紙の本
中世に関心を持つすべての人の必読書
2001/07/07 21:11
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Shinji - この投稿者のレビュー一覧を見る
学生時代、ディビッド・マンロウの「ゴチック期の音楽」を通してノートルダム学派、アルスアンティクァ、アルスノヴァの音楽に触れ、その透き通った響きに魅せられました。それから当時廉価で出ていたドイツ音源のLPシリーズを通して、中世の宗教音楽を聴いてきました。本書を通して、その頃わからずに聞いていた中世音楽の精神に触れたように思います。
音楽というと私たちは耳に聞こえるメロディー、和声、リズムを考えます。けれども中世以前には音楽(ムジカ)の概念は今と全く違っていました。金澤氏によると、それは「根本的に数の関係上に成り立った『調和』で(あり)…それが未だ鳴り響く状態でなくとも、すでにそれは「ムジカ」なのである」ということです。
本書はそのような中世音楽論の基礎となったボエティウスの音楽理論のエッセンスを紹介し、それが中世の教養の中でどのように位置づけられてきたか、また中世ポリフォニー音楽を読み解く上でどのような意味を持つかを実例をもって示します。
そのようなムジカの広がりを取り扱う本書は、中世音楽だけでなく中世に関心を持つすべての人に必読の書です。金澤氏はICU教授でいま最も活動的で実り豊かな音楽学者のお一人です。
投稿元:
レビューを見る
史料が少ないにもかかわらず、社会的バックグラウンドから丁寧に中世音楽を論じた良い本だ。CDリストも参考になる。ただ、流し読みしてしまったから、肝心の音楽理論が根本的なところは理解できずじまい。著者には申し訳ない。
投稿元:
レビューを見る
中世の大学で音楽がクワドリヴィウムの一つとして扱われていた。なぜ音楽がこの数学に類するか、ということについて調べていくうちに本書に辿りついた。端的にいえば、音の調和の原理をムジカと呼んでいたからであり、芸術としての音楽はその原理から派生した現象と捉えられていたとあった(p.21)。四科に音楽を加えたのは、ローマのボエティウスであった。彼は『算術教程』と『音楽教程』という教科書を書き、これらは修道院や教会学校で数世紀に渡り使用された。こうしたことが基本となり、理論として音楽が扱われるようになったことがわかった。
この他、原理的な音階、ハルモニア論、記譜法、天文に関する理論の紹介がある。ボエティウス以降も「調和」こそが「音楽」そのものであるという考え方が基盤にあった。人間が音楽を創るまでもなく存在しているが、それを演奏という形式で聴けるようにする中で、どのような音楽が快いかを検討することが音楽家の仕事とされた(p.67)。
自由七科をの中に音楽が含まれていることは、大学関係者に有名だろう。ほんの少し大学史から越境し、本書のような音楽史の概説書を覗くだけで、理解を深めることができる。
---
関連論文
竹井, 成美(1986)
アニキウス・マンリウス・セベリウス・ボエティウス(480ころ-524)とその「音楽論」 (その9) : 完全音組織, テトラコルドとジェネラの内容を中心として
https://opac2.lib.miyazaki-u.ac.jp/webopac/KJ00004855347_cover._?key=INENHP
ハート型の楽譜(p.239関係)
http://maucamedus.net/cordier.html
投稿元:
レビューを見る
本書は近所の公立図書館でリサイクル本として出されていたもの。一応,少しは音楽研究なるものをかじっている身として,西洋音楽の歴史も知っておきたいと思っている。本書は講談社メチエの1冊であり,この位軽い本だったらもらってもいいかなと思った次第。通勤電車の一往復半で読むことができた。
プロローグ――グレゴリオ聖歌と中世の教会音楽
第一章 中世の音楽教育
第二章 ポエティウスの音楽論と中世知識人たち
第三章 オルガヌムの歴史
第四章 ノートルダム楽派のポリフォニー
第五章 アルス・アンティカの歴史的位置
第六章 アルス・ノヴァとトレチェント
エピローグ――ルネサンス音楽への道
クラシック音楽とは,その名称が古さを強調しているものの,成立は近代期である。本書の著者の専門がルネサンス音楽で,本書はそれをよりよく理解するために,その前史を辿るものだという。しかも,表題にあるように,音楽史そのものではなく,精神史がテーマ。ということで,クラシック音楽ですらほとんど知らない私にとってはある意味未知の領域。
第一章は音楽教育について論じられ,当時の教会の社会的役割と当時の知識階級における音楽の位置,ヨーロッパで誕生してくる大学の話など,視野は広い。第四章,第五章でもその展開の中心となったパリについても若干都市の構造についても言及している。
やはり中世という時代は音楽にあっても,歴史的記録の問題がある。つまり,音楽作品を記録に残すということが徐々に成立していくという時代であり,その手段である「楽譜」というものが試行錯誤で出来上がっていくという過程を説明することに本書は多くを費やしている。そして,その結果として音楽の形態も変化していく。また,それを担う人物たちの関係,最後の方にはフランスとイタリアの関係などについても言及されている。
まあ,理解できないところは少なくありませんが,こういう読書を重ねて少しずつ理解が深まっていければと思います。