紙の本
11人以上いる!
2020/03/15 18:55
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
新聞社の女性論説委員が、フェミニズム的視点で書いた社説が元で、政府から理不尽な圧力をかけられるが、なんとかその原因を突き止めて、窮地を切り抜けようというある種の言論世界の冒険サスペンスになっている。美人で聡明な主人公の活躍に痛快さを感じるところもあるが、どこか割り切れなさも残る。45歳バツイチ独身、なにしろおじさま方にモテモテである。11人のボーイフレンドがいると言われているが、なぜ11人なのか、本命は誰なのかという謎がまずあって、そこに引き込まれるるのが若干悔しいのは嫉妬だろうか。
政府はどこぞの勢力から圧力を受けて新聞社に圧力をかけ、会社は社員に圧力をかける。それに抵抗するために、圧力の連鎖のどこか元の方にくさびを打ち込もうというわけで、そう言うと戦っているようだが、敵を味方につけようということでもあって、それはすなわちこちらも味方になるということである。哲学教授が言う贈与の互恵関係の理論がそれを裏付けているように。
勝利を得たように見えても、実のところお互いに秘密を持ち合い、そうして権力に取リこまれているだけである。寝物語に語られた理論は、一つひとつのミクロな事象、行為を正当化するだけの他愛ない例えのようで、じつは物語全体の構成を暗に示唆している。
フェミニズム的論調で筆禍を被った主人公だが、その解決には彼女のみならず、伯母、母、娘の美貌の家族それぞれのボーイフレンドたちの力を借り、時には体当たりで、要するにいいとこ取り、リアリズムに徹した姿勢には感嘆ももするが、今まで下心100%で近づいてきていた男たちを、これまでキープしてきた成果が、ここに来て見事に発揮されるという顛末なのである。結局、旧秩序の不合理と戦おうとして、より一層旧秩序に適応した可愛い女になることで、窮地を切り抜けたというだけではないのか。それも美人という存在の既成ポジションをきっちり活用した感がある。
さらに振り回された男たちへの盛大な裏切りまであるのだが、誰もそれに怒ったりもしない。こうなると、どんなに理屈を並べても美人には弱いという男社会を嘲笑し、そんな男社会でのし上がるフェミニズム論客を嘲笑し、こんな欺瞞的なストーリーを楽しむ読者たちをも嘲笑しているのだとしか思えない。そういう読者の意識を巧妙にあぶり出すことによって、現実の社会システムのグロテスクさを有無を言わさずに突きつけるてくる。ああ、たしかにそうなってるなあと、言われてみて思い起こせば、誰もが納得せざるを得ない現実である。
もちろん作者の仕掛けたそんな違和感を読み取れない読者には、それまでのことだ。確かに時代の最も新しい部分を切り取っているし、新聞社の内情なんかも確かに面白いのだが、作者の感じた現代社会への違和感は、その旧い部分にも、新しい部分にも、まんべんなく向いているのであり、人物の緻密な描写でこそ表現できているのではあるまいか。
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ストーリー展開も軽妙で、作中で展開される独自の「贈り物論」も面白い。
女性の描き方が「なんだかなあ」と思わなくもないけれど、そのあたりも含めて、書かれたのは平成ながらいかにも「昭和」な雰囲気がたっぷり漂った作品。
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教養小説としても中身の濃い1993年の作品。
熟年の働く女性を恋もする美しく魅力的な存在として描いたので話題になった印象があります。
新日報の新聞記者の南弓子は、45歳で論説委員になる。
同時期に論説委員になった浦野は、取材記者としては名物男で優秀だが、じつは文章を書くのは苦手で有名な男。
苦笑しつつ手を入れるのを手伝う弓子。
この二人の出世は順当な物ではなく、派閥争いで有力候補が取り除かれた果ての偶然という内部事情もあったという~大会社では意外にありそうな?なりゆき。
弓子は若い頃に見合い結婚をして娘を生んだが、まったく家事を手伝わない夫に家庭に入ってくれと言われて離婚。
以来独身だが、20年来の愛人がいる。週に一度講義に上京する哲学教授・豊崎と逢瀬を重ねていたのだ。
取材で知り合った各界の魅力的な男達と友達付き合いを続ける~魅力ある女性。
彼のことで悩んでいるときに論説で筆が滑り、中絶問題について穏当でない言い回しをしてしまう。
最初は問題にもならないというのも社説を真面目に読む人は少なく社長も読んでいないせいとは笑えるが、どこかから圧力がかかって、閑職にとばされそうになる。
どこからなぜ圧力がかかったのか?人脈を駆使して、弓子の闘いが始まる。
弓子の伯母である往年の女優や、裏社会の浅岡、娘の千枝とその恋人候補が会いに行く書家や、はては首相の田丸など、さまざまな人物がそれぞれに面白い。
更年期障害の豊崎の妻や、子供のようになってしまっている田丸の妻など、妻としての人生にも陰影のある描き方。
日本の歴史や社会についての考察もあちこちにちりばめられていて、読み応えがあります。
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朝日新聞の書評で紹介されていた。女性新聞記者をとりまく人たちのおはなし。あんまり古さを感じない。丸谷才一の本を手に取るのは久しぶり。
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あらすじは正直惹かれなかったが「丸谷さんの本にハズレはない」と思って読みはじめたところ、やはりハズレてなかった。むしろ大当りである。
丸谷さんの日本論、日本文学論、哲学に対する理解らしきものが随所にちりばめられていて、そっち方面を研究している自分としては実用的な読み方もできると感じた。
これを読んだ人は『輝く日の宮』も手にとってみてください。
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大新聞社の舞台裏のような話と、論説委員に選ばれた主人公、離婚して大きな娘がひとりいて、母親と娘と三人で暮らす弓子の働く姿を、すごくおもしろく読んだ。弓子はまさに正真正銘の「バリキャリ」を絵に描いたような。インタビューなどを通じて各界著名人と懇意にしていて、もちろん、哲学者のすてきな恋人(不倫だけど)もいて、文章を書く仕事は楽しいし、お金はあるし、暮らしは優雅で。なんだか読んでいて楽しくて。あと、問題ある社説を書いた弓子に圧力をかけてきたのはだれかをさぐっていくという、ちょっとミステリっぽいところもあって、それもおもしろかった。首相公邸に入っていくところとか、どきどきわくわくしたし。丸谷先生らしく、それはもうすごい蘊蓄?の嵐で、本筋からどんどん枝葉が伸びていく感じなのだけれど、ときに興味深く読み、ときに斜め読みしたりして、あまり難しさは気にならなかった。さらさらと読める感じ。
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1993年発刊のベストセラー。架空の全国紙の論説委員を務める主人公が記した社説を巡って、巻き起こる筆禍事件を題材にしている。時代設定はよくわからないけど、93年当時だろうか。裏表紙には「大新聞と政府と女性論説委員の攻防をつぶさに描き」とあるけど、描いているのは、そういったエンタメ一色ではない。確かにユーモアにあふれてるし、主人公の女性は離婚歴がありつつも、歴然としたエリートで。取り巻く人物も味があって楽しい。かといってテーマ性が浅いわけでもなく、「ものの贈与」に込められた日本的文化性の機微を描き出している。作中のクライマックスでは、論説委員の座を守ろうと、親類のつてをたどって時の総理と直談判をする場面がよかった。
「女ざかり」というタイトルは女性が進出していた時代、キャリアと結婚、恋愛に全うする女性を主人公にしたからか。タイトルから想像した内容とはふた味ぐらい違ったけど、悪い気はしない。
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追悼として、丸谷才一を初めて読んだ。筒井康隆絶賛というだけあって、その徹底して理知に勝った小説技法から文章を書く天才ということはよく分かった。しかし、小説としてガツンと面白いかというとそうでもないかな。美人新聞記者の社説が問題となり、最後は総理官邸でクライマックスを迎える、一貫して流れるのは日本の思想の問題、贈与の哲学であるということ・・・テーマとしては大変興味深いが、しゃれていて、コミカルで、技法が詰まった文章を駆使して、通俗小説?大衆小説?中間小説?ぶった中に深遠な思想を書き込むという才気に溺れているだけのやうな気もする。詰まらなくもないがもったいない本。
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自分はあまりなじめない主題だが、丸谷氏の悲報を機に読んでみた。旧かなづかいの文章が何故か読みやすい。ストーリーは一度だけでは理解できないところがある。登場人物も多くて覚えきれない。でも粋な主人公には憧れを持った。
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大新聞の論説委員を務める女性が、彼女の論説に対する謎の圧力に抗っていくというストーリー。
テーマである「贈与」は登場人物の言葉を借りて語られるため、非常に分かりやすいです。なおかつこのテーマはあらゆるシーンに散りばめられ、首相の妻の登場によって、日本人の根源的な部分に根ざすものとして際立っています。
ですが個人的には、この小説は「贈与」が全てではなく、あくまで女性のあり方を根底に据えたものと思います。仕事と子育てを立派にこなし、豊かな人脈も愛人も持つ弓子はまさに「女ざかり」。テキパキと論説を書き上げるように毎日を送っていた弓子が、自分以外の女の生に触れることによって、生に思いを馳せ俯瞰しつつ生きる段階に踏み出す姿が、この小説には描かれているのではないでしょうか。そう読むと、坪庭のシーンはいっそう象徴的です。
そしてこの小説が発行された時代を思えば、当時また新たな変化を遂げていた日本女性と弓子とが重なって見え、なお面白いです。
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新聞で記事を見て、どんな方なのかと言う事で読む。
最初は古い書き方・・
”いふ”:言う、 ”あつた”:あった
”(イ)「る」みたいな”イ”:いる、
”よさう”:よそう、”だらう”:だろう・・・など懐かしく感じたが
すぐに慣れた。
始めの方は時間が掛かったが、最後まで、すーと読めた。
スムーズに解決したのが意外だった。
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何で言葉が古いんだろう。時代背景と合ってないので気になる。
けれども途中からそれは殆ど気にならなくなり、時に引き込まれ、でも所々余計と思えてしまう話も多く、つまらなくもないけど、もう一度読みたいとも思わない。
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分量は多いけれど、おもしろくて読むのが止まらない。
20年前の作品であるにしても人物造形や会話などが古めかしくてちょっと現実離れしたところもあるし(それが丸谷才一らしいところでもあり)、筋書きそのものは話が大きすぎたり予定調和的なところもあるのだけれど、背景を貫く贈与論を中心とした日本の社会や民俗についての考察、新聞社論説室の仕事や裏の人間関係のくわしさ、登場人物の会話に登場するさまざまなゴシップや雑学がおもしろくて(そこが丸谷作品の真骨頂)、ついついページをめくってしまう。
森鴎外が大した筋書きじゃない『即興詩人』を雅文体でくるんで読ませるように、丸谷才一は知的好奇心という包み紙で読ませるのだなぁ、と改めて思う。
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女新聞記者を巡っての陰謀が話の筋だが、互酬の経済学、天皇制、文章の書き方、漢詩、哲学、などあらゆる学問的知識がふんだんに盛り込まれており、各章ごとに違った味わいが楽しめる。
陰謀の話しといっても、きな臭いサスペンスではなく、洒脱で軽快な会話劇である。
ただ、丸谷才一は市民小説の旗手とされるが、この本の登場人物は新聞記者や大学教授、女優、総理大臣、指揮者、書道家など上流階級ばかりで、その点が若干違和感があった。
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いままで読んだ丸谷小説はどれも暗い感じだったので、コメディタッチのこれはいかにも「お話」という印象。よくできてはいますが。