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紙の本
明るい夜の少女たち
2002/06/24 02:56
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あおい - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはアメリカの「ノワール」の枠組みを利用した少女小説であると思う。精神分析では、少女にとって《母親》とは最初に出会う《他人(の女)》であり、マルグリット・デュラスが「たいてい娘は母親のことを気が狂っているのだと思うものです」というように、鏡像関係の《無根拠さ》の象徴として現れる。この作品の中で、ナディーヌとマニュという二人のヒロインの関係が、レズビアニズムとはまったく無関係だと強調されるのは、関係に《家族》の表象を拒絶する水平さとなってスピード感のある物語の進行に力を与えている。
ヒロインたちが出会う前と出会った後で、それぞれのキャラクターが異様に変質してしまう部分が、とてもご都合主義的で、ひっきりなしに流れるナディーヌの聴くウォークマンの音楽とマニュの食べるジャンク・フードのコントラストなど、面白いようでもあり何処か「騙されている」「見ないようにしている」ような弱さがある。それがラストの、アメリカン・ニューシネマのような凡庸な挫折感に浸されるのは、どうにもやりきれない。もっと違う《終わり》がないものなのだろうか。
紙の本
女の子2人、「超快楽主義」のの暴走ぶりが圧倒的迫力!
2000/07/18 09:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:高橋伸児 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本の帯にはこうある。
「キモチよければいいじゃない! 超快楽主義な女ノ子2人が暴走する!」
宣伝文句として、これは最悪だ。僕なんか、(ひところよりは減ったとはいえ)ガングロ=ナマハゲやらルーズソックスの「超快楽主義」に見える女の子たちを目にしていると、「おまえらキモチよければいいのかよお」とゲンナリしているんだから。だいたい、タイトルだって、聞き慣れた文句だし。これって、bk1、文芸サイト編集長の口癖でしょ。
でも、原書房から続けて出たフランス若手作家たちの翻訳シリーズの『不器用な愛』『そしてぼくはママの愛人になった』がすこぶる面白く、この『バカな〜』もシリーズの一作とあって、半ば嫌々読みはじめた。で、実際、女の子2人の「超快楽主義」といったら最初は辟易するほどだったのに、だんだんそれがキモチよくなって・・・。
エロビデオとウォークマンが大好きな女の子、ナディーヌ。おじさんたちを相手に出張売春もしている。一方、ドラッグを扱ったりのアブナイ男友だちに囲まれながら、酒とセックス浸りの生活を送るマニュ。物語は最初、そんな彼女たちの生活を交互に追い、後半は、パリで2人が出会って意気投合してからの「皆殺し」の道を描いていくのだが、この2人が知り合ってからの「暴走」ぶりが圧巻だ。ひたすら酒をあおり、バーで男をナンパしてはセックスをし、ところかまわず(としか思えないのだが)人を殺しては車で走り続ける・・・。こんなストーリーとあってか、フランスでは一時、出版停止になったという。
こうした物語は、レイプしようとした男を殺す羽目になった女性2人が車による逃避行を続ける映画「テルマ&ルイーズ」を思い出させるし、実際、この小説には、死を覚悟した2人が車を走らせながら手をつなぐという、映画からの引用(だろうな)もある。だけど、あの映画が、「日常の鬱屈した生活から解放されようと自由をめざした女の物語」なんていう紋切り型の受け止められ方をずいぶんされてしまったのに対し、この小説にはそんな陳腐な解釈の入る余地はまったくない。ただただ2人は「暴走」するだけだ。現実社会に対する怒りだの日常への疑問だの、彼女たちの行動を読み解くための描写はほとんどないといっていい。マニュが「あたしらに情状酌量の余地なんかないよ」と言うのはまったくその通りだし、逆に、「情状」を読み解こうとした途端にこうした「暴走小説」はつまらなくなる。ひたすら彼女たちの「暴走」に並走するのみだ。
作者のヴィルジニ・デパントは今年でまだ31歳、フランスで「第2のサガン」とも評され、「パリでレコード店を開き、娼婦やパンク仲間ともつきあいがある」そうだ。この作品がデビュー作で、以後、いくつか書いているが、日本での翻訳はこの1つのみ。若い訳者、稲松三千野さんの訳も、一見なんでもないような文に見えながらも、物語の疾走感にふさわしいヴィヴィッドな文体とワイルドな台詞まわしがいい。ここはデパントの新しい訳書を期待して待とう。 (bk1ブックナビゲーター:高橋伸児/編集者 2000.07.17)
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