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カレン・ブリクセン=イサク・ディーネセンの晩年の作品集。
映画化で有名になった「バベットの晩餐会」は実はこの作品集のなかに入っている1つだが、別に訳があるので、この本には含まれない。「運命綺譚」(Anecdotes of Destiny)を全体として体験するためには、最初の短編「水くぐる人」を読んだあと、「バベットの晩餐会」を読み、その次にまたこの本にもどって、「あらし」を読む必要がある。(同じ出版社から文庫本が出ているんだから、あわせて1冊にしてほしかった)
ブリクセン=ディーネセンの作品は、素晴らしいストーリーテリングが味わえるのだが、この作品集の特徴は、ストーリーをストーリーテリングすることをさらにメタレベルでストーリーテリングするということが実に巧みに構造化されていること。
もともと、ブリクセン=ディーネセンの作品は、単純なストーリーには収まらない、「夢」と「挫折」、「物語」と「現実」を対比する、そしてその対比自体を物語化する、そして、さらにそれを多様な解釈に開かれた余韻をもったクロージングにつなげるという感じのものが多い。
この晩年の「運命綺譚」は、それをさらに突き進めて、メタレベルで複雑化している感じ。
でも、話しとしては、とっても面白くて、難解なものにはならない。本人によると、これはやや「軽い」作品を集めたもの、らしい。
個人的には、これが、ディーネセンの作品で一番入り易いんじゃないかな、と思った。(そういう意味でも、「バベットの晩餐会」も入れて1冊にしてほしかった)