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紙の本
むすめはしあわせだったと思うのだ。
2009/05/13 23:32
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:wildcat - この投稿者のレビュー一覧を見る
山の村のむすめは、あるとき、山を五つ越した先の祭りに招かれて、
村のわかものと知り合った。
祭りのかがり火は、ふたりの心に灯った炎だったのだろう。
しらじらと夜があけたとき、むすめとわかものは、
たがいにわすれられんようになっていた。
むすめは思い続ける。
あの山さえなかったら、あの山さえなかったら・・・。
「そうだ、山を こえて あいにいけば いい。
そして、その夜のうちに もどっていれば、
だれにも しれはしない」。
むすめは火のような息をはいてはしりつづけ、
ひとばんで五つの山をこえて、わかものの家までたどりついた。
わかものをたずねたむすめの手にはつきたてのもちが一つずつ。
その夜、ふたりはしあわせで、
それからむすめはまいばんのようにわかものをたずねた。
かならず、つきたてのもちを手にして。
でも、しあわせはつづかなかった。
まいばんむすめがたずねてかたりあう夜がつづき、
わかものはしだいに弱っていったのだ。
なかまに、むすめのことを「魔性のものだ」といわれ、そして・・・。
むすめのこの思いつめ方は、まるで、八百屋お七のような迫力だ。
家をでるときに、もちごめをひとにぎりずつにぎって、
わかものにあいたいと思ってはしりつづけるうちに
もちができてしまうくらいに、心の炎を燃やし続け、
ひとばんで五つの山を越えてしまうのだから。
その恋の炎は、彼女を魔性のもののようにした。
これは、恋が報われなかった悲しい悲しいお話、のはずなのだが・・・。
私には、このむすめがとってもとってもしあわせだと思える。
そうまでもひとりの相手を思い続けられたこと、
そして、その思いがカタチとなって、残り続けていることが。
この鮮やかな紅色の表紙。
もちを手に真っ赤な着物を着て走るむすめ。
この赤はきっと、つつじの色だけでも、着物の色だけでもない。
心の中の炎の色だ。彼女の中を脈打ち流れる血の色だ。
この世に生きて、一人の人を愛しぬいた証なんだ。
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