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オッペンハイマーの生涯を核兵器の開発史と共に短くまとめた本。科学者としての考え方、そして原爆を生み出した立場からの政治責任がどのように移り変わっていったのかを国際政治の観点や当時の証言から考察している。彼が生涯をかけて達成しようとしたことは、国際協調に基づく原子力の開発と管理であったのだと著者は語り、その上で核兵器を配備することを是としつつも、水爆の開発には反対していたのは何故なのか。ソ連のスパイとして裁判にかけられたことも踏まえて解説していく。
オッペンハイマーがどのように核兵器と関わってきたのかという部分に焦点があたっているため、彼の人柄についてはあまり言及されてはいないのだけど、人類が生み出した大量破壊兵器に対する科学者としての責任を、原爆が完成して以降のオッペンハイマーがどのように捉え、いかにその問題から逃れることができなくなったか。彼自身の言葉である「科学者は罪を知った」ことで、彼の人生がどう変わっていったのかという部分に的を絞っていて興味深かった。その意味でこれは「科学者の功罪」について考察した本とも言えるわけで(というかオッペンハイマーの本はだいたいそのような内容にならざるを得ないのだけど)、テクノロジーの役割と国際政治、そしてそれらを担う「人間」についても話は及んでいき、ページ数はそれほど無いが、読み応えがあった。ただし文章が論文形式になっているため少々読みづらいのが難点。