紙の本
「おまえはいったい私をどうしようというのか」——本の袖をつかんで揺さぶっても詮なきこと。だが、韜晦的とも言うべき物語の果てに「倫理」を語る、作家の「統合」に魅せられる。
2005/09/05 23:11
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
書き出しで「おっ、すごそう」と武者ぶるいを覚える。
——白痴は、黒と灰色の世界に住んでいた。飢えの白い電光と、恐怖のゆらめきのなかに。
かれの着ているものは、おんぼろで、窓がたくさんあいている。すねが、つめたい鑿(のみ)のように鋭くのぞいているし、やぶれた上衣には、にぎりこぶしの指のように、胸のあばらが見えている。背はたかくて、のろまだ。眼はしずかで、顔は死んでいた。(9P)
唐突だが、「白痴」で始まる状況の分からない小説といえばフォクナー『響きと怒り』がある。章ごとに焦点を当てる人物が推移していくという点にも共通のものを感じ、スタージョンのなかに同作品への意識がないはずがないと思うのだが、どうであろうか。
「カッコいい。どこから飛来する発想なのか」と武者ぶるいを覚えても、全ページの半ばすぎぐらいまで、何が書いてあるのかほとんど分からない。これは、一般読者にしてみればきわめて特殊な小説である。
平易な言葉や会話を多用しているためにとても読み易く、なおかつ面白く読み進められるにもかかわらず、どういう設定で何について書いてあるかの理解がおぼつかない。理解を拒むような表現だとすら思わせてしまう。微妙に、「疎外感」一歩手前のところで留まるものの。
そして、読み通したところで「集団(ゲシュタルト)の子供」という異形の者(厳密には「ミュータント」なので化物としてはまずいのか)の概念について書いてあると分かっても、それが結局は、いかなる時代のいかなる状況を背景にしているのかさえ分からない。落ち着かない。だから、せめても「SF」のくくりがあるということが有効なのかもしれない。人間が知り得ない世界の知り得ないものについての話だから、という安心を得るために……。
どれほど翻弄され乗物酔いをしたように混乱していたかというと、このゲシュタルトという概念の説明らしきものの記述が始まってしばらくは、それが何かの「たとえ」なのだろうと思っていた。何を説明するためのたとえなのかと引き摺られ、まったく滑稽なまでの勘違いの読みをしていたわけだ。
しかし、スタージョンのユニークさは、これだけ分かりにくいものを書いてしまいながら、終盤に入ると、話を収斂させていく場所が現実世界とリンクすることである。それが解説に引かれた小笠原豊樹・評のなかの「実際的な理念」というものであろう。
「道徳」と「理念」が異形の者の内部から語られていく。一種の真面目さ、真摯さとでも言えば良いのか、想像力を駆使した奔放な遊びの結果である虚構世界が、急に現実世界の横に立ち現れ、寄り添い始める。
また、この作家のテーマである「孤独」に「集団」が対置されながらも、それが決して万全のものとしては書かれてない。すべてをかなえてしまう絵空事のファンタジーのようには……。これも特徴の1つと言えよう。万全ではないが、若干の「可能性」として結ばれていることに安堵は覚える。悪くない読後感であり、むしろ満足すらある。
それにしても3つの連作短篇のようになっていた作品ひとつひとつの部分を思い出そうとすれば、あれはどういう脈絡だったのかと煙に巻かれる心地が今でもする。
「再読に耐える本」というほめ方があるが、これは「再読を要請する本」であり、一度読んで手がかりとなったものを武器に、次に読めば局面が少し開けてくるのだろう。それを何回か重ねて行くと、がらり目の前に開けてくるものがある。おそらくは。
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読後感が不思議な本です。思い立つと読み返して、また不思議な感覚を味わい、忘れた頃にまた読みたくなる本です。
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パルスが上昇する。耳の中で血の音がごうごういう。説明されて理解するのではない、心の端っこの部分が直感する、それを手繰り寄せるのだ。脳内の、新しい地平が開ける。大好きだ。大好きだ。大好きだ。これを読まないで大人になってしまう人が居るなんて、これを読まないで年を重ねていってしまう人が居るなんて、なんたる損失!読め、必ず読め。大好きだ大好きだ大好きだ。
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だいぶ前に買った本、シオドア・スタージョンの『人間以上』
内容は、
白痴の青年、発育不全の赤ん坊、劣悪な家庭環境に育った少女、黒人の悪ガキ二人。社会不適応である彼等が社会不適応であるがゆえに手に入れた特殊な力で人類の新しい共同体として生活していくはなし。
その中のローンのお話。第一章の「とほうもない白雉」を読んで『おくびょうなカーレッジくん』をイメージしてしまったのはオレだけでしょうか?
プロッドが出てくる場面がカーレッジくんのミュリエルの家と重なって見えてしまいました。
こんな一文だけを読んで、決して『人間以上』には手を出さないように。
『おくびょうなカーレッジくん』のようなコミカライズな小説ではありませんよ!
とてもとても読みにくく、めんどくさくて何度も挫折しそうになる小説です。
でもね、そんな中でも読み続けたくなる魅力があるのね。
「ホラー」と「ギャグ」の奇妙な混在感が、「カーレッジくん」の魅力のなのに対して、奇妙な混在感に溢れた作品という意味でダブらせて見えるのが『人間以上』の魅力なのだとも思います。
と、いうのも本書の読みにくい原因の一つに登場人物や時間、そして場面が次々と変わってしまって混乱しそうになる点があるんだけど、この混在感こそが内容を深く読み解きたいと思う欲求につながり、しいてはこの物語のテーマの一つホモ・ゲシュタルト(集団有機体としての人間)という概念を本書を読む事で感じる事ができる仕組みをつくりだしているんだと思います。
並列的で未来的。
現代の情報の共有化の果てがホモ・ゲシュタルトなのだというような作品は最近多いけど、感覚として味わえるのはこの作品ぐらいではないでしょうか?
もっと昔に出会いたかったです。
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訳のせいか前半読みづらすぎ。かと言って後半も読みやすいものではない。再読するといろいろな発見がありそうだがあまりの読みづらさが再読を遠ざける
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もう十年以上前に読んだのに、強烈に印象が残ってる。
何か切なくて、胸が苦しくなった。
読んだそばから忘れてしまう本も多いのに……恐るべきスタージョン。
又、読み直そうかと思ってる。
私は読み辛くは無かったです。
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何度読んだかわからない。
今でも年1回は最低読んでる。
好きな一冊を挙げろといったらたぶんこれ。
これも墓場行き。
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初めて買ったハヤカワsf文庫。表紙が違ったけど(フランス人形の壊れた頭部だったかな)。チーム人間以上の話。今読んでも断然面白い。
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超能力、あればいいってもんじゃない。
力を持ったがための差別、悲しさ
日本のほとんどのSF作家が影響されたのでは?
ミュータント物は、この一冊でとどめを刺す
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・・・・・書きかけ・・・・・
25年前の1985年5月8日に67歳で亡くなったアメリカのSF作家。
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10年位前に読んで途中で挫折した本。時間をかけて想像力全開モードで読み直してみれば、ああ、こういうお話でしたか!おもしろいじゃん!!いかんせん50年以上前の作品だから、設定が古すぎる感じはある。現代か近未来の設定で誰かリライトしてくれないかなあ。
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異色な作品、というか「異色作家を骨まで味わう」と帯に書いてあった。そもそも文学には、異色なものは多いので、読んでみても異色だという印象は余り無かった。
この物語の中心には、コンピュータのような頭脳、テレパシー、テレキネシス、テレポーテーションなどの能力を持つ赤ちゃんや少女、青年などが集まって、一つの生命体として機能する集団人(ホモ・ゲシュタルト)が居る。集団人は、構成するそれぞれが、それぞれの機能を担う。コンピュータのような頭脳を持つ赤ちゃんはそれだけでは何も出来ず、指令を与える頭脳が必要になる。テレパシーやテレキネシスなども同じ事が言える。そのようにしてこの集団人は、人間社会の中には上手くとけ込んでいないのだが、人間以上の力を発揮する。そして物語は展開していく。
正直なところ、物語の展開はもう一回ぐらい読まないときちんと捉えられないような気がするのだが、ちょっと荒削りな印象も受けた。
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1950年代に書かれたとは思えない独創的な異色作品。普通の人間を凌駕する力を持つ能力者が、白痴だったり奇形の赤ん坊や孤児だったりと、一人だけではまともに生きていけないところが、そもそもまず異色。フリークス萌えにはたまらん作品です。白痴の青年がエヴァリン・キューと感応して覚醒する場面は涙が止まりません。何年も前に読んだ本ですが、今こうやってレビューを書こうと内容を思い出すだけで悶絶するほど、大好きで特別な本です。
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読み始めてしばらく、いや当分の間、
ある種の寓話的な物語の展開に、
この作品はどういう話なのかもよくわからずに読み進む。
最終章もしばらくは、
2 人芝居の戯曲を読んでいるような気分でいたら、
おっ、おおっーー、結構ビックリな事に。
素晴らしい作品を読ませてもらった、
時代を感じさせない名作。
1954 年 国際幻想文学賞受賞作品。
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人間進化の決定版。イディオ・サヴァンの問題も人間進化に収斂されるのだろうし、人間humanの観念や概念が脅かされるSF。人間が進化するということは人間らしさがなくなるということであって、人間社会から追放されるのだ。それが善悪どちらか決定するのは人間だ。