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電子書籍
昭和ジャズ小説
2013/08/17 23:33
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
まったく古典的、通俗的な展開で、それは古来から日本で培われて来た伝統芸でもある。それを戦後のジャズメンの世界に持ち込んだ。軽薄でも中間小説でも、どう呼ばれようと、自分たちのための物語に飢えていた人々に、時には劇画として、あるいは五木寛之や梶山季之の物語が水を吸い込むように吸収されていったのだろうと思う。
もはやモスクワという都市に一抹の憧憬も感じる時代ではないだろうから書くと、ソ連でジャズコンサートを開こうという資本主義的かつ芸術的な目論見で彼の地に降り立ち、裏通りの酒場で若きジャズ演奏家たちと出会い、共感する。それは同じジャンルを愛するというだけでない、それぞれの社会における旧来的な価値観の抵抗の中で、新しい音楽を切り開いていこうという戦いの、戦士から戦士への慈しみだ。
清潔なイデオロギーから逃走する方向への「連帯」であり、あるいは安保闘争に夢破れた世代の再生=終わらざる反抗でもあるかもしれない。それでいて物語は忠臣蔵か鞍馬天狗のようなカタルシスをもたらす。
「艶歌」は、ポップス(歌謡曲)業界で暗い情念を前面に出したレコードを売り出すという、ジャズ志向の前作とは逆モーションのようだが、大人になった彼らの挑戦的ビジネスとも捉えられる。「艶歌は未組織プロレタリアートのインターなんだよ」そして「日本人のブルース」「ばらばらで独りぼっちの人間が、あの歌を必要としている」と語る。その「人生子守唄」はヒットするがやがて世論の逆風を受け、歌い手の少女は愛憎の果てに郷里に帰る。
五木寛之の最初の作品集である「さらばモスクワ愚連隊」に収められているのは、これと、北欧を舞台にした、やはりギターと、ガラス工芸を題材にした「白夜のオルフェ」「霧のカレリア」、GIのジャズピアニストの話「GIブルース」。
いわゆる大衆文化、サブカルチャーという分野が、メインストリームに成り代わっていく、その推進役を果たすことが一つのロマンだ。そういう時代の雰囲気が求める物語を生み出したところは、近松や西鶴に比すべきなのかもしれない。
知ったか風の内幕ものも、また大衆の人気を得るところだが、単なる音楽や芸術のファンであるというだけでなく、マスメディアやプロモーションの現場にいて分かる心情もリアルに描かれている。チャンバラや私小説を脱して、読者の日常の延長線的なドライブ感のある物語を書ける人間が、文学界にどれほどいたろうか。まったく新しいドラマ作りの世界を切り開いた希有な作家なのだ。
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