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題名の通り、プロイセンにおける近代国家の成立過程をとりわけグーツヘルシャフトの形成過程に照準を合わせつつ論じる研究。とはいえ、グーツヘルシャフトの経済的側面よりも、重点はその公法的側面に置かれている。そのため、論述はまず中世ヨーロッパにおける支配権の予備考察から始まる。そこで、支配権一般が領主裁判権と国王裁判権(この場合の裁判権は裁治権とでも言うべきか)の二つに類型化されたあと、荘園制の解体を経てランデスヘルシャフトが成立するまでが第一編である。第二編ではいよいよプロイセンが対象となるが、まず東方植民以降のマルクグラーフシャフト(辺境伯領)の成立、さらにそれが領邦国家へと発展していく過程が描かれる。本書の極めて重要な問題提起は、プロイセンにおいてヘルの独立性の強いグーツヘルシャフトと国王の絶対主義がなぜ併存できたのか、というものである。著者はこの問題に対して、ラントシュテンデが中央において権力を失う(一般ラント議会は17世紀前半以降開催されない)一方、クライス(郡)レベルにおいてシュテンデが財政問題などについて強い影響力を持っていたという点に、グーツヘルの独立した領地支配権と国王の絶対主義が並立し得た根拠を求めている。つまり、中央での影響力を失う代わりに獲得された地方レベルでのシュテンデの強い権力が近代プロイセンの特徴だった、ということである。この指摘は、絶対主義国家の政治秩序を具体的に理解するうえで欠かせないものであるだろう。また、19世紀初頭のプロイセン改革で都市自治条例が発布されるが、それを支える自治の観念の系譜を辿るうえでも、本書のテーゼは示唆するところが多いのではないかと思う。