紙の本
田園小説のような味わい
2002/05/16 18:35
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投稿者:ひろぐう - この投稿者のレビュー一覧を見る
これはミステリファンの中では好き嫌いが分かれるだろう。1997年度のMWA最優秀長編賞を受賞した作品だが、限りなく普通小説(メロドラマといってもよい)に近い。5年前に書かれたとは思えないくらいゆったりとした、いわゆるジェットコースター小説とは正反対の、田園小説のようなお話。
舞台は1920年代の保守的な小さな村。登場人物も少なめで、語り手の老人が少年時代に起きた事件を回想するという設定。登場人物も事件も、少年の目を通したフラッシュバック的な回想として語られ、登場人物たちがどんな心理だったのか、どんな行動をしたのか、実際にはどんなことが起こったのかということが、のらりくらりとヒントを小出しにしながら、読者の想像にゆだねられるように書かれている。
というと退屈な作品と思われるかもしれないが、これが意外に面白かった。久々に物語の世界の中にどっぷりとハマって、本を読む楽しさを満喫することができた。ミステリとして考えても、展開やラストのツイストがほぼ予想通りであったにもかかわらず、謎解き主体の本格物よりもはるかに読後の充足感が高かった。普通小説として捉えても、そんじょそこらの純文学作品よりも文学的な感動を得ることができた。
特に良かったのが、登場人物の誰ひとり憎めなかったこと。古い価値観や因習にとらわれ、異質なよそ者であるヒロインを追い詰める敵役を含めて、その人々の背景に偶然や必然を超えた人間存在の虚しさ哀しさのようなものが漂っていて、憎むことができないのだ。かなり共通項の見られる『レベッカ』あたりが好きな人にはお薦め。
紙の本
思いやりが裏目に出る悲劇
2001/10/10 19:20
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投稿者:がんりょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
校長の息子は何をみたのか?
何があったのかは終盤まで明かされず、何かが起こったという前提で物語が進む。
そのせいか、前半はすごくいらいらさせられる。
最後に、何が起こったかが知らされたとき無力感に襲われてしまった。
人の好意や思いやりがこんな悲劇を起こすとは...
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投稿者:松内ききょう - この投稿者のレビュー一覧を見る
老いた<わたし>が語る、あの日の記憶。家族、友人、ある日転任してきた女性教師、将来の悩み、初恋の甘い感傷…フラッシュバックのように章ごとに呼び起こされる、せつなく、そして時に忌まわしい青春時代の記憶は、一体読者に何を語ろうとしているのか。連載小説のように読者を引きつけて離さない、手法の妙技が光る。誰が誰に何をしたのか、少しずつ明かされていく事実が後半一気に結びつくとき、さらに悲しい事実が待っている。謎を謎として残した、その理由の説得力に、ただ読後ため息がもれた。
紙の本
深い余韻を残す傑作
2001/01/17 18:43
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投稿者:大鳥啓介 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は主人公の老人の回想録といったかたちをとる。カバーのイラストを見ても想像できるように全体的に静かで暗い作品である。最初は話がなかなか展開していかないが、謎を小出しにしていくのが効果的で、長編ながら飽きることなく一気に読むことができた。
内容としては派手な展開があるわけではないが、ミステリーでありながらそれにとどまらず、いろいろな要素の入り混じった作品であるように感じた。
最後の数ページの記述が深い余韻を残す。
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トーマス・H・クックに出会った初の作品。この本で作者の世界に魅了された。WOWOWでドラマ化された。
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お話は年老いた弁護士の昔語りの形式で始まる。
主人公ヘンリーの住む小さな岬のある村に、美しい女性美術教師がやってきた。
校長をしているヘンリーの父に呼ばれてやってきたのだった。
ヘンリーは校長の息子と言う事もあって、この女性教師と親しくなり、頻繁に彼女の住まいに出入りするようになった。
だが彼女は、同僚の妻子ある英語教師と親しくなり、やがて”チャタム校事件”と呼ばれる悲劇へと進んでいくのだった。
ヘンリーの回想の形で描かれているこの話は、ヘンリーの父への思いや、思春期の男の子の繊細で複雑な精神、村の人々の閉鎖的な日常などをベースにして、全体的にグレーなイメージの中で唯一、女教師の艶やかさが目立つような、そんな印象を読者に与えているような気がする。
回想しているヘンリーの年齢は正確にはわからないが、多分、初老くらいだろう。
そして、思い出しているのは15歳の自分。だから、場面は時々、現在と過去を行き来する。最初は少しずつ、そして段々と多くを思い出して行くように、読者は徐々に過去の出来事に遭遇していく。
その描写は淡々としていて、それが読者を想像の世界へと一層、誘う。
チャタム校事件とは、なんなのか。この美しき女教師が事件に大きく関係している事は容易に想像がつくが、一体、どんな事が起きるのか。そんな期待を
抱かせながら物語は終盤へと向かい、事件が起きる。だが、その事件は、ここまでひっぱられた読者には、少し物足りないものかもしれない。少なくとも私は物足りなく思った。事件が起こり、容疑者が逮捕され、裁判が始まり、一応の決着をみる。
だが、読者が本当に驚くのは、事の顛末のまだ後にあったのだった。
本作は、’97年アメリカ探偵作家協会賞の最優秀長編賞を受賞している。
徐々に思い出されていく記憶。その先にあるのは何なのか、最後まで読者を退屈させない、面白い作品である。
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[「人生はいちどきりだ、ヘンリー」リードはいって、艇庫の窓から外の湾を眺め、その向こうの外海を見つめた。「たったいちどなんだあ。二度目のチャンスはない」そういって、わたしをかえりみた。「まったく、そこが悲しいところさ」
コメントをくわえるんは、絶好の機会に思われた。「チャニング先生のおやじさんもそういぅてます」わたしはいxった。「本のなかで。過去を振り返って、”わたしはなにをしてきたんだ?”と思うようなら、なにもしていないんだって」
サラの顔が翳った。「そんなこというものじゃないわ、ヘンリー。冗談にしてもいやよ」そのあとサラが口にした言葉は、なぜかずっと心に残っている。「わたしたち、生きているだけで幸せと思えればいいのに」
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女教師が登場するシーンが、とても印象的。
バス停で降りるのだが一瞬、躊躇する。これから起こる悲劇を、予感したかのように。
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ある夏、コッド岬の小さな村のバス停に、
緋色のブラウスを着たひとりの女性が降り立った―
そこから悲劇は始まった。
美しい新任教師が同僚を愛してしまったことからやがて起こる“チャタム校事件”。
老弁護士が幼き日々への懐旧をこめて回想する恐ろしい冬の真相とは?
精緻な美しさで語られる1997年度MWA最優秀長編賞受賞作。
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オススメ作品とのことで読んでみましたが、今一ピンと来ませんでした。
クックとは相性が悪いのかも。雰囲気は好きなんですけどね・・・
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雪崩をスローモーションで
見ている感覚とは言い得て妙。
1週間くらい何にもする事が無い雨の午後
ぼーと読むのならいいと思うが
最後の章になるまで何もおきなくて
読んでても眠くて眠くて困った。
オチ(?)もそんな引っ張っても劇的でもないし。
ラストに向けての盛り上がりもない。
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「 わたしの父には気に入りの箴言があった。ジョン・ミルトンの『失楽園』からこんな行を引き,チャタム校のの生徒に聞かせるのを好んだものだ。始業日ともなれば,両の手をズボンのポケットに深々とつっこんで少年たちの前に立ち,いかめしい面持ちで対いながら,すこしの間をおく。そして「行いに気をつけよ」とおもむろに始めるのだ。「なぜなら,罪はおのずと報いを受ける」それがいかに当たらぬ警句であったか,その裏腹をいかにわたしが痛感していたか,父はのちに思いみることもなかったろう。」
出だしが,最後につながるところがすごい。
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ミステリー小説を読む人は最初のうちは主人公の生い立ちやら、事細かな日常の事など、どんなに長くても時間をかけて読むが、それにはきっと、後になって凄いどんでん返しが来るだろう事を期待しているからであって、この小説はみごとにそれを裏切った。この結末に、あの前置きは長過ぎる。
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トマス・H. クックの文体が古くさく感じたのは訳者のせいでしょうか。
外国文学は訳者の能力が反映されますね。
さて、トマス・H. クックの物語のすすめ方に特徴がありますね。
過去のひとつの出来事を現在の状況の中で、突然に振り返る表現方法がよく用いられます。フラッシュバックのように。あるいは、デジャビューのように。
全貌は振り返るタイミングで、すべて明かさない。少しずつ少しずつ、ジグソーパズルのピースをはめ込むように、描写されます。
物語り全体のテーマを意識させながら、、これから何が起きるかを予想させながら、その予想を裏切りながら、読者に恐怖感を抱かせます。
このような話のすすめ方ができるといいですね。
聞いていて飽きないし、ついついそのあとを期待してしまいます。
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トマス・H・クックの作品を 評して よく使われる
言い回しに
「雪崩を精緻なスローモーションで 再現するような」
という比喩が あるそうだが、本作品は まさに これに
あたる。
クック独特の この 描写により 読者は 無意識のうちに
その 風景に 入り込んで、魅了されていくような気がする。
人間の心の闇のようなものを 軸に、書き込んだ 良質の
ミステリ。