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対比列伝 戦後人物像を再構築する みんなのレビュー

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みんなのレビュー2件

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評価内訳

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紙の本

本書を買ったのが大学4年生の夏。それから29年たち、ようやく読む気になった。切っ掛けは馬場公彦著「戦後日本人の中国像」に本書が触れられ、粕谷一希による痛烈な竹内好評が紹介されていたからだ。

2011/02/28 21:01

10人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る

本書は月刊誌「諸君!」に連載されていた記事をまとめたもので「列伝」は全部で11篇の記事から成る。

小林秀雄と丸山真男
保田與重郎と竹内好
花田清輝と福田恒存
安岡正篤と林達夫
東畑精一と今西錦司
唐木順三と鈴木成高
馬場恒吾と石橋湛山
大宅壮一と清水幾太郎
近衛文麿と吉田茂
小林一三と松永安左衛門
和辻哲郎(全部で21人)

大学四年生の夏、私が名前を知っていたのは小林秀雄、丸山真男、唐木順三、石橋湛山、大宅壮一、清水幾太郎、近衛文麿、吉田茂、和辻哲郎くらいだった。今は全部知っている。29年間の積読は、無駄では無かったことがこれで分かる(笑。

小林秀雄がマルクス嫌いで主敵をマルクス主義に定めていたというのは初耳だが、丸山真男がファッショ(軍国主義)の復活に終始おびえ続け、同じく危険なはずの左の全体主義たる共産主義に対しては大甘であり続けた不思議をきちんと指摘する粕谷の筆致はあくまで冴えている。

私が本書を読む切っ掛けとなった粕谷一希による竹内好評も痛烈だ。「尊王攘夷」ならぬ「尊毛攘夷」と言う言葉がある。平たく言うと粕谷は「竹内は尊毛攘夷主義者」であり、アングロサクソン支配の今の日本の現状を憎むあまり、先の大戦で我々が学んだはずの「アングロサクソンと敵に回してはならない」という大きな教訓の重要性を忘れた(もしくは学びたくない)大バカ者と言うことに尽きる。大東亜戦争を「攘夷の完成」と位置付け、戦争を煽りに煽りまくったのが保田與重郎だが、粕谷の目から見ると、言論の角度と対象こそ異なる(かたや軍国日本礼賛の日本浪漫派、かたや中国礼賛の尊毛攘夷主義者)ものの、その発想の根源が攘夷という点では大同小異と言うわけだ。

竹内の言論の異常さは岩波の雑誌「世界」1965年1月号に掲載された『周作人から核実験まで--特集・転機にたつ日本の選択』に端的に表れている。この論文の中で竹内は「けれども、理性をはなれて、感情の点では、言いにくいことですが、内心ひそかに、よくやった、よくぞアングロサクソンとその手下ども(日本人を含む)の鼻をあかしてくれた、という一種の感動の念のあることを隠すことができません」と毛沢東による一方的核実験と核保有宣言を非難するどころか、むしろ礼賛しているのである。粕谷は竹内のような「アジア主義的発想を「きわめて危険」と断じている。同様な危険思想の論者に寺島実郎や鳩山由紀夫、小沢一郎のような一部の民主党政治家がいる。彼らは粕谷の言う通り「ついにヨーロッパ・アメリカについて、あるいは日米関係について何事も学ばなかった」のではないかと疑われる。竹内好はアングロサクソンが支配する世界の秩序を「腐った秩序」と切り捨て、その革命的ロマン主義でこれを正そうと大論陣を張り、やがて彼が日本独立の夢を仮託した毛沢東の中国に厳しく裏切られることで挫折し、最後は錯誤と挫折の泥沼の中で鬱々たる心情の中で死ななければならなかった。粕谷の次の一文は痛烈である。「ソ連と言う脅威がある限り、日米安保条約は日本にとって必要でしょう-あの周恩来首相がこう言明した瞬間、戦後日本の革新陣営の思想的・政治的枠組は完全に崩壊したといってよい」。

近衛文麿と吉田茂を比較した一章も面白い。粕谷氏は日本を滅ぼした近衛文麿と、徳川の治世を壊した徳川慶喜に幾つかの類似点があると言う。両氏ともに(1)聡明であり識見に富んでいる、(2)興望を担って登場する、即ち世論の強い期待と支持があったにもかかわらず、(3)政治的指導者としては、悉く負の政治決断をし、分裂症的状態を呈し、結果的に多くの部下を無責任な形で見殺しにしたことであるという。近衛文麿の政治責任を糾弾する書は多い。しかし、具体的に近衛の政治決断の何が問題なのかを明らかにした書は意外と少ない。近衛文麿は死の直前、自分がしたことは「平和への努力」だったと弁明し、これをまた支持する論者(これに細川護煕や近衛忠大のような親族も含まれる)もいるから、近衛の行動の一体何が問題だったのか段々ボケてくる。その点、粕谷氏は明白に近衛の間違いを列挙し、その退路を断っている。
1)昭和13年1月16日、国民政府を相手とせずとの近衛首相名の声明を出したこと。
2)昭和15年7月22日、第二次近衛内閣の外相に松岡洋右を起用したこと。
3)昭和15年9月27日、日独伊三国同盟条約の調印。
4)昭和16年7月2日、対米英戦争も辞せざる「帝国国策要綱」の議定。
5)昭和16年7月28日、南部仏印進駐、その是認と実行。
6)昭和16年9月6日、外交交渉行き詰まりの場合、開戦時期を決定した「帝国国策遂行要領」の議定。
7)昭和16年10月16日、内閣総辞職。

戦争相手国の政府を相手としないで、どうして事態を収拾出来るのだろうか。重慶工作、汪兆銘工作の過程で、近衛の真意はあれこれ言われるが、公式の首相声明としてこれほど不可解なものはなく、シナ事変が泥沼化した形式論理の端的な発想がここにある」「シナ事変から太平洋戦争への過程で大きな岐路は日独伊三国同盟にある。国際連盟脱退と言うスタンドプレーで、日本を孤立化に追い込んだ怪物松岡洋右を、周囲の反対を押し切って起用した近衛の責任は重い」とする粕谷氏の指摘を読むとき、近衛の戦争責任の重大さが一層心に圧し掛かってくる。

「維新の元勲・伊藤博文、山縣有朋が消えていくとき、もはや、日本は統合された国家意志を形成できない」という粕谷氏の一文は、GDPの1.5%弱しかない農業・農民に配慮し過ぎてTPP加盟すら満足に決断できない今の日本の現状と重ね合わせる時、一層の重みを持つ。「時代はその時代に相応しい指導者を自ら選ぶものなのかもしれない」という粕谷氏の言葉を読むとき、鳩山由紀夫という稀代の暗愚な首相を選んでしまった我々の責任が想起され、背筋に冷たいものが走るのは私だけだろうか。

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紙の本

本書の白眉は「和辻哲郎と戦後日本 新偶像再興論」であろう。

2011/03/02 23:03

5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:トム君 - この投稿者のレビュー一覧を見る

和辻哲郎は哲学者として終始政治とは距離を置いた。「世界史の哲学」を提唱し海軍に接近した京都学派四人(西谷啓治・高坂正顕・高山岩男・鈴木成高)と異なり、知識人が政治主義的になることを徹底的に忌避した。和辻哲郎にとって最も忌避されるべきはファナティックな態度であり、左から現れるマルキシズムも右から現れる軍人の独善的なファナティックな態度も極端に嫌った。この和辻のスタンスこそが和辻を無傷で戦後まで生きながらえさせた。粕谷は和辻のスタンスを「戦争に何がしかコミットした人間が、敗戦に耐え、それを越えて、精神的営為を持続したことは、精神が国家の敗亡を越えうることを証明した」と評価しつつ、和辻を含む「日本人の資質の強靭さは、むしろこうした逆境のなかの姿に見出すべきだ」としている。

戦前に生まれ、戦中を生き、戦後まで生き延びた和辻はその姿勢を変えなかった。変えなかったことに本来の意義があるのだが、時流に流された岩波書店とその岩波に群がった軽薄な「進歩的知識人」と呼ばれた一群は、マルクス主義、コミュニズムに批判的な姿勢を崩さない和辻を含む自由主義者たちにオールドリベラリストという誹謗中傷のレッテルを張って攻撃と嘲笑の対象とし、当時岩波の看板雑誌だった「世界」から追い出してしまう。進歩的知識人とはどういう連中か。粕谷曰く「資本主義社会から社会主義へという歴史の発展(法則)は歴史的必然」で、「(世界の人々を図式的に)前衛・知識人・大衆(と色分けする)というレーニズムの命題こそ、知識人の位置であり、日本共産党への同調と協力のなかで、労働階級と連帯していくことがその責務」と信じる人々だということになる。具体的には丸山真男、大塚久、高橋幸八郎、辻清明、川島武宣、清水幾太郎らの社会学者。歴史学者では羽仁五郎、石母田正、北山茂、井上清、鈴木正四、奈良本辰也。文学では宮本百合子、中野重治ら「新日本文学」の常連や日本共産党に戦後入党した森田草平、出隆らの名前を粕谷一希は列挙している。

これら「進歩的知識人」は、時流を背景に矢襖のごとき罵詈讒謗を和辻哲郎らに浴びせ続けた。しかしそのいずれも「今日からみれば実効性のある批判といえるものはない」と粕谷は一刀両断している。マルクス主義に基礎を置いた社会科学が和辻らが提唱した哲学にとって代わることがついに出来なかったことについても粕谷は「体制批判と言う貴重な視点を提供したにも拘らず、その隠されたイデオロギー性のために、社会主義国家の現実が幻想を打ち破ると共に、次第に退潮してきていることは、蔽い切れない趨勢である」と断じている。注意しなければならないのは、本論文が書かれたのがベルリンの壁崩壊の遥か前、1981年だったことである。粕谷の慧眼は瞠目に値する。

ただびっくりしたのは和辻ともあろう大学者がSAPIO、WILLも真っ青な白人陰謀論を堂々と展開していたことだ。以下、和辻の文章を引用する。「日本は近代の世界文明の中にあって極めて特殊な地位に立っている国だ」「日本のこの特殊な地位は世界史的に規定されているのである。世界史上にこれまで高貴な文化を築いたものは、西アジア・欧州文化圏のほかにインド文化圏、シナ文化圏を数えることができるが、近代以後にあっては、欧州の文明のみが支配的に働き、あたかもこれが人類文化の代表者であるかのごとき観を呈した。従ってこの文明を担う白人は自らを神の選民であるかのごとく思いこみ、あらゆる有色人種を白人の産業の為の手段と化し去ろうとした。もし19世紀の末に日本人が登場してこなかったならば、古代における自由民と奴隷の如き関係が白人と有色人の間に設定されていたかも知れぬ」「だから20世紀が黄禍という標語と共に幕を開いたのは偶然ではない。近代文明の点においてはなお極めて幼稚であった40年前の日本の勃興が、直ちにジンギスカンの欧州席巻を連想せしめたごときも、日本人の能力が如何に欧州人にとって予想外であったかを示しているのである」「もし(白人絶対優位の)近代文明の方向が護り通されるべきであるならば、危険なる日本は抑圧されねばならぬ。この点において白人の国々はすでに連携して日本に対抗してきたのである」「英人がインドの資源を開発し、米人がアメリカの資源を開発することは、すべて文明の進歩を意味したが、日本とシナが連携して日本がシナの資源を開発することだけは、あくまでも妨害さるべきことなのである。シナにおける抗日の激成は日本を抑圧する最も有効な手段として、きわめて巧みに推し進められた」

この今も原田武夫や関岡英之あたりが垂れ流している陰謀論を粕谷一希は、一刀のもとに切り捨てている。「この(和辻哲郎の)世界観は多くの問題を孕んでいる。第一に、日韓併合、対シ21カ条要求、シベリア出兵、満洲事変と、欧米帝国主義を模した日本の帝国主義的行動についての批判的視点がない。第二に白人対有色人という観点が強調されて、対立が固定され、欧米の中の理想主義や宥和的態度の促進といった柔軟な戦略的思考が無い。また同じ欧米のなかでも政治体制やイデオロギーの角逐があり、そこでの合従連衡、権力政治と勢力均衡への観察が欠けている。いわば政治的思惟が欠如している」

けれどもと断って、ここまで陰謀史観を思い詰めた和辻を一転、粕谷は弁護したりもする。「船によって太平洋、印度洋を経て欧州に留学洋行する人々は、いやでも植民地支配の過酷さを目前の風景として眺める。その衝撃は深刻であり、近衛や和辻に限らない。大川周明のようなアジア主義者にその反応は典型的に現れるが、リベラルな傾向の人々にも、若き正義感を掻き立てるものがあったのである」

ただここで終わらないのが粕谷の優れたところで、「ここに、維新から日露戦争までを担った明治の第一世代と根本的に異なるところがある。自らの国力を計算し、日本自体が極めて脆弱な基盤の上に欧州列強の支配の中を辛うじて幸運に恵まれて生きて来ているという相対感覚が第二世代から消えていくのである。日本は今や日露戦争に勝って、列強に伍したのであり、同列の欧米列強を、対等に批判し自己主張を貫徹する姿勢だけが次第に強まっていく。敵を最小に、味方を最大にしながら自らの力の行使を最小に限定するという政治的叡智が失われていくのである」「アンゴロサクソンを敵に回すべきでないということこそ、我々が肝に銘ずべき最大の教訓なのだが、これを忘れるという愚を犯していくのである」

中国人民解放軍の現役の空軍大佐戴旭が書いた「中国最大の敵 日本を攻撃せよ」(徳間書店)を読んだ私には、なんだか戦争前の日本と、今の中国が二重写しになるんですよ。

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