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紙の本
たわいもないが、確実におかしくて元気が出る
2008/07/22 00:28
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:悠々楽園 - この投稿者のレビュー一覧を見る
シーナのエッセイを読むのは久しぶりだけど、やはりオカシイ。ところどころクスクスと笑いが止まらなくなる。正直言って実にたわいもない文章なのである。だけども何か根源的な人間の笑いのシステムのつぼみたいなものをくすぐる文章なのかもしれない。
たとえばこんなところ。カヌーイストの野田知佑さん、ワニ目の悪友イラストレータ・沢野ひとし等と四万十川を下る旅の一コマ。キャンプで川蟹を茹でて一杯というシーン。
「川蟹はすばしこいやつで、沸騰した湯の中に入れると『あついんだもんね』と言ってすぐにぞろぞろ出てきてしまう。それらをまたかき集め、『だめなんだもんね』と言って蓋をしておさえつける。全日本川蟹愛護育成協会とかジャパンカニエビウォッチング友の会などというのがあったらすぐ文句を言ってきそうな修羅場である」
シーナ・ファンなら馴染みの定番的話題と言い回しだが、わかっていてもオカシイ。笑いを堪えきれない。ここを読んで笑えない人には、きっとシーナの何がオカシイのか永遠にわからないだろう。
ちなみにこの蟹たちのスープは翌朝、「川蟹地獄麺」となる。
この一文でもそうだが、たわいもないシーナのエッセイではあるが、そこには毒も含まれている。上述の文章には過剰な動物愛護姿勢を揶揄する批評精神が透けて見える。その根本にあるのは人間の持つ野性への信頼というか憧憬というか、自然の一部としての人間の卑小さを自覚しながらも、強くありたい、いや強くあらねばならない――特に男は――という願望なのである!断固として!
そのせいかどうか、この一冊にも「女・こども」はいっさい登場しない。しかしながら、その内容が「硬派」かといえば、その硬さはそれほどでもない。むしろきわめて平和で牧歌的なものである。そのあたりに人間が生きることの残酷さや悲哀が意図せず漂っている。数々のヨロコビは数々のヒアイと切り離せない。それがきちんと読者に伝わってくるところにシーナの真骨頂がある。
白神山地の開発反対運動や水爆実験後放置されたアリューシャン列島への旅など、実はただ笑っていられないようなテーマの旅のエッセイもあり、本当はなかなか侮れない社会派エッセイともとれるのだが、掲載誌の性格上?そうした問題に深く踏み込むことはない(また別のところで踏み込んでいるのかどうかはよく知らない)。
シーナのエッセイはいくつかの系統に分けられるにしても、どれを読んでも、どれも同じようなものだが、それがわかっていても、久しく遠ざかっていて読み始めるとやはりおかしい。とりわけ本作の系統のエッセイでは、旅をして飲んで食うというのがほとんどの内容なので、何かの役にもほとんど立たないし、集中して読もうという気合も入らないのだが、確実に笑わせてくれて、時に少しの元気を与えてくれる。
タイトルにもなっている「ハーケンと夏みかん」だけは、その意外性のある展開と情景描写の鮮やかさゆえに幾分文学的な香りが漂う。
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