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(2004.08.04読了)(拝借)
この作品は、1962年11月岩波新書として刊行された。
開高健は、小説、ルポ、紀行、エッセー(雑文)と活動が多方面にわたるけれど。もっと小説を書いて欲しかった。この本は、ルポの分野に入る。60年ごろのイスラエル、ソ連、ドイツ、フランスについて書いている。
●イスラエル
「十人のユダヤ人が十人ともわたしに説明する。「見てください。緑になっているところまでがイスラエルです。赤いところはアラブです」」
「今、イスラエルの人口は200万ほどだが、全世界にはまだまだかなりの数のユダヤ人が散らばっている。大雑把に見て、アメリカに500万、ソヴェト領内に200万か300万、東欧全域に100万、西欧各国に100万、その他、アフリカ、中近東へかけてもアジア・ユダヤがかなりの数になる。」(2000年9月現在のイスラエルの人口は、645.8万人ということなので40年の間に3倍以上になっている。パレスチナ人の土地をどんどん侵食しないと居場所が確保できないということか。)
「金曜の夕刻から土曜の夕刻まで、すべての人が休む。銀行も、官庁も、法廷も、市場も、屋台のてんぷら屋も、一切の機能が止まる。宗教的な戒律としては、安息日には労働をしてはならないということになっている。また、刃物を使ったり火を使ったりしてはいけないということになっている。ひげを剃るのもいけないし、タバコを吸うのもいけない。」
「金曜の夜になると人々は頭に帽子を載せて礼拝堂に行く。礼拝堂では男と女は別々の席に座り、少年合唱団と一人の主教の合唱に合わせて合唱する。ユダヤ教は偶像崇拝を禁ずるので、壁には磔刑の像もなければ受難図もかかっていない。また、僧が壇上から会衆に向かって説教するということもない。」(ソロモン王の宮殿跡の壁に向かって祈っている人たちの映像をよく見るけど、これって偶像崇拝のように思えるのだけど、人間の像でなければ、具体的なものに頼っても良いということなのか。)
「キブーツはイスラエルにたくさんあるが、細かく観察すると、一つ一つのキブーツがすべて違っている。生活上の共産主義という点で変わりはないが、・・・」(今もキブツは運営されているのだろうか。宿題が一つできてしまった。)
開高健さんが、イスラエルに行ったのは、ユダヤ人虐殺の罪で、裁判に掛けられているアイヒマンについての取材のためだった。裁きたい気持ちはわかるけど、国内法で、別の国の国家犯罪を裁くことなどできないのは、北朝鮮による拉致事件で、金正日を裁くことができないのと一緒だと思う。でもアイヒマンは死刑になってしまった。
☆開高健さんの本(既読)
「破れた繭」開高健著、新潮文庫、1989.12.20
「夜と陽炎」開高健著、新潮文庫、1989.12.20
「珠玉」開高健著、文芸春秋、1990.02.15
「知的な痴的な教養講座」開高健著、集英社、1990.03.10
「花終る闇」開高健著、新潮社、1990.03.30
「シブイ」開高健著、TBSブリタニカ、1990.05.08
「ベトナム戦記」開高健著、朝日文庫、1990.10.20
「オーパ・オーパ!! アラスカ篇」開高健著、集英社文庫、1990.11.25
著者 開高 健
1930年 大阪市生まれ
1953年 大阪市立大学法学部卒
1958年 「裸���王様」で芥川賞受賞
「輝ける闇」で毎日出版賞受賞
「耳の物語」で日本文学大賞受賞
1989年 死去 59歳