紙の本
静かで不思議なリアリズム
2002/05/25 01:42
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投稿者:青月堂 - この投稿者のレビュー一覧を見る
一読後ふーと溜息をつきおもむろにお茶を煎れた。もちろん、少し濁った緑色のお茶である。ふとんをはずし、テーブル代わりに使っているこたつで、お茶を飲みながらくつろぐ。
日常って何だろう。ここに描かれた生活が日常なのだろうか。いやいやそんなことはない、バリリロロニ四肢機能全廃(本当にある病気かどうかは知らないが)なんて病気に罹っている人はそうはいない。でも、特別に障害者の生活を書いているようには思えないし。どこにでもありそうなエピソードばっかりだし。ふーむ。
淡々と話は進む。登場人物は4人しかいない。主人公は誰なんだろう。鱈子さんの視点が多いように感じるが、可李子さんの視点に変わったり、作者までが登場したりする。その意図は何だろう? わからない。目立った事件は起こらない。でも、退屈ではない。知らない間に最後まで読めてしまう。静かで不思議な小説。
ちなみに、これは第八回三島賞受賞作。
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地の文が石坂浩二のナレーションで聞こえてくるかのような、日本の古き良きホームドラマが楽しめる”あまりにもマイナーな”第8回三島由紀夫賞受賞作。作中世界の雰囲気を楽しむことは出来たが、家人の抱える病気の深刻さをあえて演出していない為か、身に染みるようなリアリティは感じられなかった。且つ主人公ら姉妹に女性性がそこまで見られなかったのも不思議だった(生理描写も一箇所だけだったし)。
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「病気って生きてるのね。」
第8回三島由紀夫賞受賞作。
可李子(姉)、鱈子さん(妹)、弥生さん(母)、明氏(父)四人家族の日常の物語。
鱈子さんの足は、小さい頃から筋肉が機能しなく歩くことが出来ない。
碁石をつまむこともできない。
身体障害者手帳では最重度の一級に属している。
歩けない娘に反して、父の明氏は定年退職後いくつかの趣味を持っている。そのうちのひとつ、日本歩こう協会に属している。娘の病院の付き添いに家長として健康な体が必要だと考えていた。
可李子(姉)と明氏はあまり仲が良くない。
鱈子さんと明氏はわりと仲が良い。
鱈子さんは一家唯一のクリスチャンである。
しばらく教会通いをしていなかったことから体を心配した教会の知人が4人ほど訪問する場面は、ちょっとしたコメディシーンだ。
また、鱈子さんがよく見る大量の血痕の夢。
あれはなんの比喩なのだろうか。とても奇妙だ。
鱈子さんは生理不順なので、そういった望むべき健康な体の象徴でもあるのだろうか。
本小説は三人称だが鱈子さんに焦点を定めることが多い。彼女はこの家族の中で抱えていることが多いように感じるが、一番精神的におだやかでもある。ただし、姉の可李子に対しては、すこしだけおだやかでない部分がある。可李子は一番健康体で、かつ姉らしくない。
どの人物も主人公になり得る小説が好きだ。
のびやかに全員が個として存在している。
時代を感じない本作の家族は、郊外の何処かでいまも生きているような気がする。
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幸せ、という言葉もつい他人との比較の中で使ってる自分。波風が立たず、上昇の気配が見えないことに対して、不安がる自分を、浮彫りにさせてくれた作品。このような家族で幸せだろうか、生きててつまらなくはないだろうか、と息苦しさを覚えた記憶があるが、読後感は不快ではなくむしろ清々しかった。自分の中の平和性に気づかせてくれた一冊。阪神淡路大震災、オウム真理教事件と立て続いた時期の受賞のため、史上最もマイナーな三島由紀夫賞作品と言われる。個人的には日常の抜き取り方、筆力共に大変な作品、また作家と考える。
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初山本昌代さん。
定年を迎えた父と母、未婚の姉と肢体障害の妹が編み物をしたり囲碁をとったり会話したりするほのぼの話だと思ったけど、一見その通りなんだけど、これが全部崩壊してもおかしくないな、という薄氷を踏んでいる感じがする。
歩くこと、このモチーフがちょくちょく出てくる。
可李子のちょっぴりデリカシーがない感じ、それを思う鱈子の視点、不思議なストーリーで解釈が微妙な部分もある。三島由紀夫賞ってこういうものなのかな。