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忘れられた旧幕臣テクノクラートの全体像とその多彩な足跡
黎明期の近代日本が必要とした同様の逸材でありながら、勝海舟や福沢諭吉に比して、小野友五郎は部分的にしか語られることがない。和算家・洋算家、航海士、水路・鉄道測量家、造船家、製塩技術者等として、幕末明治を科学技術の側面から支えた旧幕臣の細部まで見きわめつつ、その全体像を初めて浮き上がらせる。在野の史家が、新発見の史料をも駆使して、二十年の研究成果を世に問う。忘れられた旧幕臣のテクノクラート。(昭和60年刊)
序章 随伴鑑・咸臨丸にて
Ⅰ 和算家から天文方へ
Ⅱ 長崎海軍伝習所の日々
Ⅲ 幕末・江戸湾の地政学
Ⅳ 小笠原群島領有権の主張
Ⅴ 東奔西走のテクノクラート
Ⅵ 米国再航ー既製軍艦の買付け
Ⅶ 幕府瓦解と「勅諚」下獄
Ⅷ 明治・鉄道事始ー幹線は東海道か中山道か
Ⅸ 新官僚に託す夢
Ⅹ 維新後のライフ・ワークー塩業
終章 幕末海軍の功労者は誰か
めっぽう面白い。不覚にも小野友三郎のことを知らなかったが、能吏でマルチに活躍したテクノクラートであることがわかる。小野は笠間藩の出身、つまりは陪臣である。養家の家督相続時は禄高3両2人扶持の軽輩であったが、和算を学んだことにより地方手代となる。36歳の時に、藩の命により幕府天文方への出役を命じられ、頭角を現したことにより、長崎海軍伝習所へ派遣されることになる。長崎では高等数理を修め測量術を習得し、44歳にして咸臨丸で渡米することとなる。この快挙により、陪臣の身でありながら将軍に謁見し、直参へ登用されることとなる。
帰国後は、小型軍艦造船の建議を行い、これが千代田形建造につながる。
普通であれば、海軍の一軍人として終わると思われるが、小野は単なる航海士ではない。勘定奉行組勝手方へ組み替えとなり勘定組頭となる。「軍艦奉行木村摂津守」では、勝海舟と対立して転役したと書かれていたが、海軍拡充のためその計数能力を見込まれたのではないだろうか。
小野は、軍艦買い付けのため、責任者として米国に最航し甲鉄鑑を買い付けることになる。
(この時に、公私混同し職責を果たさない福沢諭吉とのトラブルが発生することとなる)
帰国後、兵庫開港御用を果たすため上坂したところで、鳥羽伏見の敗戦に巻き込まれる。軍用金18万両を輸送した話は面白いが、敗戦の責任者として蟄居入牢の身となる。(この点、著者は不仲だった勝海舟の暗躍により、生贄とされたとしている。この指摘は大変興味深い。個人的な恨みかは別として、恭順を示すためにも生贄が必要だったことは察せられる。また、情報が錯綜する中での誤解があった可能性もあるが、他の本も読んでみたい。もし入牢していなかったら函館戦争で命を落としていたかもしれない、塞翁が馬ということであろうか)
維新後は民部省に出資し、鉄道建設のための測量に携わる。退官後は製塩事業に携わる。官界で大成しなかったのは、年齢の問題もあったかもしれない。
本書にかかると勝海舟も福沢諭吉もろくな人間ではない。通説では高く評価される人物の裏面を感じさせて面白かった。著者の見方が妥当であるかどうか判断は出来ないが、他の本を読んで掘り下げてみたいところである。
本書は、幕末史(海軍史)を知る上で必読の1冊と言える。
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本の紹介にありますが、
黎明期の近代日本が必要とした同様の逸材でありながら、勝海舟や福沢諭吉に比して、小野友五郎は部分的にしか語られることがない。
和算・洋算家、航海士、水路、鉄道測量家、製塩技術者などとして、幕末明治を科学技術の側面から支えた旧幕臣の細部まで見きわめつつ、その全体像を初めて浮き上がらせる。
在野の史家が、新発見の史料をも駆使して、20年の研究成果を世に問う、“忘れられた旧幕臣テクノクラート像”
ということです。
目次
序章 随伴艦・咸臨丸にて
Ⅰ 和算家から天文方へ
Ⅱ 長崎海軍伝習所の日々
Ⅲ 幕末・江戸湾の地政学
縁行Ⅳ 小笠原群島所有権の主張
Ⅴ 東奔西走のテクノクラート
Ⅵ 米国再航――既製軍艦の買付け
Ⅶ 幕府瓦解と「勅諚」下獄
Ⅷ 明治・鉄道事始――幹線は東海道か中山道か
Ⅸ 新官僚に託す夢
Ⅹ 維新後のライフ・ワーク――塩業
終章 幕末海軍の功労者は誰か
激動の幕末・維新・明治という時期、すばらしい能力を発揮するには、あまりにも変化が激しすぎた。
しかしながら、絶対的・普遍的な能力というものは、時代の要請で発揮できるのである。
以前、別の本の感想文でも書いたが「社稷」という観念デル。
生まれ育った祖国が未来永劫続くよう、一身を賭する覚悟で事に当たる。
明治政府になってからも、世の為人の為、政府・議会に箴言・請願の数々、すばらしい人生だと思います。
パフォーマンスが得意であった勝海舟・福沢諭吉のこともチラリと皮肉ぽっく書かれています。
すばらしい日本人が存在したということを教えてもらった力作でした(感謝)。
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咸臨丸に乗り込んだ幕末の航海士(天測担当のテクノクラート)の物語、若いころから和算を学び、幕府の天文方で暦の改定等を行い、更に、幕末にオランダ海軍の支援で創設された長崎海軍伝習所の一期生(オランダ人の教師から近代数学も修得等)、小野友五郎の一代記であります。ともすれば勝海舟の名前が大きく取り上げられる咸臨丸の太平洋横断の物語ですが、実態は、少し違う姿のようであります(勝は、役立たずの艦長だったようです、その辺りは、福澤も本に書いております)。この本では、咸臨丸軍艦奉行木村摂津守の従者として同乗していた福沢諭吉への言及が全くないところも興味深いところです(ジョン万次郎等への言及は多々あるも)。★四つです。