紙の本
都市を彷徨うハイエナ。
2001/04/10 02:49
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投稿者:ゴンス君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作品を書いていた頃の辻仁成は、いつも何かに苛立っていた。ラディカルに都市を彷徨し、行き場を見失えばカタルシスのように一気に魂を吐き出す。それはまるで都市を彷徨う得体の知れないハイエナのように、苛立ちながら必死に出口を模索していた。そう、「都市」と「焦燥感」、この頃の彼のテーマはまさしくそれだった。
この作品には、それがもっとも顕著に示されている。前作『ピアニシモ』(処女作)で〈成長〉したと思った辻ワールドはまたもや『クラウディ』で苛立つ。結局それは芥川賞受賞作の『海峡の光』まで続くのだが、都市に向かって苛立つその姿勢は今の10代にも有効だろう。
さて、肝心の内容だが、この作品は小説というよりも「長編詩」に近いものがる。最後には前述した「苛立ち」を「都市」に向けて一気に爆発させるのだが、その部分の詩的表現がテンポの良いスピード感を感じさせ、読者をしばし陶酔させる。そんな作品である。
今の辻仁成には何ら魅力を感じないが、この頃の彼はヴァイタリティーに満ち溢れていた。作家なんて言葉はとてもじゃないけど似合わない、文学的な作品だとも思わない、けれども、おそらく本人もある程度は自覚はしているのだろうけど、それを堂々と果敢にも示して見せたからこそ、この頃の辻仁成は輝いていたんだと思う。
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前作「ピアニシモ」どこか似ているような感じがしたが、読みやすかった。主人公に彼女がいるだけで、ずいぶん違うものである。やさしさがあった。
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辻仁成さんの本は「冷静と情熱の間」以外は青春臭くてちょっと苦手。でも、この気持ちわかるんだよなぁー。この作品はピアニシモよりも、青春臭さが作品とマッチしてて意外とすんなり読めた。
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「ベレンコのように亡命したいって言っていたけれど、面白そうね。」ナビは抱きあった後、服を着ながら僕にそう告げた。亡命──この響きは僕を捕えて離さない。人は誰でも一度は、平凡な日々からの離脱を夢みる。あの日ベレンコ中尉が日本に亡命してきた。今、30歳を迎えようとしている僕の亡命劇はまだ始まってさえいない。…青春の焦燥をリリカルに描く長編小説。
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すんなり読めた。亡命に惹かれる30目前の主人公。大人のようで、子供みたいなひと。じわ、と心に沁みる部分がある。
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1976年のミグ戦闘機の亡命シーンは実話。
辻仁成さん、函館西高校の出身だそうです。
ということで、函館の風景があれこれと出てくる。
辻仁成の作品、だんだん好きになってきた。
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僕が16歳のときに自殺しそこなったのは
亡命してきたベレンコ中尉のせいだった。
以来亡命に憧れ続けてきたがもうすぐ20代を終えてしまう。
平凡な印刷会社での暮らしに飽きた僕は
自殺したと思っていたスナフキンから亡命屋に誘われる。
僕を思いとどめるのは仕事か、ナビか、平凡さか。
装丁:大木裕
「自由とは、自分の能力を認めてくれるシステムのことだよ。」
自由を隠れ蓑にしてないものねだりをする気持ちをばっさり切る言葉。
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1976年9月6日、函館の上空に突如として姿を現したミグ25戦闘機。搭乗していたのはビクトル・イワノヴィッチ・ベレンコ、ソ連空軍中尉。
当時29歳だった彼は、地位、名誉、家族、母国、それら全てを捨て亡命を図る。
実際にあった出来事で、後にベレンコ中尉亡命事件として人々の記憶に刻まれることになる。
本書はベレンコの亡命を軸として動き出す。主人公は30歳に差し迫りもがいている。自由を求め、路上を汗まみれで這いずり回る。29歳で亡命に成功したベレンコと、彼の亡命によって自殺を阻まれた主人公。ベレンコは亡命によって新たな「生」を手に入れたが、主人公はいつまでもベレンコの影に悩まされる。
本書を読みながら尾崎豊の存在が脳裏を掠めた。自由を追い求めるが故に誰よりも生きることに苦悩した尾崎。その苛立ちを叫ぶように歌い、そしてたくさんの共感を得たのが彼だった。
尾崎豊と異なるスタイルを持つのが作家であり、当時ECHOSのヴォーカルだった辻仁成だ。辻さんは荒々しく叫んだり雄叫びをあげたりはしない。常に叙情的な表現で自由を追求していた。
相反する自由への闊歩は、時に人をあらゆる角度から混乱に陥れたのかもしれない。ベレンコの亡命から体全体を震わせながら歌う尾崎豊を、スナフキンの生き様から淡々と物静かに革命の波を生み出す辻仁成を想起させられた。
そして、本書の主人公は、彼らへ憧憬の眼差しを送る自分自身に苛立つ。「亡命」して自由を手に入れたい。だが、一歩が踏み出せない。それは、単に臆病なのかもしれないし、逆に現実から目を背くことができない責任感なのかもしれない。
本書の主人公のように、自由への願望に雁字搦めにされた人達は昔も今も変わらずいる。そんな大多数の人達にとって住みやすい環境を作ることこそこの国の至上命題なんだ。
誰もが持ち合わせている感情を見事に言葉に落とし込み描き出す辻さん。
解説で高橋源一郎が述べているように、辻さんは他の作家が敢えて深みを持たせるように隠すところを全てありのままストレートにぶつけてくる。それでいてどうしてこんなにもカッコいい小説が書けるのだろう。
アーティスト辻仁成にも計り知れない迷いや苛立ちがあり、どんなに偉大な歌手、作家として認められようとも、不完全な自分を消し去ろうとはしない。むしろ私たちに見せつけようとしているとさえ言える。だからこそ私たちは彼の生み出す物語や言葉そのものに魅了されるのだろう。
「亡命」への願望、そして巻き起こる葛藤。劣等感、猜疑心、妬み、自己嫌悪。死ぬまで消えることのないそれらのしがらみの中私たちは生きていかなければならない。
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現状に不満を感じている このままでいいのだろうかという焦燥感と疑問
衝動に任せて何かやらかしたいけど足場のない不安定な状態は怖くて
結局今のまま
ベレンコに憧れスナフキンに憧れ、
どうしようもない どうしていいかわからない
ぐだぐだなまま終わっていく感じがまさに現実