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伝記のようで、伝記になってない。著者もあとがきで「伝記を書いたのではありません」と断言している。
書名の「バルトーク物語」というのは、実に正しい表現だ。伝記的事実を明確に記述していくのではなく、伝記的事実から出発しながらも、想像力豊かに大いに脚色し、一篇のメルヘンのように仕上げた本である。小説と呼ぶには細部が克明ではないので、やはり「物語」と呼ぶのが正しいだろう。
著者はバルトーク・ベーラの直接の弟子のようだが、知っているはずのないバルトーク幼年時代の場面などが描写され、まるで映画のようだ。シューベルトやショパンなど、芸術家を題材とした映画は昔から沢山あったが、これはそのバルトーク版を活字でえがいているという感じがする。
いちがいに間違った行為だとは言えないが、正確ではない作曲家像を受け手に発するという点では、やはり負の効果を否めない。
それは置いておくとして、バルトークが幼児から示した抜群の音感・リズム感、ピアニストとしての卓抜さ、周囲の年配の音楽家(教授)連にはあまり認められなかったものの、「分かる人には分かる」といった形でセンスある才能や若者の人望を集めた点、やはり、彼はまれに見る才能としか言いようがない。
自分の凡才ととりたてて意味のない人生が逆に浮き彫りにされて、何となくいたたまれなくなった。
ちなみにバルトークの作品については、この本にはあまり詳しく書かれていない。バルトークのピアノ作品はさほど重要なものとは思えないが、この著者はピアニストとしてのバルトークを賞賛するあまり、これらを過大評価しているのではないかと感じた。