紙の本
ドラマチックな人物
2002/05/29 13:10
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:郁江 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「5次方程式は解けない」と言われても、そもそも5次方程式の存在さえ知らなかった…。だけど数学は必ず答えがあるものだと思っていたから、解けない数学があるのが不思議だった。それを証明した人物もまたドラマチックな人物である。彼の名はガロア、自由な社会に憧れて市民革命に身を投じ人間関係のもつれから、恋敵と決闘を強いられ20歳の若さでこの世を去っている。それでも数学史に名を残している。
彼のドラマチックな生涯を詳しく知りたくないですか? サブタイトルの「神々の愛でし人 」というのも意味深ですよね。
投稿元:
レビューを見る
【08.09.05/図書館】
血気盛んな若者というキャラクターが好きであれば面白いかも知れない。
本としては面白い。七月革命に関して、ある側面を理解するのにはとても良い。
主人公に関しては、革命時に、突っ走った学生なんて、他にも山ほどいるので、そういう意味では珍しい存在というわけでもなく、
歳を考えれば仕方ないかも知れないけど、あらゆる意味で策が無く、人物に魅力は感じないというか。
もちろん、そこが好きな人は好きだろうから、その辺は好みの問題。
むしろ、自殺したお父さんの方が気になる。
一番クワッときたのが、ティエールが青年だって辺りが…。
普段自分の見ている範囲(第二帝政末〜臨時共和)では、ティエールはすでに老人なもんだから。
わかっちゃいるけど、どこにでもいる人だなぁ・・・。1848年にも勿論いるわけだし・・・。
投稿元:
レビューを見る
天才数学者の人生を小説仕立てで。著者は有名な物理学者インフェルト。原書は1948年刊。
ただでさえドラマチックな天才数学者の人生を,さらにドラマタイズした伝記。数学者としては無名なまま夭折しただけに,あまり史料が残されておらず,欠けた部分を創作で補っている。出来事の順序などの改変はない。司馬遼太郎の歴史小説みたいな感じだろうか。
数学者としては無名というのは,熱烈な共和主義者としてかなり目立つ若者だったから。葬儀には三千名の共和主義者が出席したという。著者は物理学者だが,ガロアの数学よりも政治運動の描写が多いのは意外だった。
ガロアは女性を巡る謎の決闘で命を落とすのだが,この真相について著者は大胆な説を採用している。共和主義者として国王の警察から睨まれていたガロアは,決闘の形で謀殺されたというのだ。銃弾を受け倒れた彼は,立会人の裏切りによりその場に放置され,翌日病院で死亡する。
決闘の前夜,限られた時間の中で,彼の理論の骨子と「僕には時間がない」との走り書きを手紙にしたためる。事実であるこの部分がやはり創作部分よりも印象的だった。15歳でルジャントルの『幾何学原論』に出会って以来,20歳で死ぬまでに彼のなした数学への貢献は,本当に信じられないほどだ。
重要な論文を投稿しても理解されず,共和主義者としての活動がもとで師範学校を放校され,19歳で数学講義を開講するも,理解されず受講者は減る一方で三回で終了。獄中でさえ数学を続け,決闘の前日にその集大成を執筆。悲劇の天才でガロアの右に出る者はいないんじゃなかろうか。
投稿元:
レビューを見る
本書からうかがえるガロア像は、思索と革命が同居する名状しがたい奇人変人である。数学への孤独な探求と革命への青い情熱が交互に立ち上る。
その人間性は茫としてつかみどころがない。ガロアの葬儀には3000人の共和主義者が列席したそうだが、それほどの魅力を持った人物とは思いがたいのである。
その辺について、著者は創作を控えめにしたと後書きに記している。学者らしく、創作と資料に基づく記述を分離することにこだわっている。享年二十歳の若者に関する資料などたかが知れており、それ故、ガロアの人物像を活き活きと描き出すことは不可能だったのだろう、と推測はできる。
推測はしても、ガロアの内面の掘り下げが甘いことに、残念な思いを禁じ得ない。
もっと人間的なガロアの物語を読んでみたかった。
「神々の愛でし人」というロマンチックなタイトルにすっかり騙された気分である。本書と神々の接点は、当時の民衆運動と対立していたカソリック程度である。そしてガロアはカソリックを嫌っていた。ガロアを愛でた神々はいったいどこへ行ったのだ。
想像の翼をはためかせ、数学に生き革命に死んだ天才の二十年の生涯を活き活きと描き出す作家の現れんことを心から願う次第である。