紙の本
神々の戦い、そして驚異のネットニュースSF
2001/03/31 03:20
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投稿者:トリフィド - この投稿者のレビュー一覧を見る
破天荒な銀河を舞台に、神々の戦いが幕を開けます。
銀河の片隅、太古から封印されていたアーカイヴが人類の考古学者たちによって開かれ、恐るべき邪悪意識が目覚めます。邪悪意識は諸文明を結ぶ情報ネットワークを通じて数々の文明を吸収同化。かくして銀河ネットワーク社会は阿鼻叫喚の巷と化します。
一方、邪悪意識 —疫病体— と共に封印されていた「対抗策」を携えて脱出した船は、とある原始惑星に不時着。その星の犬型分散知性体の派閥抗争に巻き込まれてしまいます。
そして「対抗策」の存在を知ったネットワーク世界から、一隻の宇宙船が発進します。しかし疫病体もまた、「対抗策」を潰すために艦隊を派遣、かくして追うものと追われるもの、激しい競争が繰り広げられます。はたして銀河の運命や如何に!!
とはいえ、この「対抗策」の内容たるや……
これを読んだのは、ちょうど『ホット・ゾーン』や映画『アウトブレイク』が話題となっていた頃でした。そのため、この対抗策のあんまりなことに唖然としたことを憶えています。
読み終えて感慨を深くすることは、ここに描かれているのは、まさに神々の戦いだということ。邪悪な神が覚醒し、他の神が(神を越えるものが?)それを除去すべく手を打った。自分たちのために。それだけのこと。人類やそのほかの血と肉を持つ諸種属のごとき低レベル知性体は、神々にとっては、どうでもいい単なる使い捨ての駒でしかないというこの寒さよ。宇宙の大きさというものを実感する一瞬です。
作者のヴァーナー・ヴィンジは、分散システムを専門とする計算機科学者であり、それゆえこの作品に描かれる情報システムや分散知性(集合知性というよりは分散知性だ)のリアリティには特筆すべきものがあります。
情報ネットワークを侵蝕する疫病体にしても、分散しているけど実は一点に弱点がある、などというようなありがちな設定にしてお茶を濁したりせず、実際にああいうものができてしまった時にそうなるであろうというシビアな状況を作り出し、銀河社会を前代未聞の災厄に直面させています。
そしてもうひとつ、この作品には恐るべき内輪受けが仕組まれています。それは実在するメッセージ交換システムにしてコミュニティでもあるネットニュースが名前も中身もまるっきりそのまんま登場すること。スケールこそ銀河規模に拡大されていますが、飛び交うメッセージの数々は、実在するネットニュースでまさに飛び交っているものと同じようなもの。危機の発生を叫ぶもの、過剰に反応するもの、嘲り笑うもの、飛び交う罵倒、頭のおかしい投稿者。古くからのネットニュースの利用者であるわたしは、この設定には床の上をころげまわって大喜びしてしまいました。
一方で、ネットニュース(そして分散システム)を知らない読者の目には、この本はどのように映るのか、興味があったりします。計算機やネットワークに通暁した人とそうでない人では、全く異なった読み方をし、全く違った感想を持つ本なのではないでしょうか。
わたしがもっとも好きなSFのひとつです。特にネットニュースの利用者は必読!!
紙の本
編集部コメント
2003/02/22 21:37
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投稿者:東京創元社編集部 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『SFマガジン』ベストSF1996 第5位!
銀河の片隅に封印されていた“邪悪な情報意識体”を、人間の発掘隊が解き放ってしまい、意識体は、通信ネットワークで構築された銀河を恐るべき勢いで浸食しはじめる。そして、これに対抗するためのワクチンを載せた宇宙船が遭難した先は、なんと、複数個体が集まって一個の知性体となる、犬型生命体が支配する地球の中世のような惑星だった! 『最果ての銀河船団』と同じ未来史を構成する超大型宇宙SF。ヒューゴー賞受賞作。
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広大な宇宙には種々なる民族が生息し、自身所属の風俗や歴史などのハイカルチャーを所有している。互いに接することで多大な可能性の順列における確率論を超越し膨大な数量と未体験領域へ移行することもできる。それぞれの危機を援助することで次元をストップさせずに宇宙の歩みを進めさせ、神すら侮蔑するほどの科学力・言語力を得る。遠くで揺らめく焔をふっと消すように、音楽を奏でるように世界は巡礼するのだ。
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世界設定や犬型のエイリアンが秀逸。アイディアが面白く、登場人物もいきいきとしているが、まだヒューゴー賞らしき、ぐっとくるものは出てこない。なんだろう、まだちょっと物足りない。
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宇宙規模の大災厄から中世異世界の戦争・陰謀劇までをひとつながりに連結して、そのいずれも面白くよませてくれる。スペースオペラの醍醐味を満喫できた。そのうち読もうと後回しにしていたのがもったいない。
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[ 内容 ]
<上>
銀河の片隅で人類が発見した太古のアーカイヴ。
だがそこに眠っていたのは人知を超えた強大な邪悪意識だった。
解き放たれたそれは恐怖と混沌を巻き起こし、恐るべき規模で銀河文明を蝕んでゆく。
一方この悪魔の星から、最後の希望となる手掛かりを積んで脱出した一隻の船があった。
だが不時着した先の緑の星で、彼らは犬型の集合知性体が繰りひろげる抗争に巻き込まれてしまった。
ヒューゴー賞受賞最新SF。
<下>
奇妙な犬型集合知性体の星にとり残された人間の子供ふたり。
対立勢力に別々に捕われ、人類のテクノロジーをめぐって抗争は激化する。
一方大銀河では、強大な力をふるう邪悪意識が数多の文明を崩壊させ、機構の中枢まで壊滅させていた。
虚偽と悪意の情報が乱れとぶ宇宙を、姉弟の救出にむかう人類=エイリアン共同船。
だがそこにも魔の手が。
絶賛を博したヒューゴー賞受賞巨篇。
[ 目次 ]
<上>
<下>
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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ヴァーナー・ヴィンジ"遠き神々の炎"を読む。
雑誌クーリエ・ジャポンの読書特集でザッカーバーグやラリー・ペイジがSFを挙げて話題になっていますが、ハードSFに限らず未知の技術、世界に迫るSFには少年の心を捕らえてやまぬ何かがあります。
これは壮大な、超越的、宇宙SF。恒星間文明の時代、人類は3つの大きな居住星域を中心に活動。
3つのストーリーラインが展開しつつ、相互に絡み合っていく。
辺境から首都にやってきたアーカイブ司書、未開の惑星に不時着し離れ離れになった姉弟。やがて三人の行動が絡み合い…
濃厚で読むとかなり疲れますが、それだけ人を惹きつけるものがあります。
厨二心をくすぐる要素も豊富で、星域間ネットワークを取り仕切る「ヴリミニ機構」、人類の出身地地球を含む低層圏、星域間文明が展開する際涯圏、超高速思考が可能となり神仙の住まう超越圏などゾクゾクする用語がてんこ盛りです。アラサー世代懐かしの「ゼノギアス」的ななにか。
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話の大枠は簡単、おおむね『ロード・オヴ・ザ・リング』。銀河の片隅で邪悪意識が復活する。だが、邪悪意識はまだ完全ではない。その欠損部分を持って逃れた者がおり、まだ勝機はある。さあ、どうやってこの強大な邪悪意識を倒すのか。
現代のわれわれはいまだ知らないことだが、宇宙空間の性質は均質ではない。つまり、銀河の中心に行くと知的生命が思考が困難となり、人工知性すらも働かなくなる、低速圏、さらには無思考領域となる。そこから銀河の外周に向かうに従って、高度な知性が可能な空間となり、ついに進化の行き着く先は神仙と呼ばれる超越的な生命体となる。同時に銀河の外周に行くにしたがって超光速航行も可能となるのだ。格差宇宙というか、格差銀河である。
際涯圏と呼ばれる領域はいまだ神仙には進化していない知的生命の領域であり、人類の子孫もいくつかの世界を作っている。そのひとつストリョーム圏の人々はある惑星の太古のアーカイヴを探査して、邪悪意識を復活させてしまう。探検隊はソフトウェア生命である邪悪意識の重要な一部分を盗み出して、神仙の一種である邪悪意識の手の届かない、無思考領域に近い後進的な惑星に逃れようとする。しかし邪悪意識に妨害に遭い、辛くも逃れたのは冷凍冬眠の子どもたちと、1家族を乗せた1隻の宇宙船。
たどり着いた惑星は後に鉄爪族と名付けられる知的生命のいる星。着陸した宇宙船はすぐに鉄爪族の攻撃に遭い、両親は殺され、姉ヨハンナと弟イェフリのきょうだいが生き残る。しかも2人は敵対する2つの陣営に別々に連れ去られるのだ。
種々の知的生命が暮らす際涯圏のネットワーク世界では情報の通信が重要な産業である。それを担っているのがヴリニミ機構。ストリョーム圏より下位の人類世界からはじめてヴリニミ機構に就職したラヴナも主役級のひとり。彼女はストリョーム圏の惨事に気付き、イェフリからの通信も傍受する。邪悪意識に関心を持った“ご老体”と呼ばれる神仙は邪悪意識に殺され、ヴリニミ機構も一緒に破壊されるなか、“ご老体”のエージェントとして使われていた低位際涯圏出身の人間ファムとともに彼女は鉄爪族の惑星に向かう。
幾多のアイディアが投入された本書でもとりわけ興味深いのは、鉄爪族である。彼らは犬に似た生物だが、数個体がひとまとまりとなる集合知性の生き物である。発声器官は2種類あり、1種類は他者とのコミュニケーション用。もうひとつは集合知性を形作る個体間での思考のための「思考音」用である。4〜6個体でひとつの意識を形作り、人間の手のような精妙な器官を有しないながらも、数個体が前足や口を協働することでそれなりに精妙な操作が可能となっている。
さらに面白いのは、集団の中の1個体が死んでも、別の個体を加えることで、意識体としては個体の寿命以上の生命の持続が可能となることである。そして、意識体を構成する個体の編成を慎重に操作することで、強靱な意識を生み出す、これが斬伐主義者の方法で、彼らは力による世界征服を目指している。こちらがこの惑星における邪悪なものであり、弟イェフリはこちらに懐柔されている。
他方、より自由な政体で技術革新���続けている木彫師市が、恐らくこの物語の希望を担うのだが、両親を殺されたヨハンナはそこの鉄爪族と馴染もうとしない。
中世的な世界にハイテクノロジーを持って落ちてきた人類の子どもたち、邪悪医誌に対抗する手段を求めてそこに向かうネットワーク世界の人々。物語は辺境の惑星の陰謀劇になだれ込んでいく。つまり大銀河の『ロード・オヴ・ザ・リング』が、『ロード・オヴ・ザ・リング』的中世世界に展開していくという趣向だ。
本書の直接の続編『星の涯の空』が翻訳されたのを機に、重版された。
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最初はその異質な世界観についていけなかったが、理解できるとこれほどわくわくできるSFも久しぶりだなと気づく。地球は低速圏…銀河面から上昇すれば光速も超えれて思考速度も上がる。現実もこういう世界だと面白いのになあ。
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まず銀河系宇宙の設定がスゴイ。銀河系の中心部と周辺部では空間の物理特性がまったく違うのだ。中心部に向かうほど情報の伝達速度は遅くなり、知生体の思考速度も遅くなる。コンピューターの処理速度も同様である。銀河系の外側の「超越界」では、「神仙」と呼ばれる知生体が住んでいる。
要は銀河系中心より遠く、外側であればあるほど、より超光速通信航法や情報処理速度が向上し、高度な文明が発達しているという世界観です。
この様々なエイリアン種族が構成する、遠未来の情報ネットワーク銀河(ニュースグループがある)。その超越界すれすれの星で人類は50億年前のアーカイヴを発見、喜びにわきたつのだが……そこから目覚めたのは、人知を超えた強大な邪悪意識「疫病体」だった。解き放たれたそれは恐怖と混乱を呼び起こしつつ、恐るべき規模で銀河中枢を蝕んでゆく。もうこれだけでお腹いっぱいですね。
一方この星から、最後の希望となる手掛りを積んで脱出した船があった。どうにか銀河系下位圏の星に不時着したが、彼らは犬によく似た集合知性体(鉄爪族)同士が繰りひろげる抗争に巻きこまれてしまう。生き延びたのは子供二人だけ。果たして救援は来るのか。銀河系の運命やいかに。1993年ヒューゴー賞受賞作。(以下。下巻に)