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何にでも決まり事はつきものだが、おとぎ話の世界でも、その“はず”をはずしてみると…より自由な面白さを味わえる。ヴィクトリア朝の作家たちによる妖精物語のアンソロジー。
文庫も分厚いが、14名のそうそうたる面々によるフェアリーテール群はどれも面白く、読みごたえも楽しさもたっぷり。味わいある挿絵も多い。
この中で、私が既読だったのは、岩波少年文庫でのジョージ・マクドナルドとメアリ・ド・モーガンの二つだが、こちらは違う訳者で、それぞれ、荒俣宏氏(題名も“お目当て違い”)と安野玲氏によるものだし、何度読んでも味わい深い作品だ。
クリスチナ・ロゼッティの妖しくも不思議な魅力に満ちた妖精物語の詩から、ディケンズのユーモラスでひねりのきいた作品や、エドワード・リアのナンセンスな面白さ(絵も自身)、マザーグースの国の冒険話(マギー・ブラウン)やら、イギリス風味もどっぷり。
ラングの“いないいない姫”は、ウィリアム・アリンガム詩『妖精の国で』にインスピレーションを得た作品とか。長編の中のエピソードとしての妖精譚というメアリ・ルイザ・モールズワースの“王の娘の物語”や、アンスティの“妖精の贈り物”はおとぎ話のパロディ的でもあり面白かった。
キプリングの“壺の中のお姫さま”もユーモラスで傑作だったし、ハウスマン“ヒナゲシの恋”、イヴリン・シャープの“魔法使いの娘”なども民話風で面白くも、主人公がおのれを貫いているのが印象的。
そして、西洋では悪者として登場するはずの竜の想定外が、ケネス・グレアムの“ものぐさドラゴン”で、何とも楽しいし、ネズビットの“メリサンド姫――あるいは割算の話”にはまた彼女の奔放な持ち味がばっちりである。
編者である風間賢二氏のあとがきにあるように、“‘娯楽’重視のセレクト”ながら、“産業革命以降の合理主義的社会に異を唱え、アルカディアと新たな自己を求める主人公を描いた作品…“としての妖精譚でもあり、ヴィクトリア朝時代の多才な作家の一面を垣間見る興味深い一冊でもありました。