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ヘンリー・ダーガー非現実の王国で みんなのレビュー
- ヘンリー・ダーガー (画), ジョン・M.マグレガー (著), 小出 由紀子 (訳)
- 税込価格:7,150円(65pt)
- 出版社:作品社
- 発売日:2000/06/01
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高い評価の役に立ったレビュー
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2002/12/12 00:10
アール・ブリュットの王国へ
投稿者:ヲナキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
思いがけなくヘンリー・ダーガーの絵に遭遇してからもう10年近く経つ。当時定期購読していた雑誌をパラパラとめくっていたら、とんでもない映像がボクの網膜に飛び込んできた。「暴力とエロスの嵐の中で」と題された都築響一氏の手になるその記事には、一枚の絵が大きく見開きで紹介されていた。そこには、どことなくアメリカ南北戦争を思わせる舞台設定のなかで、大人たちが情け容赦なく素っ裸の少女たちを絞殺する様子が描かれていた。表情に乏しい(だがどこか嬉々とした)大人たちとは対照的に、少女たちは目を剥き・舌を突き出し・大きく口を開け、もの凄い形相を浮かべている。鉛筆の下書きの上に水彩を施しただけのような拙い絵なのに、一度見ただけで脳裏に焼きついて離れなかった。なぜか少しだけ欲情をおぼえたボクは、改めて暴力性とエロスとの強い結びつきを確認させられた次第であった。
1892年シカゴに生まれた彼は、幼い頃に母を亡くし、その数年後父が事故で体を悪くしたのを機に孤児院に預けられる。1909年父の死を知り脱走、以後、病院で雑用をこなしながら生計を立てる。1932年から1973年に没するまで独り寂しく人生を送るが、40年間暮らしたわずか一間の貸しアパートの中で、彼は誰にみせるわけでもなく、ただ自分だけのために『非現実の王国におけるヴィヴィアン・ガールズの物語、あるいは子供奴隷の反乱に起因するグランデコ対アンジェリニアン戦争と嵐の物語』という長いタイトルの一大叙事詩を書き上げたのである。そのボリュームなんと15,000ページ超。挿絵は数百点にものぼる。この驚異的な芸術作品は、彼の死後、アパートのガラクタの下から発見された。もしこの部屋の家主が、慧眼の写真家:ネイサン・ラーナーでなかったとしたら、稀代の怪作はガラクタの山とともに捨てられていたに違いない(この略歴は、求龍堂刊『アウトサイダー・アート』ならびに『エスクァイア』1993年10月号を参考にさせていただきました)。
フロイト博士がこの作品を見ていたなら、どれほど大喜びしたことだろうか。ダーガーの偉業を抑圧された性衝動と結びつけて考えることは容易い。彼の頭の中では、世の中への強い憎悪や破壊衝動、純潔な乙女に対するファンタジーなどが互いにせめぎあっていたのだろう。爆発しそうな妄想をメルトダウンさせるための手段として創作活動があったのかもしれない。一種のアート・セラピーといったところだろうか。ダーガーの精神分析を含め、この物語の主人公:ヴィヴィアン・ガールズたちの活躍が意味するところを読み解いた『戦闘美少女の精神分析』(斎藤環著)は、彼の作品を鑑賞する上で非常に参考になる。今度の展覧会に出かける前にぜひ一読をおすすめする。
低い評価の役に立ったレビュー
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2000/07/18 22:16
ヘンリー・ダーガー非現実の王国で
投稿者:伊藤剛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
かねてより話題のヘンリー・J・ダーガーの作品集がついに刊行された。
ダーガーはふつうの意味での画家ではない。
81年の生涯の間、友人もなく、自室にひきこもり、15,000ージにも及ぶ「小説」と700枚もの「挿絵」を残した人物だ。彼の作品は死後、家主によって発見された。生前には読者はひとりもいなかったのである。
彼の残した『非現実の王国で』は、子供軍と大人軍の戦争絵巻。主人公は「ヴィヴィアン・ガールズ」という美少女戦隊だ。
彼女たちは勇敢に戦い、ときには敵につかまり、残虐に処刑される。なによりも特筆すべきは、彼女たちの裸体に幼いペニスが描き加えられていることだ。それを目にした者は、まず例外なく衝撃を受けるだろう。その衝撃は、彼を「アメリカを代表するアウトサイダー・アーティスト」とする美術関係者だけのものではない。
たとえば美少女系の漫画やゲームのユーザーにしても同じだろう。これは我々がコミケの同人誌などで見慣れたものではないのか!? シカゴで孤独のうちに生涯を終えた、オタク文化とは無縁な人物からこうした表現が生まれたという事実に我々は慄然とする。そして「いまの日本に生まれていれば……」という思いとともに、私は彼の孤独に涙する。
もちろん、彼が偉大なアーティストである(それは、この作品集を見れば瞬時で了解される筈だ)という認識のうえのことだ。この美しくも残虐な作品が、心のとても深いところにヒットするものであるのは、間違いのないことなのだから。
(伊藤剛・ライター)
紙の本
アール・ブリュットの王国へ
2002/12/12 00:10
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ヲナキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
思いがけなくヘンリー・ダーガーの絵に遭遇してからもう10年近く経つ。当時定期購読していた雑誌をパラパラとめくっていたら、とんでもない映像がボクの網膜に飛び込んできた。「暴力とエロスの嵐の中で」と題された都築響一氏の手になるその記事には、一枚の絵が大きく見開きで紹介されていた。そこには、どことなくアメリカ南北戦争を思わせる舞台設定のなかで、大人たちが情け容赦なく素っ裸の少女たちを絞殺する様子が描かれていた。表情に乏しい(だがどこか嬉々とした)大人たちとは対照的に、少女たちは目を剥き・舌を突き出し・大きく口を開け、もの凄い形相を浮かべている。鉛筆の下書きの上に水彩を施しただけのような拙い絵なのに、一度見ただけで脳裏に焼きついて離れなかった。なぜか少しだけ欲情をおぼえたボクは、改めて暴力性とエロスとの強い結びつきを確認させられた次第であった。
1892年シカゴに生まれた彼は、幼い頃に母を亡くし、その数年後父が事故で体を悪くしたのを機に孤児院に預けられる。1909年父の死を知り脱走、以後、病院で雑用をこなしながら生計を立てる。1932年から1973年に没するまで独り寂しく人生を送るが、40年間暮らしたわずか一間の貸しアパートの中で、彼は誰にみせるわけでもなく、ただ自分だけのために『非現実の王国におけるヴィヴィアン・ガールズの物語、あるいは子供奴隷の反乱に起因するグランデコ対アンジェリニアン戦争と嵐の物語』という長いタイトルの一大叙事詩を書き上げたのである。そのボリュームなんと15,000ページ超。挿絵は数百点にものぼる。この驚異的な芸術作品は、彼の死後、アパートのガラクタの下から発見された。もしこの部屋の家主が、慧眼の写真家:ネイサン・ラーナーでなかったとしたら、稀代の怪作はガラクタの山とともに捨てられていたに違いない(この略歴は、求龍堂刊『アウトサイダー・アート』ならびに『エスクァイア』1993年10月号を参考にさせていただきました)。
フロイト博士がこの作品を見ていたなら、どれほど大喜びしたことだろうか。ダーガーの偉業を抑圧された性衝動と結びつけて考えることは容易い。彼の頭の中では、世の中への強い憎悪や破壊衝動、純潔な乙女に対するファンタジーなどが互いにせめぎあっていたのだろう。爆発しそうな妄想をメルトダウンさせるための手段として創作活動があったのかもしれない。一種のアート・セラピーといったところだろうか。ダーガーの精神分析を含め、この物語の主人公:ヴィヴィアン・ガールズたちの活躍が意味するところを読み解いた『戦闘美少女の精神分析』(斎藤環著)は、彼の作品を鑑賞する上で非常に参考になる。今度の展覧会に出かける前にぜひ一読をおすすめする。
紙の本
ダーガー・サイト
2000/11/12 11:53
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:担当編集者 - この投稿者のレビュー一覧を見る
作品社の編集担当です。
ダーガーのサイトをつくりました。収録作品39点もご覧いただけます。
リンク集や、海外のダーガー本の紹介、過去の展覧会情報もあります。よろしく!
http://www.tssplaza.co.jp/~visual/k/index.html
紙の本
ヘンリー・ダーガー非現実の王国で
2000/07/18 22:16
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:伊藤剛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
かねてより話題のヘンリー・J・ダーガーの作品集がついに刊行された。
ダーガーはふつうの意味での画家ではない。
81年の生涯の間、友人もなく、自室にひきこもり、15,000ージにも及ぶ「小説」と700枚もの「挿絵」を残した人物だ。彼の作品は死後、家主によって発見された。生前には読者はひとりもいなかったのである。
彼の残した『非現実の王国で』は、子供軍と大人軍の戦争絵巻。主人公は「ヴィヴィアン・ガールズ」という美少女戦隊だ。
彼女たちは勇敢に戦い、ときには敵につかまり、残虐に処刑される。なによりも特筆すべきは、彼女たちの裸体に幼いペニスが描き加えられていることだ。それを目にした者は、まず例外なく衝撃を受けるだろう。その衝撃は、彼を「アメリカを代表するアウトサイダー・アーティスト」とする美術関係者だけのものではない。
たとえば美少女系の漫画やゲームのユーザーにしても同じだろう。これは我々がコミケの同人誌などで見慣れたものではないのか!? シカゴで孤独のうちに生涯を終えた、オタク文化とは無縁な人物からこうした表現が生まれたという事実に我々は慄然とする。そして「いまの日本に生まれていれば……」という思いとともに、私は彼の孤独に涙する。
もちろん、彼が偉大なアーティストである(それは、この作品集を見れば瞬時で了解される筈だ)という認識のうえのことだ。この美しくも残虐な作品が、心のとても深いところにヒットするものであるのは、間違いのないことなのだから。
(伊藤剛・ライター)