紙の本
芸は身を助ける。芸の、たぶん番外編くらいの読書であっても。
2010/03/14 09:22
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
無類の読書家にして、軽妙な筆致のエッセイと小説で知られるの群ようこの出発点が回想される。
著者、本名木原ひろみは、そもそも普通の会社勤めに縁のない人物だった。重いみこしをあげて就職活動をはじめた時期は、はっきりとは書かれていないが、どうやら大学卒業のまぎわの2月だったらしい。学生時代は本を読むばかりが能でしかなく、スカートをはくのは4年ぶり。
時代は、低成長期に入った1970年代後半。応募した広告会社に一発で受かったのは奇跡といわねばならない。
著者の才能がはやくも見出されたのであろうか。
とんでもない。
会社自体が妙な会社なのであった。定刻に退社できたのは出勤初日だけ。くる日もくる日も夜の10時、11時まで残業が続く。仕事が片づいて、午後7時に退社しようとすると、上司から憎々しげに挨拶を送られる。その上司のミスの後始末のため、真夜中までミス・プリントの文字をカッターで削ったりもした。疲労が蓄積し、休日に休養しても癒されない。ついにプッツンして5か月で辞めた。
爾来、20代に転職すること6回。音楽雑誌の会社は、社長に胸をさわられかけて辞めた。社内報を編集している会社は、領収書に母親の名が勝手に使われているのを見つけて辞めた。かくて、彼女は「転職のプロ」となる。会社在籍最短記録は2日(某大手メーカーで上司とケンカして辞めた)、最長記録は5年半(本の雑誌社)である。
本の雑誌社の給料は安く、学歴を活かせない事務の仕事だったが、性に合っていたらしい。
門前の小僧で原稿依頼がはいるようになり、注文が増えるにつれて本業と両立しがたくなって辞めた。これがまあ終の住処か雪五尺、ならぬついの転職である。
内田百間が芸術院会員に推挙され、これを辞退した時、なぜ辞退したのかと問われて、「嫌だからいやなんだ」と答えた。理由にならない理由だが、ひとは必ずしも合理的な理由によって行動するわけではない。たいていの人は、自分の行動を正当化し、なんとか説明をつけるものだが、百間は自分の行動を説明する気はさらさらなかったらしい。世間の常識からはみだして恬然としていた。かかる人物を世間は偏屈者と呼ぶ。当然ビンボーと仲良しで、借金王となった。よくしたもので、偏屈者を愛する人も少なくなかった。好きだから好きで汽車にのって旅立つ百間に随行したヒマラヤ山系君なぞ、その最たるものである。
群ようこも、一度は世間なみに好きでもない企業に就職したものの、以後は嫌だから嫌で退職し、転職し、ビンボーしながら本の雑誌社に勤めつづけ、好きだから好きで無数の本を読破しているうちにプロの書き手、作家に身を転じた。芸は身を助ける。芸の、たぶん番外編くらいの読書であっても。
群ようこは、百間ほど頑なではないし、衒いもない。百間と同じくユーモラスだが、百間のいくぶん不気味な調子はなくて、軽い。
時代がちがうのだ。
明治生まれの内田百間は、嫌だから嫌をとおすには、身構える必要があった。彼のユーモアがいくぶん窮屈な印象を与えるのはそのせいである。
別人「群ようこ」が生まれたのは、高度成長の余塵がまだ残るころで、百間ほど構える必要がないのどかな時代であった。
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エッセイスト群ようこセンセ。広川がなにか書いているときは、センセのエッセイしか読めません。この「別人「群ようこ」のできるまで」は、まさにタイトルどおりの内容。これが事実だってんだからスゴイよね(笑)
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*
若いころの仕事の話。こんなに会社勤めはたいへんなのかと、この本を読んだだけで憂鬱になってしまった.
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内容(「BOOK」データベースより)
求人広告で見つけた代官山の広告代理店、カッコいいお勤めと思ったのに残業時間はものすごく上司ときたらいやらしい。転職重ねて6回目、遂に落着いた先が椎名誠、目黒考二、沢野ひとしの本の雑誌社。苦情電話と台帳相手に留守番ひと筋のイライラを原稿用紙にぶつけて解消するうちに、いつの間にやらエッセイストになりました。
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高校3年生くらいから、かなりハマった「群ようこ」
エッセイを書かせたら右に出る人はいないと思っています。
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この本に出会ったのは学生時代。
当時アルバイトをしていた書店で、レジカウンターに立ちながら、(原因はすっかり忘れてしまったけれど)ひどく落ち込んでいた私に店内整理から戻った私に「これ読んだら元気になるで」と、店長が手渡してくれたのがきっかけだった。
群ようこさんの本は、以前おばにすすめられて読んだ「アメリカ居すわり一人旅」がおもしろかったこともあり、買って読むことにした。
その夜の読み終わったあとの興奮は、今でも忘れられない。
仕事に、生き方に、ぐるぐると迷い続けた数年間ののちにエッセイストとしてスタートするまでを描いているのだけれど、悔しく惨めな思いの詰まったOL時代、「本の雑誌社」で働けることになって喜んだのもつかの間、不安に押しつぶされそうになり、ギリギリの精神で生きていた緊張感などが含まれていて、読みながら心がきりきり痛くなってくる。
けれど、恨み節でも、しゃかりきにがんばろう!という雰囲気でも決してなく辿りつくのは「仕方がない、やるしかないのだ」という言葉。
頭を上から押さえられたとしても、力でその手を振り切るのでも、泣いて逃げるのでもなく、じーっと上目遣いで相手の動向を伺いながらため息をつきつつ仕事をこなし、最後に最後に相手の腹に回し蹴りを入れて去るような、そんな爽快感。
けれど、そこに辿りつくまでの鬱々とした気持ちは痛いほどわかるし、社会の中での理不尽な扱いもきっと誰しも「あるある」と感じるからこそ、本の中に入り込んで一緒になって「やるしかないのだ」と思える。
読み終えたあと、頭のてっぺんから煙が出ているのではないかというほど体の芯から力が湧いて熱くなり、すすめてくれた店長に感謝した。
「仕方がない、やるしかないのだ」
この本に出会って以来、私は壁にぶつかるたび、本を読み直してはこの言葉を繰り返し呟いてまた拳を握り直すことにしている。
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くじけたっていいんだ、大丈夫だって思える本。
群ようこは出るべくして出た人なんだなぁって思う。
私には仕事を変えて泳いでいく勇気、ないもの。
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一気に読んだ。
群ようこの性格が良く分かって飾らない、頑張り過ぎない彼女にとても好感を持てたし、群ようこからみた椎名さんの仲間たちの様子がとても興味深く、楽しんで読んだ。
中でも、群ようこがやりたい放題の沢野さんに冷たくし、シュンとして帰った彼がいままでいた場所に残した「僕のこと嫌い?」のイラスト付きメモのエピソードは、憎めない彼の人柄が出ていて、とてもかわいらしくて笑ってしまった!
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「本の雑誌」を群ようこ視点で語られていて
椎名誠の「本の雑誌血風録」と合わせて読んだので楽しめた。
余計に本の雑誌自体を読んでみたい。
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執筆家としての「群ようこさん」ができるまでの自伝本的エッセイで
広告代理店から始まり、職を転々としながらどうやって
今の群さんが生まれたのかももちろん、昭和60年に書かれた本なので
ワタシがまだ子供で知らなかった大人の目線での60年を見れたのも
すごく興味深く、おもしろかった。
「本の雑誌」の熱心な読者から、働く側になった幸せと苦悩、
物書きとしての道を見出してくれた母的存在の西村かえでさんとの出逢い、
「群ようこ」というペンネームになったいきさつ。
群さんファンとしてはたまらないエピソードも満載でした♡
中盤までは苦しくて苦々しい会社でのエピソードが続くので
ちょっと読み進めるのがつらかったけど、広告代理店時代の電話応対で
「いつもお世話になっております」と「こんにちは」が
慌ててしまって、「いつもこんにちは」と言ってしまった
エピソードなど、群さんらしい軽快なテンポでタイムスリップした
昔の日本の背景も体験できて楽しい1冊でした。
「本の雑誌」もその当時の椎名誠さんの本も合わせて読んでみよう!
と新たな楽しみももらいました[*Ü*]
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群さんのOL時代を知ることができて面白かった。本の雑誌社の面々をwikiで調べて、「あぁ〜こんな人たちなんだぁ〜」と一度で二度楽しめた。
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図書館で借りたので、読んだのは単行本版。本の雑誌の目黒考二氏がお亡くなりになったので、関連本として読んでみた。本の雑誌草創期の目黒さんの様子が伝わり、感慨深いのであった。
本の前半で広告代理店の話がでてきて過酷な勤務状況が語られるが、当時はたいていそんなもんじゃなかったのかなあと思いました。どの世界でも代理業はつらいんだな。