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紙の本

吐息から生まれた物語

2011/12/26 12:42

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 視界のすみにすっととらえた一冊の本。かつて何の興味もなく通り過ぎた作品であってもそんなふうに出合える作品がある。1992年刊行の山崎洋子のこの作品とは、そんな出合いだった。
 何が気になったのだろうか。『禁じられた吐息』という艶めかしいタイトルだろうか。ぱらぱらと開いた文章の静かな情熱だろうか。

 この作品集には4つの短編が収められている。そのどれもが女性が主人公の官能的なミステリアスな作品である。 初出となった掲載誌はいずれも女性誌であった。
 女性のために女性が描く、女性からたちこめる官能の匂い。
 そういうものに魅かれたのかもしれない。

 「蜜の肌」は40歳の杏子が主人公の作品。彼女の前に不意にあらわれた少年。見も知らぬ少年ではあったが、どこかで会ったかもしれないという既視感にとらえられる杏子。実は彼女には18年前に捨てた赤ちゃんがいた。少年はもしかしたら、その捨てた子供ではないかと悩む杏子。それでいて、いつのまにか少年の野生にひかれていく。そして、杏子は過去の罪にひきずられながら、もしかすると自分の息子かもしれない少年と身体をかさねてしまう。少年の正体は・・・。
 「月の吐息」は34歳の苑子が主人公の作品。後妻としてはいった家での先妻の娘実来との葛藤を描きながら、その葛藤の原因が女性同士の愛という官能的な作品。
 「甘い血」は40歳のキャリアウーマン江里子が主人公の作品。遊び感覚で目にしたSMショーだったが、街中で偶然にその時の男役にであって少しずつ狂いだす江里子の生活。彼女の中に目覚める官能の蠱惑。だが、上級職を目前にして、江里子は官能に逆襲されていく。
 「熱い闇」は30歳の独身の女教師が主人公。孤独の闇を抱える生徒を矯正していくと名目で自分の家に住みつかせる主人公はやがて彼女自身の闇にとりこまれていく。

 「蜜の肌」の主人公杏子がいうように、「人はいつも誰かの愛を求め、愚かな罪を犯し続ける」ものかもしれない。
 それは女性だけのものではないはずなのに、女性たちはそんな物語を読んで、そっと吐息をつく。いや、そんな吐息から物語が生まれるのだろうか。

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