投稿元:
レビューを見る
よくぞここまで集めた!
大学の「オリエント史概説a」の参考書として使用。洪水が地上を滅ぼした、という粗筋が同じ世界中の昔話が一堂に会す。資料価値が非常に高く大変良い。以前レビューした「食文化―歴史と民族の饗宴」で紹介されていた異国の昔話の類似性と相違点が詳述される。
ただし、原典の直訳では無く著者が適宜話をまとめており、それを訳者が直訳している(ので意味の取りにくい日本語の箇所があるのだが、それが元々そういう不思議(意味不明)な伝説なのか判別がつかない)。原典の雰囲気が損なわれている気がして残念である。さすがに全伝説に注力はできなかったのか、地域により記述の熱量に偏りがある。本書の大部分は、ヘブライとバビロニアの関係性、ギリシャの故地を著者が訪れたときの感想、北アメリカの伝承のバリエーション、に占められてしまっている。類似と思われるアトランティスには言及されない。
結論は書かれていない。比較・考察は読者にゆだねられている。日本は災害大国で台風、津波、鉄砲水もあるのに、意外にも訳者あとがきで補足されるのみ。なんだか色々と考えさせられるという意味では良い。
目次
1.序論
○世界の大洪水に関する物語
2.バビロニア
3.ヘブライ
4.ギリシャ
5.古代インド
6.近代インド
○世界各地における大洪水の物語
7.東アジア
8.インド諸島
9.オーストラリア
10.ニュー・ギニアとメラネシア
11.ポリネシアとミクロネシア
12.南アメリカ
13.中央アメリカとメキシコ
14.北アメリカ
15.アフリカ
16.洪水物語の地理的分布
17.洪水物語の起源
18.訳者あとがき