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紙の本
多彩な内容の中に、ハッとする驚きがちりばめられたエッセイ集。
2011/08/06 13:45
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和三十年代から四十年代にかけて、新聞や雑誌に掲載したエッセイを、年代に関係なく、『生活する、仕事場、旅をする、あれこれ考える、味わう、ちょっと頭に浮かぶ、思い出』の7章に分類して、編集したエッセイ集。
内容は非常に多彩。その中でも気になるのは、やはり創作に関わるところ。
ある儀式を行い、やがて神がかりの状態へ到達する様子を描いた【創作の経路】(『仕事場』の章)は面白い。あれこれ好奇心を持ったものを観察し、さまざまに思考を巡らせる、きわめて論理的な星新一なのだが、創作の過程を説明されると神秘的。以前、著者は、その神がかり状態の解明試みたようだが、失敗に終わったようだ。(『できそこない博物館』)
またドラマを見て湧き上がった感情を元に、書き上げられた作品について考察した【過飽和】も面白い。
過飽和の感情が元々あって、見たドラマが、その感情の結晶化の刺激作用となっただけだから、そのドラマを見なかったら永久に日の目を見なかったという訳でもない、と考察。残念ながら、作物を生産する豊穣な畑である、過飽和状態の作り方は最高機密として、明かされなかった。
しかし『できそこない博物館』や、松本清張・江戸川乱歩共編『推理小説作法』に、そのへんのヒントがあるので、興味のある人は読んでみてください。
著者の父・星一との思い出も目につく。中でも印象に残っているのが以下のやり取り。
父・一は、息子にこう言いだした。
「いいか、空の星はどんな遠くにあっても、そっちに目をむければ、すぐに実物を見ることができる」
「それはちがうよ。光の速さは一秒に三十万キロだ。だから、いま見ている星も、距離によっては十年前の姿、百年前の姿である場合もあるんだ」
と少年科学雑誌で得た知識で父の誤りを正そうとする新一少年。
息子の論理的意見を理解したものの、父はとんでもないことを言った。
「なるほど、見る場合はそうかもしれないな。しかし、考える場合はどうだ。いま地球のことを考えている。つぎに遠い星のことを考える。これにはなんらの時間を要しない。人間の思考は光より速いということになるぞ」
これを読んだとき、まさに目から鱗だった。今まで考えもしなかった、光の速度と思考の速さを同じ土俵に上げたのだから。これに付随して紹介されている外国の小話も同様に、新鮮な驚きを提供してくれた。(【超高速】『思い出』の章)
驚きと言えば、著者はこういう事を言っている。(【宇宙不感症】『あれこれ考える』の章)
「驚きというものは同一路線の延長上には存在しない。別な新しい次元に接したときの感情だ」
なんだか、驚きの境地を諭された気がして、一番印象に残る言葉だった。
本書は、そんなハッとする驚きがちりばめられている、お薦めのエッセイ。しかし絶版なのが残念でならない。
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