紙の本
ミステリの薀蓄
2004/04/09 05:15
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:明けの明星 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミステリ(または推理小説または探偵小説または……)の定義については、これまで様々なことが言われてきた。現代において完全な定義をすることは不可能である。ミステリは本当に多様に発展したので、それをひとくくりにまとめることは、ちょっと無理だ。
ポオが書いたミステリは何だったか。そこにはまず謎があり、推理があり、解決があった。だから、もっとも広汎にミステリを纏め上げる定義は、「謎とその推理とその解決(真相)を中心とした物語」となるだろう。乱歩のように、「主として犯罪に関する」と頭に付けてもいい。探偵役が必要なのは、この推理の部分をやらなければならないからだ。
本格ミステリとは何か。ポオの探偵小説は種であり、そこから樹木が生まれた。本格とは幹の部分に価するものだ。忘れてはならないのは、それが伝統的に築き上げられたものだということだ。本格ミステリが完成したのは、いわゆる黄金時代であると思う。ポオ自身が伏線の妙やアリバイ崩しやどんでん返しを発明したのではない。ポオが基礎的な要素を一挙に提示したのだが、すべてを、ではない。その樹木を発展させる活力となったものは、知的な面白さを求めるという人間の一側面である。人間がこの知的な面白さを忘れないかぎり、ミステリの樹木は枯れることがないだろう。
「本格ミステリ」と一口に言っても、その種類は様々であり、当然その様々な種類は許されるべきなのだ。
では、その広汎なミステリのなかでも、ぼくが最も好きなミステリの特徴を一言で表せば、こうなる━━「犯罪分析の論理学」。……つまり「推理」の部分をクローズアップし、論理的に揺るぎなくしたものだ。
名探偵エラリー・クイーンは「犯罪分析の論理学」のスペシャリストである。例えば『フランス白粉の謎』。この複雑な事件を、エラリーは徹頭徹尾、論理で解く。
驚くべきなのは、これが作者の第二作目だということだ。物的証拠と状況証拠をちりばめて、堅実な分析的思考を探偵に駆使させる作者の手際は、デビューニ作目にして、すでに名人の域である。
解説に作家クイーンが提唱した「推理小説批判法」が紹介してある。10項目を10点満点で評価して、合計が何点になるかで、そのミステリの質を総合的に評価しようとしたものだ。
この『フランス白粉の謎』にもぼくなりに適用してみると……プロット6、サスペンス6、意外な解決6、解決の分析10、文体7、性格描写6、舞台10、殺人方法5、手がかり10、フェアプレイ10━━で、76%である。作者クイーンによると、この作品は「佳作(70%)」以上「秀逸(80%)」以下、になる。
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はなれわざ
2001/08/03 12:18
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投稿者:女王 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品はミステリー史上に残るはなれわざを演じてみせたことでつとに有名である。それは「最後の一行で犯人を指摘する」ことだ。この作者らしく謎解きのパートは非常に長いのだが、それでも最後まで真相は判らない。お見事。
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フランス白粉の謎
2001/08/31 13:58
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:死せる詩人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「フランス白粉の謎(以下、本書)」は、「ローマ帽子の謎」に続く国名シリーズの第二作目である。クイーンといえば名実共にミステリ黄金時代を築きあげた偉大な作家の一人(というか二人だが)である。
本書に登場する探偵の名は作者と同じ「エラリィ・クイーン」である。本書を読む限りでは、この探偵役は決して活動的ではない。どちらかと言えば家にじっとしていて情報が入ってくるのを待つ安楽椅子型の探偵にも見える。しかしながら、本書を読むと非常にアクロバティックな印象をうける。探偵役を中心に進む物語は、動的なシーンの転換も無く、途中劇的な変化がみられるわけでもない。では何故か。
場面としてはあくまで静的なものが続くにも関わらず、アクロバティックな雰囲気を感じるのは、なによりも探偵エラリィ・クイーンによる論理展開のダイナミズムによるところが大きいだろう。特筆すべきは、本書が成した快挙、まさに推理小説の骨頂とも言えるが「最後の一行で犯人を名指す」ことであろう。この様な挑戦は常に試みられ、他の作品においても少なからず実践されているが、本書の衝撃感を超える作品は寡聞にして聞いたことが無い。
ミステリの黄金時代の勢いを感じさせてくれる良書である。
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いつもながら圧巻の推理
2021/06/06 11:33
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投稿者:たっきい - この投稿者のレビュー一覧を見る
国名シリーズ第二弾。読んでいてこれも全て伏線なんだろうなぁと楽しく読み進められます。全編伏線に満ちていて、エラリーの理詰めの推理が冴え渡ります。特に最後の60ページで犯人に対して有無を言わさず、論理的に迫っていくこの迫力は圧巻の一言!古典と言われながらも、現在の数多くの作家をも凌ぐ実力であることを痛感。ただこの作品で唯一、残念なのは犯人のインパクトが薄いこと。それ以外は満点の出来に感じました。
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かなりエラリーから問題提起はされてるんだけど全部無視して最後の解決まで突っ走ってしまった。確かに論理的に考えていけば犯人は分かるよねぇ…。「なぜ犯人は死体の発見を遅らせてまでやらなければならないことがあったのか」という点についての推理はかなり興味深い。俺にはそこがわからなかった。面白かった。
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エラリー・クイーンの地位を確固不動のものにした、その第二作。ニューヨーク五番街の大百貨店“フレンチス”の飾り窓から忽然と転がり出た婦人の死体をめぐり、背後に暗躍する麻薬ギャングと知能比べを演じるエラリーの会心の名推理。わずか数粒の〈白粉〉と、棒紅のなかからころがり出たヘロインの〈白い粒〉の謎の真相は、一体何か?
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エラリー・クイーンの地位を確固不動のものにした、その第二作。ニューヨーク五番街の大百貨店“フレンチス”の飾り窓から忽然と転がり出た婦人の死体をめぐり、背後に暗躍する麻薬ギャングと知能比べを演じるエラリーの会心の名推理。わずか数粒の〈白粉〉と、棒紅のなかからころがり出たヘロインの〈白い粒〉の謎の真相は、一体何か?
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フレンチ・デパートの収納型のベッドから転がり出たフレンチ夫人。前夜から行方が分からなくなった連れ子。消えたフレンチ夫人の口紅、マリオンのスカーフ、焼けたブックエンドの謎。社長私室に残された煙草の吸殻。社長の愛読書の謎。麻薬組織の取引。
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フレンチ百貨店の展示会で、正午十二時に死体が転がり出てきた。
死体は社長サイラス・フレンチの妻ウィニフレッド夫人。
撃たれた場所にしては出血が少ないこと、塗りかけの口紅の色が違うこと、義娘のマリオンのスカーフ、鍵の紛失・・・。
さまざまな手がかりからエラリーは殺人は上のサイラスのアパートで行なわれたと推理した。そこにはウィニフレッド夫人の娘バーニス嬢の痕跡をしめす靴や帽子、煙草、カードゲームの跡などがあり、しかも彼女は麻薬常用者だったらしいことがわかってくる。
失踪したバーニス嬢が犯人なのか、それとも他の誰かなのだろうか?この事件には麻薬が関わってくるのではないか?―――というのがあらすじ。
非常に面白かったです。相変わらずクイーン父子は仲がよく、パパがいきなり「おまえはいい子だよ」と言い出すと「およしなさいよ」と赤面するエラリー。微笑ましい。
訳は大分慣れてきました。ただやっぱりところどころ気になるところはあって、ニガーとか、黒ん坊とか、いや、時代からして仕方がないのかもしれないけれど。
特に警視の言葉遣いはこれが本当に老人の言葉遣いかよ と思うほどかわいいです(褒めてます)
クルーサーの発見に対しエラリーが「すてきだ」と言い、警視が「すてき、すてき」と言ったシーンは忘れられません。警視かわいすぎ。(まちがいなく訳のおかげ)
あとすごい個人的なことなんですけど、十角館〜でアガサが殺された時の口紅の色が違う!ってこれのオマージュだったんですね。
海外ミステリの大家みんな読んだらもういっかい読みたいなあ。十角館。
トリック自体は謎が謎を呼ぶ感じの巨編。わたしは「何者かが鍵を欲して電話してきた」のところで、じゃあ犯人は女か!と思ってしまったタイプ。あーあ。
そこの声が女だったことはあんまし関係ないんかい・・。
推理が迷走しつつも、え、じゃあ重役の誰かなんだろ?フレンチか?トラスクか?とワクワクして読んでいったら、最後に驚いたこと驚いたこと。
最後の一行で「うわああああああああ」と叫んでしまいました。納得!
おみごとです。気持ちよかったです。
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冒頭から劇的な展開。
口紅やブックエンドの底のフェルトにまるわるロジカルな推理にわくわくした。
じわじわと追い詰めて、最後の一行で犯人を告げる。かっこいい!
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クイーンの国名シリーズ第2弾。張り巡らされた伏線が綺麗に回収される。度肝を抜かれながらも納得できる。
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ニューヨーク五番街にそびえる大百貨店“フレンチス”にある
展示室内の収納ベッドから転がり出た女の死体。
唇には半分しか紅が塗られておらず、
当人の持ち物でないスカーフと口紅棒を持っていた。
数少ない手がかりから、調査を行うべき場所は
百貨店の六階にある、フレンチスの重役会会長である
サイラス・フレンチのアパートであるとエラリーは看破する。
死体が所持していた口紅棒の中から発見された白い粉や、
アパートの机の上にあった五冊の書物の存在から、
エラリーは、麻薬密売組織の存在を裏にかぎとる。
果たして、婦人を殺害したのはいったい誰なのか?
エラリー・クイーンの国名シリーズ第2作。
原題「The French Powder Mystery」。
今年の初めに読んだ「ローマ帽子」は
そこまで凄い作品だとは思わなかったが、
この「フランス白粉」は印象がまったく異なっている。
謎の構成の仕方や、その解決の仕方などは
基本的に変化していないと思われるが、
そうではなく、物語の展開の仕方や、
演出のほうに大きな変化があるように見受けられる。
まず、ストーリーの流れが非常にわかりやすいうえ、
適度な起伏もあるので、とても読みやすくなっている。
たとえば、謎の解決を最後にまとめてしまうのではなく、
エラリーによる説明をところどころに挟んで
段階的に行っていくようにしてある点などは
わかりやすさを向上させている工夫のひとつだろう。
また、最後に関係者を全員集めて、
探偵役であるエラリーが謎解きを行い、
徐々に犯人を追い詰めていくシーンは、
今でこそ推理小説の定番となってはいるが、
当時としては画期的なものだったのではないだろうか。
ただ探偵が事件の真相を説明するだけの解決編では
いささか味気ない感じがするのは避けられないが、
犯人を最後に追い詰めるという演出にすることによって、
読者を最後まで物語に惹きつけることが可能となるのだ。
こういった解決編がクイーンの発明品かどうかは知らないが
この作品は、その効果の大きさを存分に思い知らせてくれた。
あと、今回は、エラリーが主役であることが
はっきりとわかるようになっていたのも良かったと思う。
個性的な探偵役がいなければ、
本格ミステリはやはりつまらないだろう。
国名シリーズを読むのがどうも滞っていたが、
この作品のおかげで先がとても楽しみになってきた。
「オランダ靴」も、なるべく近いうちに読んでみよう。
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クイーンは理論先行のため、面白いのだけど眠くなるという難点がある。
でも、これは今まで読んだ国名シリーズで一番面白かった!一般的な評価とはちょっと違うが。
情報に無駄がない。すべての伏線が一本につながる中でも、最後の最後まで犯人がわからない。とてもわくわくさせられる作品であった。
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(1986.12.31読了)(1986.11.14購入)
*解説目録より*
エラリー・クイーンの地位を確固不動のものにした、その第二作。ニューヨーク五番街の大百貨店〝フレンチス〟の飾り窓から、こつ然と転がり出た婦人の死体をめぐり、背後に暗躍する麻薬ギャングと知能比べを演ずるエラリー会心の作。わずか数粒の「白粉」と、棒紅の中から転がりだしたヘロインの「白い粉」の謎。
☆E.クイーンの本(既読)
「Xの悲劇」E.クイーン著・大久保康雄訳、新潮文庫、1958.10.30
「Yの悲劇」E.クイーン著・大久保康雄訳、新潮文庫、1958.11.15
「Zの悲劇」E.クイーン著・横尾定理訳、新潮文庫、1959.10.20
「レーン最後の事件」E.クイーン著・鮎川信夫訳、創元推理文庫、1959.11.13
「ローマ帽子の謎」E.クイーン著・井上勇訳、創元推理文庫、1960.12.02
「アメリカ銃の謎」E.クイーン著・井上勇訳、創元推理文庫、1961.04.14
「スペイン岬の謎」E.クイーン著井上勇訳、創元推理文庫、1959.10.09
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国名シリーズの中ではそれほど評判が高くないし、僕もすっかり忘れてしまっていた作品。
が、再読してみると、すごい。
謎の提示のされ方、その魅力度、何よりその解決のされ方の完成度が恐ろしく高い。
特に最後の謎解きシーンなんてすごいんだよね。
いや、実は若干論理として引っかかった部分はあった。
でもそんな瑕疵を差し引いてなお、本書はすごい。
特に「単独犯であったか複数犯であったか」について、実に実にあたりまえの、しかし普通は気づかない論理で証明していくあたりは、もうしびれた。
クイーン、再読していってよかった。