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シルクロード幻想と夫婦愛の物語
2007/03/17 22:16
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
織物の起源は、BC6000年のカスピ海沿岸地方に遡るのだという。美しい絨毯を作る技法を伝える一族があり、その絨毯を持つ者はは強大な王にもなれる魔力があると伝えられる。一族は追われてシルクロードを東へ逃げ、ついには古代の日本にまで辿り着き、秘かに技法を伝承していた。その末裔である一人の女が謎の組織に誘拐され、中東へと運ばれる。夫と、古代染色研究家がそれを追う。
追跡はサウジアラビアから、スペイン、フランス、ノルウェーと疾駆し、血みどろの闘争を各地で繰り広げる。それらを誘発するのは、古代からの血と欲望の脈流であり、そこに現代=1980年政治の諜報戦の影が差しかかる。
伝奇小説の枠組みではあるが、どこか乾いていて疾走感がある。妻を追う元刑事とコンビを組む老考古学者が破天荒なキャラクターで、異端の説と放言で学会追放されており、とことん飲ん兵衛で、我がままで、減らず口の塊のような爺さんだが、憎めない愛嬌があり、なぜかフェンシングの名手。さらにサウジの非合法酒場で出会った民間CIAのような凄腕のアメリカ人探偵、老学者の旧友というフランスの学者と、この4人の珍道中じみた描写が、設定の暗さを払拭してしまう。彼らには、平凡な市民感覚を破壊するような展開を身上とする寿行作品の中に身を置いて、その日常性からの乖離と、それにしっかり対応してしまう自分たちという存在を冷笑的に見ている韜晦がある。
「君よ憤怒の河を渉れ」から既に多くのハードロマン系作品を世に出した寿行様にとっては、こういった作品世界の「壊れ方」もまた必然に歩む道なのだろう。しかしそうして人物が壊れようが、飲んだくれていようが、芯の展開は幻の錦繍織に繋がる怨執、背景組織を暴き立て、ついにはKGBとの死闘も越えて祖先発祥の地で驚愕の結末に辿り着く。それでいて、染め上げられた日本の美しい四季を謳い、歴史の闇も苦難も乗り越えていく夫婦愛の物語なのである。
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