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"群論は、一言でいうならば、対称性の数学である。それが今日物理学に応用されている姿は、3つに大別される。第一の姿は、古く結晶形態学に起源をもち、古典結晶物理学の骨格をなしている。巨視的な物理量を表わす各種テンソルの対称性の議論などがそれである。第二は、量子力学の問題を取扱う新しい利器としてE. Wigner(1926)により提唱され、原子スペクトルを解析することに始まった。次いでH. Bethe(1929)により、分子や結晶の電子状態の問題に群論が適用された。今日までに原子、分子、結晶について多くの精緻な研究がなされるに到ったのには、群論が大きな影響を与えている。第三は素粒子論への応用であり、その数学的構造の理解に指導原理として群論が役立っている。これらの3つの階層のうちで本書が取扱うのは第二に関するものである。(序言より)"
群論の物理学への応用に関する教科書。
現代物理学では「対称性」が極めて重要な要素となっており、そしてこの「対称性」を記述する数学が群論なのである。少し深いところまで物理を理解しようと思うと、群論の力が必ず要求されるのだ。にもかかわらず、大学学部の一般的なカリキュラムでは、物理数学としてベクトル解析や複素積分、フーリエ変換あたりまでは教えても、群論とその応用をしっかり扱うことは少ないのではないだろうか(少なくとも僕の大学はそうだった)。また、同様のテーマの教科書は確かに多く書かれているが、定理の証明が省かれているなど個人的にはどこか物足りないものがほとんどだった。
本書は、数学の記述を全く忽せにせず、同時に、物理への応用も豊富に扱っていて、実に素晴らしい教科書である。一冊で群論の基礎から発展的な内容までカバーしていて、この本を完璧に習得すれば「群論強者」になれること請け合いだ。物理数学としての群論を学ぶなら、選ぶべき本は本書一択ではないかとすら思う。唯一の欠点は、理学書の常とはいえやはり値段が高い……。
0 対称性と群論の役割
1 群
2 ベクトル空間
3 群の表現(I)
4 群の表現(II)
5 表現論と量子力学
6 回転群
7 点群
8 分子の電子状態
9 分子振動
10 空間群
11 結晶の電子状態
12 時間反転と非ユニタリ群
13 ランダウの相転移理論
14 対称群
付録A 32点群
付録B 点群の既約表現の指標
参考書
問題解答
索引