時代や場所を行き来しながら進行する彼らの物語を追いかける行為(つまり本書を読むこと)は、読者にとってはあたかもジグゾーパズルのピースを1つひとつはめていくような作業だ。そして最後のピースがはまったとき、読者はパズルの表面に、「20世紀という名の、混じり気なしの暴力行為」が浮かび上がるのを見届けることになる。
小説という道具立てを使い、「(独立した)存在というものはありえない。個々の存在物はすべて、あくまでそれと宇宙全体との絡み合いから理解されねばならない」という哲学者ホワイトヘッドの箴言を引きながら、人間とは何かという問いに答える新機軸を、著者は本書で提示して見せている。
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現役北米作家のなかで最重要、という評価はうなずける。知力が駆け巡るかのような独特な文章。気になる文章を傍線引いていくとしたら、どれだけ書き込むことになるのだろうか?ストーリーの妙も凡百ではない。
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難しかったー!でも小説と批評が地続きになってるような感覚はタイプだし、その批評も登場人物からの視点であり、同時に作者の批評でもあるとすると、この作品を包む状況って、歴史とか芸術の話まで含めた広い感覚があって良かったなー!
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1914年に撮影された一枚の写真から展開して、作者の全てを注ぎ込んだかのような小説。3人の農夫の人生、現代に生きる若者達。遠く離れた彼らが写真家、赤毛の女、株屋、車のフォード、掃除婦、親族…とたくさんの人々と少しずつ知合いながらやがて細い糸のようにつながっていく。不器用にも思えるつながり方はやがてきらきらとした思考や出会いとなる。みっしりと作者の知識、考察、思想もつめこまれて大変な読みごたえだった。英語や文化に詳しければ言い回しとかジョークもとても絶妙なんだろうなぁと自分の理解力のなさを残念に思いながら読んだ。
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表紙につられて読んでみました。
いやあ、なかなか、手強かった。まず、文字が多いのと登場人物が多く、時代も変わることで理解するのに手間がかかってしまいました。特に方向性がわからないと理解し辛いようです。
でも、すごい内容です。
戦争の不条理、遺産の笑い、どれもおもしろかったです。