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紙の本
爽やかな文人気風と武人たる使命が融合した陸軍将帥の半生記
2022/01/23 04:26
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投稿者:永遠のチャレンジャー - この投稿者のレビュー一覧を見る
二段組で500頁を超える著作を『私記・一軍人六十年の哀歓』と題した点に、今村均の文人的な気風と武人たる使命の融合を感じる。日露戦争従軍軍人の手記『ある明治人の記録―会津人柴五郎の遺書』(中公新書)や『石光真清の手記[城下の人など全四巻]』(中公文庫)なら、かつて読む機会を得た。
近代国家樹立後四十年で大国ロシアを破る絶頂期を迎え、そこから四十年を経て対中、対米英の二正面戦争の愚を犯し瓦解した大日本帝国終焉の歴史には、後れて帝国主義レースに加わった新興国の焦燥や悲哀が滲む。
昭和期の軍人たちは、陸軍では皇道派vs統制派、海軍では艦隊派vs軍縮派という派閥抗争により、多分に政治的な駆け引き(主導権争い)に彩られる。政争と無縁で、部下と共に南方の現地監獄に服役するのを望んだ今村の名前だけは私も知っていた。
「日本陸軍が生んだ最高の名将」を宮崎繁三郎だとする秦郁彦は『昭和史の軍人たち』(文春文庫)の「昭和将帥論」で、「今村均が布いた善政は著名で、ソフトな文化人」でもあり、「南寧で十数倍の敵の重囲に陥りながら一兵の救援も求めなかったなど剛毅な武人の一面も発揮した。知情意を兼ね備えた第二次大戦最高の将帥と推す向きがあるのもゆえなしとしない」と評価する。
本書私記を読んで、文人志向だった今村が実父逝去後の家計を助けるために、母親の奨めで陸軍士官学校に進学し職業軍人の道を歩むも、純粋培養の陸軍幼年学校でなく一般教養を学ぶ旧制新発田中学の出身が幸いし、エリート軍人が陥り易い視野狭窄症を免れ得たと強く感じた。
柔和で素朴に映る本人の風貌や居眠り癖やせっかちで興奮し易い欠点を自覚自省できる度量が他人を惹きつける魅力になった気がする。何より兵隊教練が好きで、部下を思い遣る信条を見習士官の時から貫徹している処が素晴らしい。
魚雷被弾での輸送船沈没や離陸失敗による飛行機墜落でも生還が叶う「悪運の強さ」が今村に味方する。収監中に本書原稿を執筆し帰国後に日の目を見るのも、必至と思われた不当な戦犯容疑での死刑判決が覆って、九死に一生を得たお蔭だ。
運命は貴重な証言記録を後世に遺させた。自宅庭で謹慎する元陸軍大将が博愛を説くキリスト教と親鸞聖人が説く慈悲仏教に深く帰依し、亡き部下たち英霊の無念を慰めその冥福を祈り続けたのも、この人らしい。
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