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『本居宣長』(1978年、東京大学出版会)のほか、日本人の死生観と国学をテーマにした論考18編を収録しています。
『本居宣長』では、宣長の歌論や「もののあはれ」にかんする議論をあらためて検討し、そこで展開された思想が彼の神道論にどのようなしかたで引き継がれていったのかを明らかにしています。著者は、みずからが理想とする道を追い求める姿勢と、たとえ得心がいくものでなくても世間のしきたりにしたがうべきであるとする姿勢の二つが、宣長のうちには並行して存在してきたことに触れています。そのうえで、天地のことはすべて産巣日神の御霊による神々の所為であり、人間の有限の知によっては測りがたいとする見方が、宣長の宇宙観の根底にあったことを認めつつ、禍津日神を悪神とする発想が宣長の思想の展開のなかで生まれてきたことを指摘し、上の問題とのつながりを示唆しています。そして著者は、悲しむべきことを悲しみ悲しみに徹するなかで「安心」に通じるという発想が宣長の思想の根底にあったことを明らかにしています。
日本人の死生観にかんする論考では、西洋のニヒリズムと日本のニヒリズムを比較し、さらに『平家物語』や『太平記』の死生観を掘り下げ、さらには母子心中の受け止め方に日本と他の国々で大きな差異があることなどに触れつつ、「死」というテーマが日本人の精神のうちでどのように理解されていたのかという問題が論じられています。