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そのぼくにつきつけられたマイク、マイク、マイク、フラッシュ、フラッシュ――
あのとき、ぼくのなかにぬっと立ち上がり、はじめて目覚めたあの黒い怒り。
やるせない、やり場のない、どうすることもできない、たぎるような――あの黒い怒り。
ぼくはあのときはじめて、自分のなかに――ずっと大人しい小羊チャンだとばかり思ってきた自分の中にこんなにどろどろした怒りや、人を殺すかもしれない激情がひそんでいると知ったのだった。
あんな苦しみ、そしてすべての足元がくずれてゆくような不安と恐怖、そして狂おしくどうすることもできぬ息もできないような怒りの苦痛を、たとえ無関係だといっても、神崎ゆりかに何も好意をもつ理由ひとつなかったといっても、一回くらい寝たからといってそれは何か関係があると思う理由にはならなかったといっても――それでもぼく以外の誰にも二度と味わわせたくない、この怒りを持たせたくないというこのぼくの気持ち。
それを、あの夜ぼくはさんざん酔ったいきおいでゆりかに説明して、るるとのべたてて、こんどはぼくのほうが喋りまくって、ゆりかもわかってくれたと思っていたのだが――
(本文p.67-68)