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64点。困った時には決まって船の話を出して話題を変えるらしい、石原慎太郎の掌編集。20世紀日本文学を代表する作品ともいわれている。
情景描写が見事だと思う反面、これもまた海の話ー?と飽きてきた。筆者にとって大きな出来事だっていうのはわかったけど。
人生の時の時。自分の死をどう考えるかは哲学上でも大きな問題で、ハイデガーは「死に臨む存在」という表現をつかうが、石原慎太郎も死をどう意識するかがその人の生を決定すると考えている。
しかし、自分は死に対してそのような感覚は毫厘もなくて、そこに関してはサルトルの、死は「私の可能性」などではなく、死は私のすべての可能性を無にするまったく不条理な偶発事、という感覚に近い。誕生が選択不可能、理解不可能な偶発事であるのと同様に。
誰もが死ぬまでは生きている。そこにあるのはマルセル・デュシャンの「死ぬのはいつも他人ばかり」だ。
死と共に生があるといった「生かされている」みたいな感覚についても欲求階層説ではないが、自分には感じることは困難だ。
ある種の戦慄や恐れなどを通じて無力さや卑小さを思い知り、それが濃密かつ強度のある体験につながる、のはわかるんだけど、そこに美、生きてる証みたいなのは見出せないなあ。というか見出したくない。
生死の境に直面したら何かを書こうなんて気が起こるのが、さすがは一流の物書きだ。
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ほとんどが海とお化けにまつわる話。意外なことに著者はオカルト好きらしい。ゲイと戦争の話も出て来たり、石原慎太郎の本質を掴むにはいい本かもしれない。
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氏の政治思想をどう考えるかはいったんカッコの中に入れるとして、描かれた多数の情景のイメージがもたらす甘美さ、それをもたらす日本語表現の巧さは、やっぱり評価されるべきものという印象を持った。特に氏が傾倒するヨットの経験を通じた海での様々な航海体験や、その中での自然の脅威などの表現は、氏でなければ書けなかった世界だと思う。
文芸評論家の福田和也が、全ての作品に100点満点での点数を付けた「作家の値打ち」で村上春樹と古井由吉と並ぶ96点を付けたことには同意しないけど、一読に値する読書体験を与えてくれることは間違いない。
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昭和後期の呑気なぼんぼんが
海に、街に、スリルを求めてさまようのは
生と死のはざまに陶酔の世界を見るからなんだ
まったくバカ言ってやがる
生きるために命をすり減らすような労働をやったことあんのか
まさしく昭和のロマン主義
英雄的冒険にあこがれて、大量殺戮戦争に飛び込んだ
第一次大戦前の、ヨーロッパにおける若き文化人たちが
こういうものだったのだろう
その果てのスピリチュアル趣味が
オウム真理教の呼び水になったと言って
さしつかえあるまい
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先般亡くなった石原慎太郎氏のショートエッセイ集。
さまざまなストーリーが語られるが背景がスキューバだったりスポーツカーの運転だったりするところでかなり浮世離れしていて石原慎太郎ならでは、と感じる。
全編通してあふれるのは氏の感性とそれを着実に写し取る表現力だ。
最後の一編、「虹」は実弟の石原裕次郎氏が亡くなる瞬間に立ち会ったことを描いている。
数千トンの重さの杭打機の衝撃を受け止めたしゃれこうべの話、幽霊屋敷の暗いクロゼットに浮かぶ目の話、などこんな経験が…というものばかり。
1989年刊で今は文庫版しか出ていないようだが何故か単行本が手元に残っていたのですこしずつゆっくり再読した。
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死を間近にしたときに意識される生の感覚。まるで白黒写真の黒と白の関係のようだ。黒だけでは(そしてもちろん白だけでも)だめ。では、この短編集には描かれていない、死がちらつかない時の生は石原慎太郎にとってどういったものなのだろうか? と気になってくる。志賀直哉「城の崎にて」、村上春樹「蛍」との対比も面白い。ちなみに英訳で出版されたときのタイトルは「Episodes from a Life on the Edge」。(作中にはたしか1回だけ出てきて、タイトルにもなっている)「時の時」をどう訳すのだろうと思ったが、なるどそうか。
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政治家としても文学者としても高く評価する気にはなれないんだけど、時代を生き抜いて生き抜いて死んでいった1人のおっちゃんとしては、親しみに似た気持ちが彼に対してあるのを自覚する。ひたすらチャーミングなんだよなこの本に出てくる石原慎太郎というおっさんは。「海蛇がホテルの部屋に出たらウケるよなーただし俺の部屋は除く」みたいなことマジメに考えてるんだもん。なにかと幽霊みたいのに遭遇してそのつどクソ真面目にビビらされてるし。
かわいげのあるおっさんの与太話なんだよ。ヨットに乗って、海に潜って、山に登ってさ。あんたやりたいことやって死んだんだろうね、と声をかけてやって、おもしれーホラ話をありがとよっつって酒の一つでも飲んでやりたくなるよね。
話盛ってない?って感じるエピソードも多少はあったけど、なんとなく弟を看取った際のことは、このおっさんが感じたままを100%に近い純度で書いたんだろうなと思った。そのことはよく伝わった。