紙の本
「琴のそら音」は傑作
2018/06/27 20:58
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投稿者:けんたん - この投稿者のレビュー一覧を見る
夏目漱石の短編集であり,七編が収められている。
中でも,「琴のそら音」は,怪談ものであるにもかかわらず,面白い。
主人公靖雄と友人津田君との軽妙なやり取り,迷信深い老婆が語る不思議な話,靖雄の取越苦労と露子への愛情・・・。
とても読後感が良かった。
電子書籍
幻影の明治
2017/12/23 20:30
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
アーサー王伝説におけるランスロットと王妃の物語「薤露行」。それと同時代の、やはり伝説と騎士道の物語「幻影の盾」は、タネ本は分からないが、日本の八犬伝など伝統的な伝奇小説風のストーリーを、イングランドを舞台に書いてみた印象もあって、ただ硬質な文体が魅惑的だ。
「趣味の遺伝」は、日露戦争で戦死した友人の墓に花を供える女性が誰なのか、その謎を解くミステリ風の構成、そして当時最先端の遺伝学を用いた科学小説的手法、そして戦争の傷跡を癒しながら、そのメカニズムの奇妙さに疑問を呈するという、七面六臂の高速展開小説で、その肌合いはチェスタトンも思い起こさせる。推理も一直線ではなく、現実の様々な日常に埋もれそうになりつつ、度々浮かび上がってくる経緯も面白い。
「琴のそらね」はオカルト的心情に引っ張られる主人公だが、そういう人の心理に分け入っていくのがうまい。ただこれはあくまで、合理的に説明できる世界から、非合理な世界を眺めるものであり、つまり近代合理主義の一つの一つの派生なのかもしれない。
イギリス留学中の体験風な「倫敦塔」「カーライル博物館」では、かつてその場所で起きた歴史を幻視する。知的スリルと郷愁を誘い出す手際はさすがか。
結局、伝奇、幻想、科学と、様々な方向性を模索しているようで、常に時代の流れを取り込もうとしているようにもうかがわれ、ダイナミックさが愉しめる作品集。
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8月25日購入。倫敦塔・カーライル博物館・幻影の盾・琴のそら音・一夜・薤露行(かいろこう)・趣味の遺伝の7篇。同時代の『猫』と全く異質なこれらの作品の世界はユーモアや諷刺の裏側にひそむ漱石の「低音部」であり、やがてそれは彼の全作品に拡大されていく。…BYエトジュン!それにしてもイギリス留学中のそーせきセンセは、病んでた・・倫敦塔なんか殆ど妄想で語ってる、幻影の盾も妄想。一夜にいたっては禅問答だものな
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漱石のロンドン留学時代。
これがあの『吾輩は猫である』と同じ人が同じ年に書いた作品とは到底思えない。ユーモアなし、風刺なし。幻想的な小品群である。評伝によればこの頃の漱石は神経衰弱に悩まされていたとのことなので、そういった精神状態も作風に影響を与えたのかもしれない。
いつかこの本を手にロンドン塔に行ってみたいものだ。ジェーン・グレーは現れるだろうか。
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図書館で借りたら昭和5年に刊行したものだった。旧漢字が多すぎてなかなか読み進められない。
電車で本を読んでいるのに立って寝てた。。。
「幻影の盾」「薤露行」はなんだか不思議な気持ちで読む。
こういうのも書いているんだなあ。本当にイギリスに留学していて、西洋文学にも造詣が深いんだ。
面倒くさい気もするけど、ロマンチックな物語。
「趣味の遺伝」もよかった。
「外の人なら兎に角浩さんだから、その位の事は必ずあるに極つて居る。」
どんだけ?浩一さん!
そんな浩一さんを失った悔しさをたんたんと綴る。
戦争って虚しい。
ブツブツしてるところは「吾輩は猫」を思わせる。できすぎな気もするけど最後が素敵。
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夏目漱石 X イギリス = ミステリー!?!?
夏目漱石がイギリス留学中の経験をもとに書いた短編創作小説集。
あの名作「坊っちゃん」と同時期の作品なのに、全く異質な幻想的雰囲気を持つ。夏目漱石の意外な一面です!!!(医学部2年)
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文体も主題もそれぞれ違う短編集の中でも、一際鮮やかかつ濃い存在感を放つのはやはり表題作?の一つである倫敦塔。過去の風景がまるで今現在見聞きしているかのように描かれる様は、その内容の凄惨さと相まってより艶やかに、湿り気のある感を読者に抱かせる。決して読みやすくはなかったけれど、過去の空想を現在形の文章で表す手法は面白かった。幻影の盾、一夜、薤露行は文体が読み慣れないせいかそもそも意味がよく分からなかったし、カーライル博物館、琴のそら音、趣味の遺伝は、漱石の小説としては少し物足りない感じが、、、でも現代の小説でもそんなの腐るほどあるよなあ。この全体的に薄暗い短編集を、吾輩は猫である、坊ちゃんと同時期に書いていたというのが面白いところ。色んな表現の仕方や文体を漱石なりに試していたんだろうと伺わせる、その探究心、向上心に拍手!
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「倫敦塔」のみ。全体的に暗い感じだけど、形容の仕方にユニークがある。時々白昼夢のように昔の光景が目の前で展開されるのが少しホラーなようで、霧のロンドンに相応しいなあと。宿の人の話に急に現実に戻された感があるものの、本当は。。。が拭い切れない。
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赤毛のアンの作中劇の原作(アーサー王伝説をもとにしたテニスンの詩「ランスロットとエレーン」)を美しい日本語で読みたくて手にとった。
テニスンの「ランスロットとエレーン」は長編詩だが、漱石の「薤露行」は小説であり、きれいな文語調で綴られている。中世の騎士物語なので文語体がよくあっていた。さすが漱石といったところだった。
他の短編も、明治の東京の人の生活が垣間見え、とても面白かった。描写も巧みでユーモアに富んでおり、肖像がお札に印刷されるだけのことはあると思った。
アーサー王伝説は日本でも大人気で、ゲームやアニメなど、あらゆるファンタジーものの礎になっている。一方、海外で知られた日本の伝説が何かあるかと考ても、全く思いつかない。ジブリが竹取物語を映画化していたが、マニア向けの域を出ない。
アーサー王にあって桃太郎にないものは何か。アーサー王に普遍的な魅力があるのか、単に西洋に対する憧れが人気のもとなのか。当然のように世界中の人がおらが村の伝説を知っており、謎の改変が繰り返されて、新しい伝説すら確立しつつあるのはどんな気分なのか。などと色々と考えてしまった。
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漱石の初期短編。元々は『漾虚集(ようきょしゅう)』という名でまとめられたそうだ。このうちの「薤露行」(かいろこう)、「カーライル博物館」、「幻影の盾」の三作品が大学の哲学科目の参考テキストとなっていたため、慌て読み。
「薤露行」・「幻影の盾」は、アーサー王物語を題材にした創作としては日本初の作品である。円卓の騎士ランスロットをめぐる3人の女性の運命を描いたのが「薤露行」、持つ者の願いを叶えるという不思議な盾を携えた騎士が、戦で助け出すことの出来なかった恋人の死に絶望し、盾にすがって幻の世界に消えていくのが「幻影の盾」。
また「カーライル博物館」は留学中の漱石が、歴史家トーマス・カーライルの博物館となっている彼の旧邸を訪れ、カーライルの執筆活動の苦闘に思いを馳せる話。
漱石の作品では、「夢十夜」が一番好きなので、幻想的なこれら短編を知ることが出来たのはラッキーだった。
ただ文語体なので、読みにくい!なぞっただけで、しっかり読んだとは言いにくいが、漱石文学がこれほど評価され、現代の私たちに指示される理由は、人間観察に紐づく“人生哲学”がどの作品にも碇のごとく打ち据えられているからだというのがわかった(気がする)。漱石が極度の神経衰弱に悩まされていたことも、このような世界を生み出せる要因なのかだろうか?とすると、物書きなんかに生まれつくのは幸せなことではないなぁとも思ったり。
今回、購入したのは実はkindleの「夏目漱石全集」で、随筆や講演録も収められている。これが期間限定セールで220円だったので即ポチ。余ってたポイントを使ったので、たったの21円!!
現代社会とは、かくも手軽で怖ろしきかな。死ぬまでには読み終えたいものである。