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紙の本

落語を漱石文学の巨大なバックボーンとして読み解く楽しくユニークな好著

2000/07/10 20:49

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中条省平 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 著者の水川隆夫は、『漱石「こころ」の謎』(彩流社)という好著も発表している国文学の研究者で、その作風は手堅く、分かりやすく、徹底して具体的で、したがって、説得力十分である。

 本書でも、その美徳はみごとに発揮され、『[増補]漱石と落語』を読んだあとは、夏目漱石の文学の大きなバックボーンとして、落語の伝統を無視することは絶対にできないという強い確信に導かれる。抽象的な議論ではなく、具体的な証拠をつぎつぎに挙げての論述には、上等な警察捜査ミステリーを読むにも似た静かな興奮をかきたてられる。

 漱石と落語といえば、だれでもまず、有名な『三四郎』での三代目小さんへの絶賛を思い出す。「小さんは天才である。あんな芸術家は滅多に出るものぢゃない。何時[いつ]でも聞けると思うから安っぽい感じがして、甚だ気の毒だ。実は彼と時を同じうして生きてゐる我々は大変な仕合せである」という一節である。だが、著者がこのくだりに割く紙数はわずか4ページ。つまり、我々の知らない漱石と落語との関係について論じている部分がほとんどなのだ。そこが本書の新鮮さの最大の原因となっている。我々は漱石をかなり読んだつもりになっていても、その巨大な実態に関しては、まだまだ無知なのである。そのことをつよく思い知らされる。

 まず著者は、漱石の文章を縦横に引用しながら、作家以前の漱石の原体験としての落語、そして寄席という空間の重要さを論証する。そして、その博捜を通じて、当時の寄席文化のありようをヴィヴィッドに描きだす。この第I章は文学論というより、明治時代の都市文明論として高い価値をもっている。

 第II章で論じるのは、『吾輩は猫である』。先日、必要があってこの小説を読み返した折り、その文体のリズムはまさに落語だ、との思いを強くしたこともあって、この章はとくに面白く読んだ。顕微鏡的な精細さで『猫』の細部をとりあげ、落語の典拠と比較してゆくのだ。その細かい実証の作業を淡々と積み重ねることにより、『猫』の落語性を自明の事実として読む者の眼前につきつけるのである。いささかしつこいとの評が出るかもしれないが、それぞれの論拠がユーモラスなエピソードばかりなので、事実の列挙とはいえ、退屈したり、無味乾燥であったりすることはない。

 第III 章は『草枕』以後の時代をあつかっている。これ以降、漱石の人間的、哲学的観想がペシミスティックな深まりを見せるとともに、落語の影響が散発的かつ稀薄になることがよく分かる。

 なかでは『心』と怪談噺の類縁性を解いた部分が刺激的だ。水川氏は、漱石の『心』に見られる前近代的な精神性(怨恨や霊魂への執着)を明らかにした研究者であり、その点からも議論には説得力がある。

 落語の演目に関する簡潔な解説集も付録になっており、落語をよく知らない読者への配慮もなされている。漱石研究の充実した異色として高く評価されるべき書物である。 (bk1ブックナビゲーター:中条省平/フランス文学者・学習院大学教授 2000.7.11)

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