紙の本
哲学の正統
2001/08/12 01:21
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アルケー - この投稿者のレビュー一覧を見る
ちくま新書の「哲学入門シリーズ」のひとつ。このシリーズは哲学者の経歴や背景といったものよりも哲学者の思想そのもののに焦点をあてて解説するところに特徴がある。いわゆる内在的研究といわれるもの。
これまで人気のある著者によって多くの人気のある哲学者の解説がなされてきたが、面白いことにそれまで知られていなかった学者による解説に読みごたえのものがあるように思われる。最近では『アリストテレス入門』がそれだ(不案内なフランス思想はのぞく)。
最近カント復興がやってきているのであろうか。黒崎政男“カント『純粋理性批判』入門”(講談社)や文芸評論家柄谷行人『倫理21』(平凡社)などが目につく(文芸評論家は時代の潮流に敏感だから当然といえば当然。中沢新一『フィロソフィア・ヤポニカ』(集英社)は日本思想の隆盛にいち早く反応したもの。文芸評論家やそれに近い人が哲学を紹介するのは日本のお家芸)。また、カント著作集の翻訳もだされるなどしている。もっともこの翻訳はあまり意味があるとは思えない。著作集が翻訳されているのは日本だけかもしれない。しかし一方では、宇都宮芳明『カントと神』(岩波)というすばらしい研究書も出ている。
プラトンの後にはアリストテレス、ヘーゲルの後にはカントと分析的な思想へと向かっているのはそれなり理由があるのだろうか。それよりも弁証法に人々は飽食したのかもしれない。マルクス主義にはじまって、構造主義、ヴィトゲンシュタイン、システム論と実体概念よりも関係概念を志向する思想を中心に回転してきた現代の思想に食傷ぎみなのかもしれない。もしそうだとしたらそれはよい傾向だといえる。実体概念と関係概念は切り離すことができないからだ。
著者のカントは具体的な例を取り上げて論じるので分かりやすい。システム論などは例が挙がっておらず、挙がっていても読者にほとんどイメージ(表象)しがたいもので、著者独自の解釈による概念の羅列につきあわなければならないので、解読不能なものが多い。そういった類のものと比べると、難しいと敬遠されてきたカントが何と読みやすいものになっていることか。しかもカントの思想にはその前後の思想がすべて含まれている。現在ではそんなことも忘れられている。これから哲学とじっくりとつきあっていきたい人に大切な一冊となることをねがう。
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平易なカント入門書
2016/02/11 11:20
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投稿者:カント - この投稿者のレビュー一覧を見る
カントが、第一アンチノミーを解決するために、時間と空間は我々の感性の形式であるという第三の視点を持ち出したところに感銘を受けた。
カントの「認識論」と「倫理学」、さらには「宗教観」、「美学」について包括的に論じられている。
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「仮象批判」「自律」といった一貫した概念
2017/08/28 13:14
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投稿者:ポージー - この投稿者のレビュー一覧を見る
あとがきで著者はカントの入門書を新書で書くのは難しかったと言っているが、読む方としてはなんとなくわかったつもりにはなれた。それはカントが哲学・道徳論・宗教論・美学など多岐にわたるテーマを一貫した概念で論じていて、本書がそれを平易にすくいとっているからだろう。
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カントの現代的意義が少しも述べられていないため、ちっとも興味がわかない。そういう書き方こそが新書的なのではないのだろうか。
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『純粋理性批判』を世に残したカントの入門書。
テーゼとアンチテーゼについて比較しているところが、理解し易かったから、入門書としては取っ掛かりやすいと思う。哲学書は、コメント書きづらいので、印象に残った一説を載せる。
『四角い円はまるい』『四角い丸は円である』どちらも偽だから、これは空集合なのである。
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人間の理性は対象をどのように認識するのかという問題を認識批判という試みから難題に挑んだカントはやはり偉大だとおもう
ヴィトゲンシュタインの影響で、形而上学的価値に抵抗感あったけど
そんなことないお!!!
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カントの思想内容や思考手順が、
非常に丁寧に整理されていたように思う。
わかりやすかった。
ただ残念ながら、一読では十分な理解ができない。
うー、難しい。
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正直カントは意味がわからなかった。
純粋理性批判もプロレゴメナも、
何回読んでもまるで理解できない難解さである。
それが本書で氷解した!
なるほど、彼がどれほど革命的なことを成し遂げ
西洋哲学史の上に金字塔を打ち立て
全ての哲学の基礎になっている意味がようやくわかった。
そうは言っても入門書であり
まだまだカントを理解したとは全然言えないのだろうけれど
入門書としては白眉の出来。
あれほど難解だったカントが手の届く位置に来てくれた。
ああ、助かりました。
これで先に進めます。
カントを脱落した全ての人に、是非。
カントは怖くないよ!
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カントの『純粋理性批判』の構造をとくにアンチノミーの解説から説き起こし、自由の問題、宗教の問題、とくに法廷モデル・合目的性など、たいへん面白くよんだ。カントの入門書には最適かもしれない。カントの革命的な部分、理性批判がよく分かる。のちのニーチェなどとも関わる部分であろう、また、因果律と自由と、物理的世界観と定言命法や道徳律への尊敬の念から語っているところは朱子学の理気二元論との共通性を感じる。二律背反で理性が破綻するところは、中国思想に通底する二元論にも関係すると思う。
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2010.8.8
いろんなところに顔を出すカント。ちょっとだけ分かった気がした。
批判哲学。アンチノミー。物自体。合目的性。
いや、でも分かってないな。新しい単語と場合分けが多くて覚えきれない。
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[ 内容 ]
真理の最高決定機関であるはずの理性が人間を欺く二枚舌をもつとしたら、一大事ではないだろうか。
この理性の欺瞞性というショッキングな事実の発見こそが、カント哲学の出発点であった。
規則正しい日課である午後の散歩をするカントの孤独の影は、あらゆる見かけやまやかしを許さず、そのような理性の欺瞞的本性に果敢に挑む孤高の哲学者の勇姿でもあったのだ。
彼の生涯を貫いた「内面のドラマ」に光をあて、哲学史上不朽の遺産である『純粋理性批判』を中心に、その哲学の核心を明快に読み解き、現代に甦る生き生きとした新たなカント像を描く。
[ 目次 ]
第1章 純粋理性のアイデンティティー
第2章 カント哲学の土壌と根―批判哲学への道
第3章 迷宮からの脱出―第一アンチノミーの解決
第4章 真理の論理学―経験世界の脈絡
第5章 自然因果の彼岸―自由と道徳法則
第6章 自由と融合する自然―反省の世界
第7章 理性に照らされる宗教
[ POP ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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ちくま新書の哲学者入門書シリーズのカントを読んでみた。カントは『純粋理性批判』という有名な著書しか知らなかったが、今回この本を読んでみて、ある程度はその本の名前の予想通りだったが、意外な部分もあった。この本はカントの思想の流れをつかむために、カントの人生を辿るように時系列的に書かれており、この書き方が分かりやすくておもしろかった。
カントは主に1700年代に活躍した哲学者であり、以前に読んだフーコーやバタイユよりも前の時代に活躍した哲学者である。『純粋理性批判』という言葉通り、われわれが万能であると考えている理性が嘘をつくということを指摘した哲学者である。一見正しいように思えることが、実はそうではないということが多くあり、それをカントは「仮象」と呼んだ。例としてはコペルニクスが発見した地動説がある。一見、太陽が級の周りをまわっているように見えるが、実際は太陽は静止し、地球が太陽の周りをまわっている。このような仮象が、理性が誤謬を生む一つの原因となると指摘した。
また、理性が誤謬を生むことの原因として、4つのアンチノミーを挙げる。このアンチノミーというのはパラドックスと同じ意味で、二律背反のことである。ここで挙げられるアンチノミーは、時間・空間は有限か、無限かというものや、すべての物事は必然であるという運命論的な考え方と、物事は自分で決められるという自由的な考えの対立である。
第一の時間・空間に関しては、時間・空間はもともと量を持たない概念であり、どちらの命題も偽であるという結論であった。つまり、われわれが認識する物事は必ず何かしらの量を持っており、そのことから時間・空間に関しても量があると考えがちであるが、それらは量を持っていないということである。この結論は自分にとってかなり意外なもので、いまいちしっくりこなく、なんだか騙されているような印象を受けたが、このように説明づけると矛盾することがなく、正しいのだと思う。
また、運命論と自由論についてはどちらの主張もある程度正しく、これは適用範囲の問題であるという結論であった。これは当然の結論であると思った。普通に考えればそのような結論になると思う。それともカントの時代はかなり新しい考えだったのだろうか。
カントの思想に対して、なぜだかは分からず漠然とであるが、かなり厳格でストイックなものだという印象があったのだが、道徳法則に関するところを読んでその通りであることが分かった。道徳法則に関することは全てが「~べし」・「~なかれ」という命令形で記述され、義務的なものである。例えば、「正直であれ」・「嘘をつくなかれ」等である。このような命令文の方式を「命法」とよんだ。カントは更に、無条件の命法を定言命法、条件付きの命法を仮言命法に分類し思考を進める。
カントが言うには、仮言命法は道徳法則を教えるのに非常に理解がしやすく便利であるが、同時に強い副作用を持つという。例えば「人に親切にされたければ、自分も人に親切をしなさい」という仮言命法は子供に説明する際も、なぜ親切をしなければならないかという説明が与えられているので教えやすいが、同時に「人に親切されなく���もよいならば、自分も人に親切にしなくてもよい」という理屈が成り立つ。仮言命法には、このように道徳の根拠が自分の利益等という下心に結びつく「エゴイズムの原理」が隠れており、普遍的妥当性を持たない。この意味で、仮言命法はア・プリステオリなものである。
対して、定言命法はその根拠が示されていないため、教えるのが難しく、そのような行動をとるのは非常に難しいものであるが、普遍的でア・プリオリなものである。またそのような行動は、ペテロの例をみるように、非常に強い「道徳法則への尊敬の念」を喚起する。
以上のような意味で、仮言命法による道徳法則は絶対的な「善」ではあり得ず,定言命法による道徳法則こそ「善」であるとした。このように道徳に関しての考え方が、カントに対する印象を厳格なものにしているのだろう。
他にもカントが理性批判において良く用いた思考法である「法廷モデル」等、興味深いことが沢山あったが、ここで挙げることができない。自分の文章力がもっとあったらと思う。ただ、カントに関して物足りないと思ったのは、道徳に対する根本的な批判が少ないことである。後に、ニーチェなどがそれを批判していたようなので、次はニーチェ入門を読んでみたいと思う。
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よくわからんというのが本音。まだまだ自分の知識が足りないのか、書いている内容が難しすぎるのか。それより何でこれを読もうとしたのか思い出せない。とりあえず、もう一度きっかけと目的を見直して再読しよう。
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理性が人間を騙す。それは避けられないことだけど、人間はそれをよく考えることで乗り越えることができる。何が正しいか、わかることができるんだって。
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読者に理解しやすいよう、カント哲学を丁寧に説明しようとする著者の努力はよく分かるが、著者自身「むすび」で「カントは新書スタイルにはなじみにくい」ために苦労したと告白していることにも伺えるように、カント哲学の本質を初学者に分かりやすく伝えることはあまり成功していないような気がする。
カント哲学を紹介するにあたって、アンチノミー論を導入にもってきたことは、非常によいアイディアだといえるだろう。ライプニッツ=ヴォルフ学派からのカントの離反についてきちんと説明されている点や、著者のいう「法廷モデル」に基づく立ち入った解説がされている点も、高く評価できる。
他方で、カントの批判哲学が、「可能性の条件」の探求であったという点についての説明が十分でないように感じた。とくにカントの理論哲学の解説では、演繹論や原則論についての説明が弱いことは否めない。カントの理論哲学は「認識の可能性の条件」の解明をめざしたものであり、道徳哲学は「道徳の可能性の条件」の解明をめざしたものだ。カント哲学の入門書に求められているのは、こうした問題設定を読者に納得させることではないのか。
そうした観点からいうならば、本書は、岩崎武雄の『カント』(勁草書房)や黒崎政男の『カント『純粋理性批判』入門』(講談社選書メチエ)ほどゆきとどいた解説がなされているとはいえない。とはいえ、それらの入門書とはべつの観点からカント哲学を解説したものとして、本書の意義は認められてよいだろう。