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紙の本
この小説は「深い」
2001/02/13 23:14
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
意識の発達と変容(訳者あとがき)をテーマに、西暦2047年12月23日から2048年1月1日までの10日間に同時進行する四つの物語で編まれた傑作SF小説である。「サイコダイブ(潜脳)」の理論家にして実践家マーティン・バーク(本書の登場人物)は、その著書『精神の国』について次のように語っている。
《それはひとつの領域なんです──遺伝子的記憶痕跡、言語発生以前の痕跡、日々の暮らしのあらゆる内容から築きあげられた、停止することなく連続した夢想状態の領域。それは精神のアルファベットともいうべきものであり、その基盤の上に、ありとあらゆる思考、言語、象徴や記号が成立しています。あらゆる思考、あらゆる個人的行動は、その領域を反映したものにほかなりません。人類のあらゆる神話や宗教のシンボルは、その領域にある共通の内容に基づくものです。》
どこかマーヴィン・ミンスキーを思わせるアイデアだが、「言語能力と数学能力とは、ほぼ例外なく、遺伝子的に強固に結びついているものだ」といった指摘や、高名な詩人にして稀代の殺人者、そしてその実体はヴードゥー教の霊(ロア)に憑依されたエマニュエル・ゴールドスミス(四つの物語を直接、間接に媒介する登場人物。「神われらとともにいます」ところの「金細工師」)への「潜脳」のシーンでの次の叙述など、なかなかどうして刺激的で「深い」ものがある。
《これまで訪ねたたいていの〈国〉では、精神の中心シンボルは都市だった。なかには、大きさと複雑さこそ都市級でも、形状は城、もしくは要塞、さらには迷宮が縦横にいりくむ山などというものもあったが、さまざまな活動でにぎわう巨大な集落という点では、どれも一致していた。》
城といえば、この小説のヒロイン、ロスエンジェルスの公安官マリア・チョイが、大量殺人の容疑者エマニュエル・ゴールドスミスを追って、謎の独裁者の支配するヒスパニオラの警察長官を訪問した際、その庁舎が「城」と表現されていた。この国でマリアが経験するカフカ的な状況こそ、まさに「精神の国」での出来事そのものなのだ。
付言すると、「2048」という数字は二進数表示で「100000000000」になる。つまり西暦2048年は新しい「二進数千年紀(バイナリー・ミレニアム)」の幕開けを告げる年なのだ。西暦「11111111111」年から「100000000000」年にかけて、この小説の中では人工知能が遂に自意識を獲得することになっている。ジルとなづけられたこの「思考体」は、その設計者との間で次のような対話をかわす。
「けれど、私には原罪がないわ」
「──なんだって?」
「私は孤独で、だれかが私を罰したがるようなことはいっさいしていない。そのことで、私は人間たる資格に欠けるでしょう」
「ジル、ぼくは人間に原罪があるなんて思ってやしない。まして、人為的に創られた存在ならなおさらだ」
「私がいっているのは、宗教的な意味ではないの。私は肉体でできてはいなくて、原罪も負ってはいない。[…] 私が何者かは、あなたのほうから教えてくれないとこまるわ」
「ぼくの直感が正しければ、きみはついに自意識を持った。きみはもう、立派な個人だよ。ジル」
「それは定義として充分ではないわね。どんな種類の個人?」
「ぼくには……ぼくには、それを判断するだけの資格がない」
「私を設計したのはあなたよ。私は何者、ロジャー?」
「そうだな……きみの思考プロセスは人間のそれよりも高速で深いし、きみの洞察力は……きみの洞察力は、おそろしく深みがあったよ、いまのようになる以前からね。それによって、きみはわれわれ以上の存在になったと思う。人間を超えた存在にだ。だからきみは、自分のことを……〈天使〉と呼んでもいいんじゃないだろうか」
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