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ゾマーさんのこと みんなのレビュー
- パトリック・ジュースキント (著), ジャン=ジャック・サンペ (絵), 池内 紀 (訳)
- 税込価格:1,624円(14pt)
- 出版社:文芸春秋
- 発売日:1992/11/19
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紙の本
ラスト数行の衝撃
2004/10/20 14:24
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りびい - この投稿者のレビュー一覧を見る
『香水』の方を先に読みました。そしてパトリック・ジュースキントなる人の上手い文章に舌を巻きました。彼の作品をもっと読みたい。そして見つけたのがこの『ゾマーさんのこと』。
『香水』に比べて地味なストーリーですね。そもそもゾマーさんて結局なんなの? 読み進んでもなんだか良く分からないまま後半へ突入。前作に比べるとおもしろくないのかしら? いえいえそんなはずは無い。だって読書家の知人が紹介してくれた本だもの…
はたして、ラスト数行の衝撃たるや。この数行に至るためにこの物語はあったんだ。この衝撃のために前半が地味だったんだ。きっと計算し尽くされていたに違いありません。
ストーリーはまったく違うけれど、何故か夏目漱石の『こころ』を読んだときの衝撃に似たものを感じました。鈍く重く何日も何日も心の中に残り続ける物語です。
紙の本
大人むけ絵本?
2002/12/18 17:36
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ポッケ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ずいぶん前に図書館でたまたまみつけて読んでみたのですが、挿し絵もかわいいし、物語もおもしろいので本屋さんで探したくらいです。ゾマーさんのことといいつつ、ゾマーさんのことはあまり書かれてないのですが、挿し絵をみるとことろどころに表紙のように歩いてる姿が小さく入ってるのがかわいい。少年がピアノを女の先生に教えてもらう話がおもしろくて強烈に印象に残ってます。ジャック・サンペさんの絵はこの本から好きになってポストカード集めたり絵本集めたりしてます。プレゼントにもいいかも?
紙の本
ほっといてもらいたい現代人に向けた童話
2001/06/05 21:12
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:nana - この投稿者のレビュー一覧を見る
挿絵も多く平易な文体で書かれ、子供向けの図書として売られているこの本は、しかし実際には大人が自分で読むために購入することが多いらしく、最近よく見られる『子供向けの体裁をした大人向けの図書』だと思われます。
大人にとってあまりにも些細なことに一喜一憂する少年“ぼく”の毎日は、自分が子供だったころのことを思い起こさせ、切ないやらおかしいやら。ウィットに富んだ文章が満載でついニヤニヤと笑ってしまうような本です。
しかしよく読んでみれば「自殺」「厳しい習い事事情」「精神疾患に対する解釈の違い」などあまりにも現代的なモチーフばかり。
「ほっといてもらいましょう!」
しぼりだすように言い放つゾマーさんを放っておくべきなのか否か。
友人たちにこの本をすすめたところ一様に「ゾマーさんがかわいそうだ」との感想が聞かれました。しかし私にはゾマーさんが不幸だったのかそれとも本人にとって実は幸せであったのか、いまだその心を推し量ることができずにいます。
ウィットに富み、おかしく切なく美しいのはサンペの挿絵も同じで手元にずっとおいておきたい一冊です。
紙の本
理屈では割り切れないあの少年時代の物語
2006/01/14 07:01
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦争が終わってすぐに僕の暮らす村に越してきたゾマーさん。彼は身の丈を超えるほど大きな杖を片手に、常に村の中を歩き回っている。彼が何を目的に歩き回っているのか、誰にもわからない。僕はそんなゾマーさんの姿を時々目にしながら、少しずつ成長していった。ある日、ゾマーさんは湖のほとりに立ち…。
少年時代の回想というスタイルをとるこの物語の中で、ゾマーさんが徘徊する理由については最後まで明らかにされることはありません。訳者の池内紀は、ゾマーさんはやがて消え失せる「少年時代の比喩ともとれる」と記しています。そういう読み方も可能かもしれません。
私はこの120頁足らずの小さな物語を読みながら、よく似た小説のことを思い出していました。その小説とはRobert R. McCammonの「Boy’s Life」です。「Boy’s Life」は主人公がアメリカ南部の小さな町での少年時代を回想するという、幻想譚の趣を持つ物語です。「ゾマーさんのこと」同様、少年は空を飛ぶことを夢見たりしますし、人の生き死について初めて深い思索をめぐらせたりします。どちらの物語でもあの戦争が色濃く影を落としています。また奇しくも「ゾマーさんのこと」と「Boy’s Life」はいずれもが1991年に出版されています。
大人の理知をいまだ兼ね備えていない少年時代とは、世界が独特の理屈を持ったものとして立ち現れる時代でもあります。そこで人間は多くを過ち、学び、そして成長するのです。
「ゾマーさんのこと」はまさにそうした少年の目に映る世界の理不尽さと、それを処理しきれない少年の若さを描く物語といえます。そこには大人の言う理屈はありませんが、少年なりの理屈はあるのです。そうした奇妙なズレの感覚を味わう不思議な趣の作品といえるでしょう。