紙の本
神のみぞ知る
2011/06/15 11:52
10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第33回芥川賞受賞作(1955年)。その後の遠藤周作の活躍を思えば、新人登竜門といわれる芥川賞も華々しく受賞したかと思いきや、選評を読むかぎりにおいては薄氷の受賞であったことがわかる。
選考委員の一人舟橋聖一氏の選評によれば「一時は(受賞作)ナシにきまりかけたが、司会者の運びのうまさ(これは名人芸に値した)につりこまれて」受賞作に決定したということだ。この「司会者の運びのうまさ」は表現こそ違え、宇野浩二も選評に書いているから事実そうだったのだろう。
その後大家となる遠藤周作をこの世に生み出したのは選考委員ではなく、どなたかわからないが、当日の「司会者」だというのも、なんだか遠藤らしくて愉快だ。
先の舟橋氏の選評であるが、さらに遠藤の文学に対する姿勢を批判し、「片手間小説には、あまりやりたくない」とまで書いている。
受賞当時の遠藤は「評論」の道に進もうとしていた節があり、その点での心配は他の選考委員もしている。それほどに当時の遠藤周作は文学界においてほとんど無名であったといっていい。
その受賞作『白い人』であるが、主人公も物語の舞台もすべて西洋ということで選考委員にとまどいがあったにちがいない。主人公はフランス人とドイツ人の間に生まれた青年神学生で、舞台は第二次大戦のフランス・リヨン。それだけでもきっと違和感があっただろうし、しかも物語のテーマが「神の存在」であるから、いくら「司会者」の力とはいえ、この作品を受賞作にしたことは、今から思えば「神の御力」であったのだろうか。
生まれつきの斜視である主人公は、父から疎まれ、「右を見ろというのに、右を」という呪いのような罵声を浴びて成長する。やがて神学校に入学し、自身の心に奥底に潜む苛虐性に目覚めていく。そんな彼に対峙する形で信仰一辺倒である青年とその恋人が配置される。
遠藤にとって彼らは神の具象化であったかもしれない。その神を遠藤は懐疑している。
この作品のテーマはのちに遠藤の終生の主題となっていく。
もし、この回の「司会者」が粘らなかったら、作家遠藤周作は誕生しなかったかもしれないし、私たちはその後の遠藤の名作を読むことはなかったかもしれない。
神は「司会者」となって遠藤を芥川賞作家にし、そして何を描かせようとしたのだろうか。
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遠藤周作デビュー作(だったっけ?)!「白い人」の主人公のサディステックで静かな狂気。「黄色い人」は実際に留学生だった遠藤さん自身の体験…?
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「白い人」より。静かなサディストって一番怖いということがわかった。ストーリー自体も、漫然と読むと背景描写が静か過ぎて、展開の強烈さを時々見失いそうになってしまう。
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買ったのは15歳。読んだのは19歳になってから。ほっといてごめんなさい。
読後の言い表しきれない問題感。信仰というものにここまで冷静なものの見方が出来るなんて尊敬と言う言葉で済ませていいでしょうか?
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15歳くらいの時に読んだので難しかった。ただ、神や人間について考えさせられたのは覚えている。今読むときっとまた違った印象なんだろう。
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白人から見た日本人という人間の不思議さについて。
宗教色が非常に濃い。確か筆者自身もクリスチャンだったはず
文章はねちっこい系。
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遠藤周作さんの初期の作品で、確か「白い人」で芥川賞を受賞したらしい
遠藤周作さんの作品には宗教的な「神」という命題を常に感じる。
「白い人」では、主人公の母親や神学生などキリスト教の戒律を厳しく守る人に反発する姿を描いたり、
「黄色い人」では、信仰を持たない日本人の「神を持たない日本人の精神的な悲惨、ないし醜悪を描くこと」その姿勢が見られる。
そういう視点を持つと、興味深い。
『海と毒薬』という作品ではこのテーマが深められているらしい。見てみようと思う^^
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遠藤周作のイメージが変わった。信仰についてハードコアに突き詰めた作品。
白い人
舞台は第二次世界大戦中のリヨン。不器量な容貌で厳格な親のもとに育ち、抑圧された主人公は女中が犬を折檻しているのを目撃してサディズムに目覚め、アデンで少年を襲う。
学校に入ってから、神学生に心酔する女生徒の下着を盗み、舞踏会に呼び出して踏みにじる。
自らの異常性を隠し善良な天使を母の前で演じ続け、母の死を見届ける。
かつて自分が踏みにじった女生徒と神学生が教会で信仰の道に生きているのをのぞき見ると、フランス人であるにも関わらずナチスに入隊し拷問に明け暮れる。
あの神学生がナチスに囚われ、自分の担当となると、彼とともにいた女学生も捕えてきて神学生に自白か女学生への乱暴かどちらかを迫る。
自室に女学生をつれこみ、神学生の身の危険をほのめかしながら
乱暴する。神学生は拷問の末、教えにそむいて自殺し、女生徒は発狂する。
主人公は言いようのない悲しさを覚えるのであった。
「黄色い人」
第二次世界大戦中の神戸。教えに背き不倫をし白眼視される神父は、自らの罪に苦しみ続ける。出征中の婚約者を裏切って内通する主人公。拳銃を隠し持っていることを警察へ密告し、家宅捜索に合う神父。「なむあみだぶつ」と唱え、すべてをあるがままに呑み込んで半ば自堕落に暮らす人々。
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案外deepでした。ナチの拷問を受ける側と拷問する側の対比は、何とも言えない読後感を醸す。宗教とか、神の存在を考えさせられる。
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[ 内容 ]
第二次世界大戦中のドイツ占領下のリヨンで、友人の神学生をナチの拷問にゆだねるサディスティックな青年に託して、西洋思想の原罪的宿命、善と悪の対立を追求した「白い人」(芥川賞)、汎神論的風土に生きる日本人にとっての、キリスト教の神の意味を問う「黄色い人」の他、「アデンまで」「学生」を収めた遠藤文学の全てのモチーフを包含する初期作品集。
[ 目次 ]
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
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[ 読了した日 ]