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(上巻の感想からの続き)
前回の『コールド・ファイア』は前半がとびきりに面白すぎて後半―物語の性質上、致し方ないとは云え―見る見る物語のパワーが萎んでいった顕著な例であったが、今回はどうにもこうにも陰気な主人公スペンサーがストーカーにほぼ近い事―というよりストーカー行為―。
ある酒場で出逢った魅力的な女性に対して行う事から始まり、しかも彼が自分の名前、住所、身分証明書の類全てを詐称する究極のパソコンおたく、ハッカーでもあったという非常に好意の持てない所から出発していることもあり、物語が進むにつれ、スペンサーがヴァレリーと再会してから明るくなっていくのでエンターテインメント性が高まり、そこが『コールド・ファイア』と大きく違って、マイナスからプラスに転じていたのが良かった。
主人公の呪われた血の設定は特筆物だがやはりタイトルが示すように物語のトーンとしては暗い。しかし今回、クーンツとしては珍しく敵役のロイを殺さずに最後に生き残らせ、しかも将来とんでもない事態をアメリカにもたらそうと暗示させて物語を終えた。恐らく作者は書いている最中ロイが非常に気に入ってしまったのだろう。
ロイとイヴのアメリカにもたらす災厄は非常に大きいものであり、しかも堅固までの確実性で実施されることで物語が終わるということは続編を作る気(だった)なのかもしれない。
しかし冒頭に述べたような「クーンツの小説方程式」になぞらえて今後も作品を作っていくとなると小説家としては二流と云わざるを得ないなぁ。