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興味深い論考。しかし時折唐突に挟まれる現代医学への批判や提言は、やや我田引水の感を免れない。もっとも著者は当時弱冠四十歳の定時制高校の歴史教師。おそらくこれがデビュー作。しかも大腸癌の父親を自宅で介護中という身なので、こうした傾向もやむを得ないかとも思う。
末期の医療については、現在もほぼ同じ土俵で患者や家族が葛藤し続けているところをみると、まことに根の深い問題だと思う。
往生集、説話集のなかでは、医薬に頼らずとも往生の直前には仏のお計らいにより一時的にも苦痛は消え安らかな最後を迎えることが「おやくそく」になっているようだ。しかし臨終の正念が往生のために必須とする教えから、多くの人々は、医薬の助けをも借りて臨終正念を得ようとした。
まあこれが凡夫の自然な思考であろう。
臨終の医薬の使用について、病気のために心が乱れては「臨終の一念は百年の業に勝る」とする大切な臨終正念が得られないとして、延命のためにではなく、心静かに死ぬために医薬は必要なものであり、医家によく尋問して使用せよとするものがある一方、往生の障りは生を貧ることであり、灸治.療病はその障りを助けるものであるとして、臨終時における医薬の使用を否定するものもある。このあたりの悩みは昔から少しも変わっていないことを痛感する。